Web3.0の到来を感じさせるマストドン地域インスタンスの強烈な体験:情熱のミーム 清水亮
マストドン会議3(2017年6月10日開催)の翌々日、6月12日にマストドン会議4が大阪梅田の関西大学梅田キャンパスで開催された。

筆者も登壇のため、それまで一度も訪れたことのなかった大阪の大阪丼や奈良の鹿トドン、京都のマストどすなどにアカウントを作り、地域インスタンスがどのようなものなのか体験してみた。

この体験は極めて強烈で、筆者はそれまでマストドンのひとつの側面しかみていなかったことを深く反省した。

当たり前だが、地域インスタンスは、地域に根ざしたインスタンスである。mstdn.jpやfriends.nicoなどの大手インスタンスでは決して出会うことのできない人々や、それぞれのインスタンスで独特のカルチャーを形成している。

どんな話だったのかという詳しいことは、ITmediaなどにいくつかレポートが上がっているのでそちらを参照していただきたいが、本稿ではマストドン会議4、そしていくつかの地域インスタンスを体験して筆者の認識がどのように変化したのかを述べたい。

まず、大阪から帰る朝の新幹線。普段ならまったく感傷的な気分にはならないのだが、大阪丼の皆さんにお別れを言うと、「しみやん、また来てな」「こんどはみんなで飲もな」と暖かく送り出してくれた。なんなら一度も顔を見ていない相手である。しかし短期間のうちに親しくなったと感じた上での別れは、実際に顔をあわせた人よりも強く僕の心に残ったのかもしれない。

筆者は世の中にはもっといろいろなインスタンスがあるに違いない、と改めていろいろなインスタンスを覗いてみることにした。地域をテーマにしたインスタンスだけでなく、たとえばカメラが好きな人が集まるインスタンスや、猫が好きな人が集まるインスタンス、AIに興味がある人のインスタンスといったものもあれば、東京大学や慶応大学のメールアドレスがなければ入会できないインスタンス(映画「ソーシャルネットワーク」でウィルボトム兄弟が提案したまさにアレだ)もある。

マストドンのインスタンスの運営や開設そのものは、非常に簡単なので誰でもできる。実際、マストどすの管理者の7_nanaさんの本職はデザイナーさんらしい。それぞれが、それぞれの個性を活かしたインスタンスを運営していて、非常にバラエティに富んでいる。日本にあるインスタンスの一覧はこのページが便利だ。

この状況、何かに似ている、と思った人はお目が高い。いろいろな人が思い思いに参加して、色んな人がいろんな工夫を展開するこの状況というのは、インターネットの黎明期にとても似ているのである。`94年頃からWorld Wide Webが日本でも普及しはじめ、インターネットは大学や一部の研究機関だけが使うものから、普通の人が使うものへと用途を広げた。

そのブームの最中につくられたWebサイト群は4種類あった。ひとつは企業が自社の顧客や見込み顧客のために立てたもの、もうひとつは個人が自分の趣味のために作ったもの、もうひとつは仲間と集まるコミュニティとしてのもの、最後はWebサイトをそのものを商売にする方法の模索であり、これはやがて検索エンジンやeコマースという分野へと発展していった。そしてこの状況は、今マストドンに起きていることそのものである。

すなわちWebページの種類だけ、マストドンが発生する可能性がある。マストドンのインスタンス専用のホスティングサービスの出現はまさしくそれで、メールのような手間のかかる通信手段ではなくマストドンのダイレクトメッセージ(DM)で用が足りるようになりつつある。

実際、今月インプレスからオンデマンド出版で発売されたマストドンの解説書は、マストドン上のDMで依頼を受け、DMで打ち合わせして刊行された。Facebookだとメッセージ・リクエストという、相手が受け取ってくれるかくれないかわからない手段に頼るしかない。TwitterのDMは、相互フォローでないと送れない。

こんなことが今、現実に起きつつあるのだ。マストドンはこれまでの20年の民間インターネットの歴史を1年で繰り返す可能性がある。マストドンそのものはTwitterとLINEとFacebookを足して洗練させたようなサービスである。そしてその使われ方は、Webサイトと似ている。

筆者も在りし日のブームの頃は「DirectX東京基地」という、DirectXという技術のまとめサイトを作ってコミュニティを形成した。学生の頃にこのサイトを作ったから、書籍の執筆依頼が来たり専門学校講師の職にありつけたり、はてはMicrosoft本社でDirectXを使ったSDK開発に関わるようになった。インターネットブームというのはそういう副産物をいくつも産んだのだ。

マストドンで同じようなことが起きる可能性は少なくない。実際、既にmstdn.jpを構築したnullkal氏はこれをきっかけにドワンゴに入社した。そういうことはこれからもどんどん起きていくだろう。

今マストドンで起きている現象、これはインターネットがもうひとつ生まれるくらいのインパクトがある。これをさらに加速するために何をすればいいかというのは当然、この20年の時間軸の中で誰もが知っている。そのうえ、これはフリー(自由な)ソフトウェアなので、誰がどのように改造してもいいし、改造したものは同じ条件で公開しなければならない。

こうしたことは大手インスタンスで滝のように流れるタイムラインをぼーっと見ているだけでは決してわからなかった。近いうちにマストドンを使ったeコマースとか、マストドンを使ったニュースサイトとか、応用範囲はいくらでもある。あとは時間の問題だろう。

なんせマストドンは、流行っても流行らなくても関係ないのだ。マストドンはたんに既存のWebの上位互換であり、マストドンを使いたくない人はこれからも使う必要がない。しかし気がつくと自分の使っているサービスがいつのまにかマストドン化している可能性は低くない。実はIPv6より遥かに早いスピードでマストドン化は進んでいくのではないだろうか。

そしてマストドン化されたWebは、もはやWeb2.0ではない。きっとマストドンはソーシャルネット界におけるLINUXであり、Web3.0のためのプラットフォームなのだ。