記念撮影に臨む中国の新婚カップル(本文とは関係ありません)


 先月、中国福建省を舞台とする興味深いニュースが報じられた。水利をめぐって数百年にわたり対立していた同省南安市郊外の梧山村と月埔村が歴史的な和解を実現し、それまで駆け落ち同然で地元を離れていた両村の出身の男女が晴れて結婚を認められたというニュースである。AFP通信の日本語版(「300年の争い終わらせた中国版ロミオとジュリエット」)が報じているので、ご覧になった方もおられるかもしれない。

 もっとも、上記の記事は片方の村の共産党委員会のトップの話しか載せていないので、本件について中国国内における他の関連報道も紹介しておこう

 まずは『北京青年報』が報じた、両村の村人の証言の大意訳である。ちなみに梧山村の証言者の姓が「王」ばかりなのは、この村の住民の大部分が王さん一族だからだ(対して月埔村の大部分は傅さん一族であるらしい)。

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「とにかくガキのころから『大きくなって嫁を探すときには、なにがあっても月埔村の娘だけはやめろ』と両親に言われていてね。なぜなのか尋ねたりはしなかったのだが、とにかく周囲の親戚も友だちもみんなそう言っていたんだ」
──梧山村で通信用品ショップを経営する王権有さん(仮名 36歳)

「年寄りたちはみんな、恨みができたのは清朝のころで、200年以上昔だって言っている。当時、山から流れてくる水の灌漑をめぐって(梧山村と)衝突があったらしい。そのあとで、互いの村は決して通婚しないことと、もし通婚したら呪いを受けるということが取り決められたと言うんだ。まあ、本当にそういう事情なのか、よく分からないし調べようもないんだけど」
――月埔村で民宿を経営する傅維建さん

「田舎の村というのは人間の情がたいそう濃い。もしも先人の決まりを破ればずいぶん居心地が悪いし、この先になにか不吉なことが起きるかもしれんと心配にもなる。そりゃあ禁忌を破った(相手の村と通婚した)人間も実は過去にいたのだが、やはり数はとても少なかった」
――梧山村の王氏一族の長老の1人である王蹺鼻さん

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 もはや当の村人同士もなぜ対立しているのかよく分かっていないものの、とにかく両村は仲が悪かった。地元紙『東南早報』が月埔村の老人に取材したところでは、数百年前の水争いの際に両村を挙げての武力衝突(械闘)が発生して死亡者が出て、それから村民たちはクワを持って隣村との戦いに備える日々が続き、やがて不婚の掟ができたのだという。

 当初の抗争の原因となった水利の問題は中華人民共和国の建国後に解決されたが、その後も1960年代に墓地の場所をめぐって深刻な対立が発生。前出の梧山村の長老、王蹺鼻さんも当時は20代の若者であり、一族の年長者に言われて刃物や棍棒を持って村を防衛したという。彼は「村中の老若男女がみな出てきて村境に集まり、戦いに備えた」と地元紙の取材に対して述べている。

 しかし、近年は掟にとらわれない若者が増え、両村は経済活動などで交流するようになった。AFP通信の報道でも紹介された両村の「ロミオとジュリエット」は、中学生のころから相思相愛で、やがて男女の交際に発展してから7〜8年が経過。しかし村の掟を理由に両家の親や親族から結婚を反対され続けたので、遠く離れた貴州省でこっそり事実婚をおこない、2人の子どもを授かったこともあってなし崩し的に結婚を認めてもらったようである。

地元紙が報じた月埔村と梧山村の手打ちの式典の様子


 今年(2017年)5月1日、この2人の結婚が引き金となり、梧山村と月埔村は手打ちの集会を開いて数百年の対立に終止符を打った。ひとまずハッピーエンドで一件落着というわけだ。

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結婚すれば不思議な力で死ぬことになる

 上記の話だけなら、読者各位はごく珍しいニュースであると感じるかもしれない。しかし実のところ、似たような話は南方の福建省や広東省ではしばしば報じられている。

 例えば2015年5月19日付けの中国のウェブ新聞『大河網』は「広東省のロミオとジュリエット」と題して、上記とそっくりな話を紹介している。

 こちらで反目しているのは、広東省広州市郊外の西洲村の徐さん一族と夏埔村の鐘さん一族だ。現地紙の記者が西洲村の老人たちに取材したところ、もはや理由はよく分からないが100年以上も前から彼らは夏埔村と仲が悪いそうで、両村の男女が結婚すると村人が不思議な力で死ぬことになると信じられているらしい。

 報道によれば、この両村の「ロミオとジュリエット」はなんと複数いる。まず西洲村の徐天くんと夏埔村の鐘欣さん(ともに仮名)は、お互いに中学生だった2007年に徐天くんが愛の告白をしてから長年のカップルであり、すでに交際は8年になるが、村の掟にこだわる両親の反対によって結婚できていないという。また、夏埔村の鐘強くんと西洲村の徐莉さん(ともに仮名)も中学生のときにいったん付き合ったものの両親の反対で別れさせられ、3年前に再度交際を始めたが、いまだに親を説得できていないらしい。

「運悪くがんになった村人がいて、(西洲村の)村人たちはこれも祟りだと言うんです。なので、(夏埔村の人との)結婚は、お年寄りたちがみんな反対するんです」とは徐天くんの弁である。彼が地元紙の記者に語ったところでは、すでに10組以上のカップルがこの掟によって破局を迎えたらしい。冒頭の梧山村と月埔村とは違い、こちらの両村はいまだに和解していないらしく、より深刻な状況だ。

 ほかにも報道は多い。2013年1月には、福建省晋江市の浦边村と荘頭村が100年の不婚の掟を解消して歴史的な和解。両村のロミオとジュリエットであった浦边村の許明くんと荘頭村の陳紅さんが晴れて結婚できるようになった。また、2016年には同じ晋江市の井上村と内林村も、110年の不婚の掟を破棄して和解したという。

 2017年3月にはもっとすごい話も報じられている。同じく福建省晋江市の8つの村々は、かつて400年間にわたりバトルロワイヤル的に相互に反目し合い、互いの通婚を禁止するという鉄の掟を結んでいたが、ついに時代の流れに従って和解を決めたというのだ。結果、2014年にこっそり掟を破って結婚していた梧山村(冒頭の梧山村とは別の村)出身の蘇景東くんと西畲村出身の陳菁さん(ともに仮名)は大喜び。こちらは関係する村の数が多いだけに、彼らの他にもロミオとジュリエットがもっと大量にいた模様である。

 近年、安倍総理が習近平政権の世界戦略である一帯一路政策に協力を表明したり、中国都市部を中心に広がる先進的なスマホ決済システムに日本のテック系の人たちが驚嘆の声を上げたりと、中国の国際的なプレゼンスの増大やデジタル社会化の進展がニュースを賑わせることが多い。こうした「大国・中国」を実感させる話は間違いなく事実だが、一方で農村部において数百年来の「村の掟」を理由に、今日もなお前時代的なロミオとジュリエットがぼこぼこ生まれているというのも、やはり中国の現実である。

 かの国の奥深さとカオスぶりをしみじみと実感させられる話ではあるだろう。

2014年1月、中国内部情報告発サイト『中国茉莉花革命』が報じた、広西チワン族自治区の農村の戦い。廖さん一族が、敵の劉さん一族の村に討ち入るところである。


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筆者:安田 峰俊