地域の課題を「自分事」化する、鎌倉から広がるブレスト文化

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2013年、鎌倉を盛り上げるために始まった「カマコン」について、事務局の渡辺みさきとひとしきり話に花を咲かせた後、彼女はぽつりとこう漏らす。

「定例会のゲスト名簿をつくっていると、一体いま何が起きているんだろうという不思議な感覚になるんです」

毎月定例会に参加したいという地方の「ゲスト」が後を絶たず、それが彼女には何かの胎動のように思える。「先日も鳥取県から15人がみえました。地方創生を担当する県庁職員の方だけでなく、学生さんもいらしたのです」と驚く。

カマコンの定例会とは、ブレスト(ブレーンストーミング)を行う場である。面白がったゲストは地元にもちかえり、現在まで23の地域に飛び火。福岡市、高崎市といった都市部から人口9028人の白馬村まで定例会が定着している。


毎月の定例会には約100名が参加。建長寺で開催されるハッカソン「ZenHack」など、これまでに多数のプロジェクトを実現している。

なぜブレストが地域活性化なんだ? 政府が言う地方創生と違うじゃないかと思う人も多いだろう。しかし、「ブレストは地域の活動に使える」と構想した、カマコンの中心人物、「面白法人カヤック」CEOの柳澤大輔はこう言うのだ。

「ブレストによって、自分たちのまちを良くしようという解決志向型の思考になります。自分の住むまちがどんどん好きになるし、参加することが楽しいと思う人が増えていくのです」

その確信に至る体験を、柳澤はこう語り始めた。「人はブレスト体質というものになれるのだなと、発見したんです」

持論を述べない、否定しない

カマコンは、13年、鎌倉を拠点とするIT企業7社が集まって発足した「カマコンバレー」に由来する。シリコンバレーにちなんだ名称だが、若き7人の起業家が意識したのは、「鎌倉宗教者会議」だった。東日本大震災の被災者を追悼するため、キリスト教、仏教、神道の宗教者が集うものだ。

教会の十字架を前に、袈裟姿の僧侶たちがお経をあげる。この宗派を超えた光景に感化され、7人は「競争よりも協力」「多様な価値観を尊重しあう」という思いで、鎌倉を盛り上げることにしたのである。

このとき、確信的に「ブレストというスタイルを使ってやってみたい」と言い出したのが、仲間たちから「ヤナさん」と呼ばれる柳澤大輔であった。

「楽しい人と面白いことをする」を徹底追求するカヤックは、ユニークなウェブサービスを提供する集団として、すでに国内外の賞を数多く受けていた。地域を盛り上げるための最適解として、彼はカヤックでの経験を思いつく。

「1998年の創業から振り返ったとき、カヤックとして絶対に続けなければならないのは何かと自問したら、それはやはりブレストでした」と言う。日常的にブレストを行う場を設けているだけでなく、「年に2回、全社員で『ぜんいん社長合宿』という研修を行っていて、そこでもグループに分かれて6時間以上ブレストをやっています。みんなが社長になったつもりで、アイデアを出す。結局、楽しく働くには、会社のことを自分事化できるブレストという手法しかないのです」

カヤックに根づいたブレスト文化のルールはこうだ。
 
1. 他人のアイデアに乗っかる

連想ゲームのように、人のアイデアにひらめきをかぶせていくので、意外とアイデアがぽんぽんと出やすくなる。柳澤は「人の話をしっかり聞いていないと、アイデアは出ません。お互い真剣に聞くから、チームワークが非常に良くなり、仲良くなれる」と言う。

2. アイデアは質より量

「ブレスト終了時に、アイデアがたくさん出ていたら成功です。質は問いません。持論を述べたり、人のアイデアを否定したりしていたら、数が出ない。これがブレスト体質への体質改善となります」

この文化がカヤックの経営理念につながる。「つくる人を増やす」という理念だ。「つくる人」の定義を、柳澤は各方面で語っている。

曰く、「自分の利益を優先することでは、いいものをつくれません。相手の立場になって深く考えてつくる人が増えると、それぞれの価値を尊重する社会が実現します」。だから、世の中に「つくる人」を増やしたいのだ、と。

カヤックの「サイコロ給」(社員が給料日にサイコロを振って、出た目の分だけ基本給に上乗せ)など、突飛さばかりがメディアで注目されるが、柳澤がやりたいことは先述の宗教者会議のように、「みんなで良くしたい」に尽きるだろう。

13年、手始めに「市議選を盛り上げよう」と、カマコンをスタート。投票率を上げるために、「投票に行ったら割引できる”選挙割”の飲食店」など、ふんだんに仕掛けを用意した。ところが、蓋を開けてみると、過去最低の投票率。落胆する者もいたが、この体験こそ大きな意味をもつ。彼らは結果より、人を巻き込むことに集中していく。

「カマコンのゲストには、地域活動をしている方を呼んで、抱えている課題をプレゼンしてもらいました。それに対して応援のブレストをしていく。すると、誰もがやる気になるし、手伝う者も増えていく。ブレストの結果をプロジェクトとして発表し、実行すると、さらに人が集まる。こうして、人が人を呼ぶ流れができていきました」

会社と地域のいい循環をつくる

15年、由比ヶ浜の海岸のマナーをどうにかしたいという声があがった。入れ墨を入れた者や飲酒をする者が増えて、子供たちが遊べないというのだ。

カマコンで解決策についてブレストするうちに、「子供たちが楽しく参加できるサンドアートをやったら」というアイデアが浮上。すると、カマコン参加者に芸大の彫刻科出身者がいるとわかり、大きな砂像をつくるプロジェクトに発展した。こうして、龍の上に平和の象徴の鳩が載った砂像が完成。

「それをお坊さんが見つけて、『これはすごい』と海岸法要をするようになり、最終的にはお札が入って仏様になってしまいました」と、柳澤は笑う。


カマコンの有志がつくった砂像「海のまもり鳩」。費用はカマコンが企画・運営するクラウドファンディング「iikuni」で調達した。

プロジェクトの最初の目的から離れたものの、結果に関係なく、多くの人が楽しんで参加する点に、カマコンの面白さと意義があるといっていい。大切なのは、そのプロセスと意識の変化なのだ。

柳澤が地域にブレストを持ち込んだ理由には、「会社の評価からの解放」という考えもある。仕事に成果と評価はつきものだ。会社で「あいつは仕事ができない」と見られても、ブレストで地域のことを自分事化して楽しめばいいじゃないか、というわけだ。

「それに」と彼は付け加える。「住環境で楽しくなれば、元気になって会社に行けます。いい循環になります」。だから、柳澤は最初からカマコンを鎌倉で終わらせようとは思っていなかった。企業が社員の地域参加をサポートし、相乗効果でみんなが元気になる。この仕組みがどの地域にもあれば、と彼は真顔で語るのだ。

2014年、カヤックは上場した。従業員数は250人を超え、4つのグループ会社を抱える。柳澤は次の狙いに移ろうとしている。地方に根づいた上場企業として、企業の力と地域の特性を組み合わせ、地方創生をどう絡めていくかー。

「やっぱり企業と市民のカマコン的なフォーマットは必要だと思うんですよね」と、柳澤は淡々と語り続ける。ブレストは決して新しい手法ではない。しかし、息吹が吹き込まれた「脳内インフラ」として、人と人がつながっていく。柳澤がつくったのは、全国をつなげる「目に見えないインフラ」なのかもしれない。