金日成主席の生誕105周年慶祝中央報告大会(2017年4月15日付労働新聞より)

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朝鮮労働党の機関紙・労働新聞は5月12日、南浦(ナムポ)有色金属圧延工場の初級党委員会の副委員長だったチェ・ギヒョンさんを偲ぶ記事を掲載した。チェさんは持病を抱えつつも、休日返上で建設現場に通い熱心に働いていたが、ついには激しく吐血し、亡くなってしまった。

日本ならば、ブラック企業の労災死亡事故か過労死事件として社会からの激しい批判を巻き起こしそうな話だが、北朝鮮では美談として取り上げられるのだ。もっとも、かの国の建設現場では一度に数十人から数百人が死亡する事故が多発しているぐらいだから、一労働者の過労死が問題化する余地などないのだ。

(参考記事:北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

そして時に、こうした過労死には次のようなエピソードが添えられる。

前述した記事によると、チェさんは生前、工場内に掲げられた故金日成主席と故金正日総書記の肖像画の額縁を金属製から木製に変えることを提案した。額縁の材料に、湿気に強い高価なシナノキを使おうと熱く語る彼の姿にほだされた従業員たちは、遠く離れた慈江道(チャガンド)から材料を取り寄せることにした。かくして、工場内のすべての肖像画の額縁はすべてシナノキの額縁に収まった。

企業の業績や、従業員の福利厚生や安全管理には全く役に立たない肖像画に、多額の予算を注ぎ込むことが、北朝鮮では美談として扱われるのだ。ましてや命を投げ出して肖像画を守った人は、英雄として祭り上げられたりもする。

しかし実のところ、当局はそのようにして亡くなった人に何ら特別な配慮を行わないという。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、穏城(オンソン)に住んでいた30代男性は、昨年9月に現地を襲った大洪水から金日成・正日両氏のモザイク壁画を守ろうとして、命を落とした。ところが、当局からは見舞いの品はおろか、お悔やみの言葉すらなく、近隣住民の間から「かわいそうだ」との声が上がっている。

当局は、火災や水害などが発生した際には、最優先で肖像画を守ることを指示している。人々は内心「くだらない」と思いつつも、処罰を恐れていやいや肖像画を守る。その結果、命を落とす人が続出しているのだ。

だが、当局はその全てを美談として取り上げるわけではない。

プロパガンダの効果があるケースに限り、エピソードを広く紹介し、遺族に対して様々な支援を行うのだ。「使えない」ケースは放置し、葬儀費用の援助すら行わない冷たい仕打ちをしている。

当然のことながら、人々の間からは疑問の声が湧き上がっている。

「ミサイルを打つカネがあったら、亡くなった人の墓石ぐらい立ててあげればいいのに」 「物質的な補償はできないとしても、遺族にお悔やみの言葉すらかけてあげないのか」

こんな悲しい話もある。

茂山(ムサン)在住の40代男性は災害の中で、肖像画を守るために、息子を見殺しにしてしまった。今頃になってその愚かさに気づいた彼は、後悔のあまり泣き暮らしている。

ところが、近所の人々からは「息子が水に流されているのに、肖像画を引き上げることを優先するなんて、頭がおかしい」と陰口を叩かれる有様だという。