高齢者の月別死亡率は、冬に高く夏に低い。しかし、がん、心疾患に次いで日本人の死亡原因第3位となる肺炎については季節に関係がない。理由は、死亡する9割以上が高齢者という誤嚥性肺炎が多いためだ。
 昭和大学病院呼吸器科の担当医は、こう説明する。
 「高齢社会になったいま、中高年者はもちろん、若い方も他人事とは考えず、まじめにこの病気のことを考えて欲しいと思います。誤嚥性肺炎は、食べ物が気管に入り込むことで口の中の細菌が肺まで達し、炎症を起こすと考えている人がいますが、正しくはありません。実態は、唾液や痰などの微量な誤嚥が原因で、寝ている間に肺に入り込むことで発症するのがほとんど。認識を高めておく必要があります」

 健康な人でも誤嚥は発症するが、咳やむせ返り(咳反射、嚥下反射)によって排菌する。喉には空気の通り道である気管と、食べ物の通り道である食道の2本の管が通っている。これらは隣接しているが、脳の指令でそれぞれうまく振り分けられる仕組みになっている。つまり、ご飯を食べる時に食べ物が喉に入ってくると、脳がそれを感知して気管を閉じる指令を出すようになっている。
 しかし高齢になると、この伝達がスムーズにいかず、誤って気管に食べ物を入れてしまうことがある。すると、食べ物や唾液とともに細菌までが肺に入り込み、炎症を起こしてしまうのだ。
 「元気な人は雑菌が気管や肺に入り込んでも、血液中の貪食細胞(細菌や死んだ細胞などの粒子を消化する能力を持つ細胞)などが退治するため、肺炎は発症しない。しかし、高齢者は加齢により機能の低下が著しく、咳やむせ返りの動きが抑制されてしまいます。そのうえ、気道の一部が壊れていて、雑菌が定着しやすい。これに、風邪症状を起こす上気動感染や飲酒などの要因が加わることで、自分でも気がつかないうちに誤嚥し、肺炎を起こしてしまうのです」(同)

 しかし、その治療法だが、腹を切開して胃に管を通し、直接食べ物を流し込む胃瘻という方法があるが、それでも誤嚥性肺炎は起きる。理由は、そもそも雑菌などに対する抵抗力が落ちているためで、誤嚥性肺炎自体、食べ物が関係しないケースもあるのだ。
 誤嚥性肺炎で亡くなった著名人では、直木賞作家の深田祐介さん(享年82歳)、落語家の3代目桂米朝さん(同89歳)、歌舞伎役者の中村梅之助さん(同85歳)、放送作家でタレントの永六輔さん(同83歳)などがいる。最近では、今年5月15日、日本のミュージカル文化の礎を築いた劇団四季創立メンバーで俳優の日下武史さんが、静養先のスペインで亡くなった(享年86歳)。現地での詳しい事情は分からないが、国民皆保険制度がある日本とは違い、異国の地・スペインでは治療も難しかったのかもしれない。胃瘻処置も勧められず、過剰な延命治療もなく、穏やかな最期を迎えたという話が伝わっている。