今夏に結成30周年を迎えるスピッツ。彼らの楽曲はなぜ多くのミュージシャンにカヴァーされるのか

 ロックバンドのスピッツが6月で結成30周年を迎える。これに伴い、7月5日に、シングル・コレクション・アルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』をリリースする。初期の頃から今に至るまで、彼らの楽曲は沢山の人に愛され続けている。その点に関してはリスナーだけでなく、アーティストから見てもそうだろう。

 それを示すようにスピッツがカヴァーされる事例はとても多い。最大のヒット曲である「ロビンソン」(1994年)が音源としてカヴァーされた回数は38回。最多は「チェリー」(1996年)で52回となっている。さらにYouTubeで<スピッツ カヴァー (曲名)>で検索してみると日本のみならず海外のカヴァーまでもが飛び出してくる。動画の数はざっと「ロビンソン」が約2万5千件、「チェリー」が約1万5千件と凄まじい数字だ。このスピッツの<歌いたく(演奏したく)なる理由>は一体何だろうか。

 この理由は単純。彼らの楽曲は<シンプル且つ、良い曲>なのである。と言ってもこれは容易な事ではない。これを示すために、1番良い例である「チェリー」を題材にごく簡単な音楽構造を解説したい。

日本人の琴線にふれる和声進行

チェリー

 まずAメロで使われているのは「カノン進行」と呼ばれているコード進行(和声進行)だ。これは「パッヘルベルのカノン」(1680年前後)が初出で、バロック時代から使われている強度のある(ポップな)進行のひとつである。

 この進行は近代以降の西洋音楽輸入とともに日本にも伝わったと思われる。そして、この進行を基にしたポップスが日本で今なお生み出され続けており、例えばいわゆる「卒業ソング」はこの進行が実に多用される。

 さらにこの「チェリー」は、サビにも日本人の琴線に触れる和声進行が採用されている事も挙げておく。

<型>を使って生み出す美

CYCLE HIT 1991-1997
Spitz Complete Single Collection

 さて、このような難しい話を理解する必要はない。ただ、この楽曲が音楽的な<型>を使って出来ているという事だけを理解してほしい。例えば、俳句の<五・七・五>や物語の<起承転結>の様に、一定の<型>を使って美を生み出すというのはとてもセンスが要るのはご存知の通り。それと同じ事がこの「チェリー」の中で起きている。

 誰にでも馴染みのある<型>に沿いながらも、メロディやリリック、サウンドに対する個性で<良い歌>が紡がれているのだ。そんな<普通の日常にある、刺激的な出来事>の様な曲が「チェリー」なのではないだろうか。この点はスピッツの魅力の大きな一部分でもあるだろうと思われる。

 さらに「チェリー」はピアノで言うと、ほとんどの音が<ドレミファソラシド>の白鍵盤で構成されている。そのためか、ピアノやギター弾き語りの入門曲とされる事も多い。96年の発表当時、これを弾いて練習したであろう第一世代は、今30代半ば前後。この曲から音楽を始めた世代が、今音楽シーンで活躍しているといっても過言ではない。その想い入れからカヴァーするアーティストが多いというのもあるだろう。この曲を<型>にして学んだミュージシャンがどれだけ多い事かは想像に難くない。

深く浸透する“共有”の財産

 また、今もなお入門曲とされている事や、第一世代に歌い継がれている事もあり「チェリー」の愛聴者は既に第二、第三世代まで到達していると思われ、もはやJポップのスタンダードと化している。

 ジャズの例を見ても明らかだが、スタンダードソングは次世代の感性に対してかなり重要な部分を担う。メロディラインの弾き方、アレンジ、歌い方などなど、もしかしたら、スピッツの音楽性は日本の音楽シーンのかなり重要な共有財産として、ますます機能していくのかもしれない。(文=小池直也)