『映画 山田孝之3D』©2017「映画 山田孝之」製作委員会

写真拡大

俳優として多彩な役を演じるだけでなく、CMで国籍を超えた人物になりきったかと思えば、自身の実録本を出したり、赤西仁と音楽ユニットを組んでデビューシングル「Choo Choo SHITAIN」をリリースしたと思ったら突然解散したり、その予測不可能な楽しいパフォーマンスを続けて私たちを驚かせてきた山田孝之がまたまたやってくれた!

2017年に見ておくべき映画、厳選25本!【日本映画編】

ドキュメンタリードラマ「山田孝之の東京都北区赤羽」(15)、「山田孝之のカンヌ映画祭」(17)で組んだ松江哲明監督、山下敦弘監督と一緒に、今度は自らのドキュメンタリー『映画 山田孝之3D』を作り上げてしまったのだ。

いったいどこまでがリアルで、どこまでがフェイクなのか? 彼は何を目指しているのか? そもそも山田孝之とは何者なのか?

ここ数年、彼と最も密接に仕事を続けてきた松江、山下両監督へのインタビューを通して、その真相に迫っていきたい。

山田孝之が「自分を探したい」と言い出した

『あんにょん由美香』(09)、『トーキョードリフター』(11)、『フラッシュバックメモリーズ3D』(12)などのドキュメンタリー映画で知られる松江哲明監督と、『オーバー・フェンス』(16)、『ぼくのおじさん』(16)などの山下敦弘監督。ふたりと山田孝之とのタッグは果たして必然だったのか?

まずは初めて出会ったときの話から聞いてみることにした。

――山田さんと初めて会ったのは、「山田孝之の東京都北区赤羽」のときですか?

松江 僕はそうですね。

山下 僕はその前に、『BUNGO〜ささやかな欲望〜』(12)というオムニバス映画の短編『握った手』で出会って。本当に短い撮影期間でしたが、それが最初です。

――でも、今回の『映画 山田孝之3D』に至るすべての始まりは“赤羽”からですね。

山下 そうです。山田くんが「自分探しをしたい」と言い出して、ちょうどそのときに撮ろうとしていた映画が頓挫した僕のところに話が来たんです(笑)。

――それで、山下さんが松江さんを誘ったわけですか?

山下 そうです。

松江 そうです。ただ、僕は当時北区に住んでいたので、山田くんが北区に来るなんて、面白そうだけど、大変なことをするなと思いましたよ。

――「山田孝之のカンヌ映画祭」の企画も、“赤羽”の撮影中からあったんですか?

松江 山田くんが“カンヌ”の話を言い出したのは、「勇者ヨシヒコと導かれし七人」(16)を撮っていたあのときです。

山下 “カンヌ”の第一話を観てもらえば分かると思います。

――観ましたよ。ゴジラも映りましたよね。

山下 僕が山田さんに呼ばれて、“ヨシヒコ”を撮っている東宝スタジオに行ったんです。

松江 でも、“赤羽”のときから「自分でプロデュースをしてみたい」って言ってたよね。

山下 それは何度か聞いた気がする。

松江 山田くんが主演だけでなく、自らも企画で名を連ねてネット配信ドラマを地上波のドラマとしてリメイクした「REPLAY & DESTROY」(15)も確か“赤羽”の後だったと思うし、自分が入ることで作品が面白くなったり、制作がスムーズになるならプロデュースもやりたいという話は聞いてましたね。

山下 決められたことだけをやる、俳優のスタンスにジレンマもあったみたいです。一緒に物を作るんだから、みんなちゃんとアイデアを出し合おうよ、作品のことをもっと真剣に考えようよという意識が根底にあって、物作りに積極的に関わりたい人だと思いました。

――山田さんが“赤羽”や“カンヌ”の監督に山下さんを指名したのは、先ほどの『BUNGO…』での出会いがあったからですか?

山下 それは関係ないですね。『BUNGO…』のときは役にすごく集中しているから、ストイックで、あまり喋らない人だなという印象が強くて。

ちゃんと喋ったのは『BUNGO…』の初号試写の後で、喫茶店で3〜4時間ぐらい話したんですけど、そのときに初めて彼がいろいろなことを考えているのを知りました。

山下&松江「山田くんは僕の映画を観ていない」

――でも、山田さんが山下さんたちと組みたいと思ったから、“赤羽”も“カンヌ”も声がかかったんですよね。

山下 でも、僕の映画観てないんですよ(笑)。

――えっ、そうなんですか?(笑)

松江 そうそう、観てない(笑)。

山下 『苦役列車』(12)だけは森山未來くんとの対談のために観たけれど、それもちゃんと観たのか疑わしい。『リンダ リンダ リンダ』(05)のDVDも封をしたままだったし(笑)。

松江 “赤羽”のイベントでそのビニールの上にサインしてプレゼントしたから、もらったお客さんも開けられない。もう1本買え! みたいな感じになったんですよね(笑)。

山下 観てないのはショックでしたね(笑)。

いやはや驚きの事実が明らかになったが、それではなぜ一緒にやり続けてこられたのか? 今回の『映画 山田孝之3D』に話題を移すとしよう。そこから何か見えてくるかもしれないから。

なぜ、山田孝之を3Dにしようと思ったのか

――今回の映画と“カンヌ”はセットで企画されたんですか?

松江 いやいや、“カンヌ”に映っていたように、『穢の森』という映画の企画が失敗したから、山田くんだけで映画ができないかって話になり、僕が「3Dで作るのはどう?」って提案したんです。

山下 「これを映画にしましょう」ってね。

――なぜ3Dにしよう思ったんですか?

山下 そこは松江くんのアイデアですね。

松江 僕は山田くんが書いた「実録山田」(16)が面白かったんですよ。エッセイのつもりで読んでいくと急に物語になったり、対談が始まったりして、ふざけて書いているのかなと思ったら、ジ〜ンとする描写もある。

自分を俯瞰したり、主観になったりするそのゴチャゴチャした感じもいいなと思ったので、山田くんが「自分自身を映画にしたい」と言ったときに、「『実録山田』はどう?」って聞いたんです。

あの本のニュアンスを、山田くんのお喋りで伝えられたら楽しいだろうなと思って。それからどう映像化したらいいんだろう?と考えて、3Dに行きついたんです。

――なぜ3Dなんですか?

松江 僕が『フラッシュバックメモリーズ3D』を撮ってから5年が経つんですけど、3Dを映像が飛び出すという使い方ではなく、複数の情報を何層にも分けて同時に見せる映画をもっと作りたかったんです。

他にもないし。ただ、『フラッシュバックメモリーズ3D』のときのように過去と現在を同時に見せるのではなく、今回は3Dで人の脳内を見せる映画を作りたくて。それがこの企画ならできると思ったんです。

――山田孝之さんの脳内を同時に見せる試みですね。

松江 そうですね。山田くんがカメラ目線でずっと喋っていくんですけど、その発言と敢えて合わない、ひらのりょうさんのシュールなアニメーションや長尾謙一郎さんの不条理に満ちたナンセンスな絵を入れて。

そうすることで、山田くんの脳内を見せることができたら面白いと思ったんです。

山田くんから提案を却下されたことはない

――そのアイデアを聞いた山田さんの反応は?

松江 「それはないですね」とは言わなかったですね。

山下 そのころ僕も、“赤羽”では山田くんが俳優を始めてから現在に至るまでの紆余曲折のエピソードを聞いたから、今回は何となく聞いていた中三の二学期に東京に転校してきたことや家族が崩壊したことなどのプライベートの話をもう少し掘り下げたいたなという想いがあって。

松江くんから3Dのアイデアが出たときに、時間軸を設定して、山田くんが現在から0歳まで遡っていく構成が閃いたんです。

松江 最初は、山下くんやほかのスタッフから「それだけで映画になる?」という意見もありましたね。

でも、僕は絶対に映画になるという確信があった。それは『フラッシュバックメモリーズ3D』を撮って、3Dと2Dの映画では時間の流れ方が違うことやドキュメンタリーが1テーマで押し切った方がいいこと、3Dならそれが成立することが分かっていたから。

ただし、「尺は70分台ね」って言いました。そうやって、僕は「3Dで撮る」「80分以内」「山田孝之はカメラ目線」「長尾さんの絵とVIDEOTAPEMUSICさんの音楽を使う」といった外枠を決めて、山田くんに聞く内容などは山下くんと本作の構成を担当した竹村武司さん(フリーの構成作家)に考えてもらいました。

ここで、松江の口から彼ら3人を繋ぐ糸口のようなコメントが飛び出した。

松江 でも、“赤羽”からずっと一緒にやってきたけれど、さっきも言ったように山田くんから「それはないですね」ってこちらの提案を却下されたことはなくて。

言う前に分かるんですよ。これは山田くんの好みのタッチだろうな〜とか、長尾さんの絵は好きだろうな〜っていうことが。

山下 そこがピタっと合うのがスゴいよね。僕の映画も観てないのに(笑)。

松江 僕の映画も観てない(笑)。“フラッシュバック”も絶対に観てないですよ。

山下 少しぐらいは下調べをしているのかな〜と思っていたけれど……。

松江 まったく観てない。

山下 平気で「1本も観てません」って(笑)。

松江 逆にこだわりがすごく強そうだけど、あの人はNGがあまりない。僕らも僕らで、これを言ったらたぶん嫌がるだろうな〜とか、これを言ったらスベるな〜というのが分かるから、そこは不思議な関係です。

キワドイ質問から始まる『映画 山田孝之3D』

映画は椅子に座った山田孝之に山下監督が次々に質問をぶつけていく構成だが、その質問内容は役作りに関することから好きな女優、幼少期のイジメの話や家族が崩壊した話、くだらない下世話なものまでバラエティに富んでいる。

――けっこうキワドイ質問もありましたが、あれはおふたりで考えたんですか?

松江 いや、構成の竹村さんです。

山下 僕らも意見は言いましたけど……。

松江 竹村さんの方が山田くんとのつきあいが長くて。10数年前から知っているから、質問は竹村さんが考えてくれましたね。

――おっぱいの話からいきなり聞くのは完全に戦略だと思いました(笑)。

松江 そうですね。竹村さんが「おっぱいの話から絶対に始めて」って。山田くんをBSスカパー!のバラエティ番組「BAZOOKA!!!」に呼んで、おっぱいの審査員を実際にやってもらったのも竹村さんですからね。

山下 だから、今回もおっぱいの話から始めて、絶対にいい話にしないという信念のようなものがあったみたいですけど、僕も僕で綺麗にまとめないゾ!っていうテーマがありました。

実はインタビューだけ繋いでみたら、すごくよくできた内容になっちゃったんです。でも、山田孝之の頭の中を整理したらつまらないと思ったし、もっと崩したいという欲求が生まれてきて。

そのサジ加減が今回はすごく難しかったですね。

――山下さんの聞き方が横柄だったり、山田さんを挑発するような物言いに聞こえたところもありましたが、あれはワザとですか?

山下 ワザとじゃないです。山田くんとの関係性でああなっただけで、特に意識はしていない。それこそ出過ぎてもよくないので、僕の言葉をすべてカットしてもいいかなとも思ったんです。

松江 そうそう。

山下 でも、山田くんに必要以上に感情移入しているところがあったので、編集のときに僕のそういう一面も入れた方がいいという話になって。

松江 引っ越しの話とかね。

山下 転校の話とかは自分とシンクロするところもあったので、最初はもっと即物的なものにするつもりだったんですけど、ああいう仕上がりになりました。

松江 でも、僕は撮っているとき、すごく楽しかったんですよ。特別な時間でした。

――松江さんの立ち位置は?

松江 山下くんの横にいました。竹村さんも一緒です。

山下 僕が聴く係でしたけど、3人で本当に連携して……。

松江 山田くんには質問内容を書いた紙を見せずに、年代を分けて2時間ずつ3回戦やってもらって。

初恋の話や家族の話はその最後の2時間で聞いたんですけど、撮ってるときにこれはすごく面白いドキュメンタリーだなという実感があったんです。

ただ淡々と話を聞いているのではなく、聴く流れができて、どんどん山田くんの中に入っていくことができた。

しかも、4Kの3Dカメラを4台使ったこんなドキュメンタリーはなかなか作れない。

ふたりのカメラマンに、こういうときは客観で撮って、この話のときは寄りましょうという相談をしながら撮る、すごく贅沢で楽しい現場でしたね。

山田孝之の答えは「本当のことなのか? 芝居なのか?」

――後から思ったんですけど、山田さんが質問に次々に答えていく構成は江戸川乱歩の初期の短編「心理試験」(25)みたいですね。

山下 「心理試験」?

――罪を犯した主人公が担当判事が得意とする“心理テスト”に備えて予めトレーニングをするんですけど、自らが起こした犯罪に関わる質問だけ逆に必要以上に早く答えてしまって、名探偵の明智小五郎に犯人であることを見破られる展開です。カメラ目線で質問に淀みなく答える山田さんを見ていて、その設定を思い出しました。

松江 僕がそういうスタイルでやってみたかったということがひとつあります。

日本のドキュメンタリーって被写体と聴き手である監督との関係性を問うものが多いけど、僕はそれだけがドキュメンタリーだとは思わない。

今回はエロール・モリスのドキュメンタリー映画『フォッグ・オブ・ウォー』(03)をカメラマンに撮影に入る前に観てもらいましたが、いろんな体験をした人がカメラ目線で語っていく証言ドキュメンタリーを作りたいなと思ったんです。

――それにしても、山田さんはほとんど躊躇することなく何でも話しますよね。一度だけ「しつこいよ!」と言いましたが(笑)。

松江 “赤羽”のころから撮影の合間にいろいろな話を聞いていたし、そういう意味では取材に3年かけたようなものですからね。

山下 だから僕らが聞いたことのある話や、何となくニュアンスで知っていたエピソードも入っています。

松江 それに、今回の撮影に入る前にもカメラを回さずに取材をしたので、山田くんの方でも“この話をこのタイミングで聞いてきたか?”と思うときがあったんじゃないかな。

山下 事前の取材で喋ったことを映画でも意外と同じようにストレスなく喋っているので、撮影しているときは本当に嘘がないんだなと思いました。

でも、最後の最後に山田くんがあんなことを言うから、あれ、どっちなんだ?ってよく分からなくなりましたね。

――山下さんも疑問に思ったんですね。

山下 現場では思わなかったんですよ。6時間たっぷりいい話が聞けたから、山田くんが洒落であんなことを言ったんだなと思ったんですけど、繋いだときに、芝居の可能性もあるよなっていうことに気づいて。

彼が語ったことはすべて嘘なのか? でも、嘘なわけないよなって複雑な気持ちになりました。

果たして、対峙した山下監督までもそんな想いにさせた山田孝之は、今回の映画で何をやりたかったのだろうか? そこを考えてみるのも面白い。

何しろ山田孝之は「闇金ウシジマくん」(10〜16)では風貌だけでなく肉体まで改造して闇金会社の社長・丑嶋馨になりきり、『凶悪』(13)では今回の劇中でも山田自身が語っているように、台本に縦に線を引き、10段階に分けた主人公の狂気のレベルをシーンごとに設定して、その通りに体現しているのだ。

その緻密な役作りについては筆者も取材で本人の口から聞いているが、一方では山田孝之と会ったことがあるのは取材の場だけで、その素顔もプライベートも姿も知らない。

そこでふと浮かんだのが、山田孝之はこの映画で、世間が知る山田孝之という俳優をどこまでボロを出さずに演じきれるのか? に挑戦したのではないか? という考えだった。

――今回の劇中でも、「如何に自分を洗脳して役になりきるか」って言ってますものね。だからすべてが芝居で、映画に出てくる実家があった場所もフェイクだったりして(笑)。

山下 あれすらも(笑)。でも、6時間撮影したときに「山田くんの居場所はどこなの?」って聞いたら、「居場所なんかない。この映画を作っているいまは、ここが僕の居場所です」って言うから、僕はグッときちゃって(笑)。

松江 そうそう(笑)。

山下 キュンとするけど、セリフなのか本心なのか、どっちなんだ?って思っちゃう(笑)。

――結局、よく分からないわけですね(笑)。

松江 そうですね。“カンヌ”でも芦田愛菜さんと話しているときに、いきなり息子の話をし出して(笑)。「息子のためにオモチャの電車の本を買ったんだ」って言ったり、子供の口調で「湘南新宿ライン〜」って真似たりするから、あっ、この人お父さんだったって思い出して。本当に面白いですよ(笑)。

山田孝之はいったいどこに向かうのか?

世の中には知らない方がいいこともある。それこそ、俳優の素顔を知っても仕方がないし、それは逆に作品を観るときの邪魔にしかならない。

松江 山田孝之がスゴいのは、本当か芝居か、ということよりもあの人の“人間力”が上回っているところですね。それも作品の中だけの話じゃなく、社会全体を包み込むような器のデカさがある。

それがいまの国にフィットしているというか、社会が山田孝之を必要としているような気がします。

山下 なんだか選挙演説みたいだね(笑)。

松江 僕はビートたけしさんを知った80年代は、たけしさんだけじゃなく、明石家さんまさんや片岡鶴太郎さん、山田邦子さんといった人たちが楽しいことをグチャ〜とやっていて面白かったと思うんだけど、山田くんは彼らと同じように時代に必要とされているというか。

世間がこの人になら騙されてもいいって思える、そういう人のような気がしますね。

山下 本人もメディアで遊ぶのが好きだよね。映画やドラマはもちろんだけど、書籍から歌まで遊び方が徹底している。

松江 そうそう。だから“カンヌ”の後、山田くんがテレビ東京の「破獄」(17)というドラマでたけしさんと共演したときは、やっぱり繋がるんだ〜、面白いな〜と思って(笑)。

僕はたけしさんにお会いしたことはないけれど、僕らの世代でたけしさんの影響を受けていない人はいない。僕らの下の世代にとって、山田孝之はそんなたけしさんに近い存在なのかもしれないですね。

俳優としての側面が強いけれど、メディアを使って遊んでいて、俳優という枠組みを超えてくる人なんですよ。

山下 「山田孝之の東京都北区赤羽」というタイトルも「ビートたけしの元気が出るテレビ」みたいだったけれど、タイトルに名前をつけてしっくりくる俳優もあまりいない。

松江 タイトルに名前がつくだけでサワザワがする感じがあるよね。たけしさんにも「TAKESHIS’」(05)という映画があったけれど、そういう名前を見ただけでザワザワする人が僕はどうも好きみたい(笑)。

――山田孝之さんは、この先もまだまだ何かをやらかしてくれますかね?

松江 やるでしょうね。『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(8月4日公開)の山田くんを見ても怖いですもん。

ほかの俳優たちが漫画に似せていたのに、ひとりだけガチな人がいた。ボスターと予告編1カットを見て、この人を入れちゃダメだよと思いました(笑)。

山下 山田くんが幼いときから本当に好きなものは、たぶん漫画と音楽だと思うんですよね。だからそこに対してはまだ慎重で、自分からは簡単に手を出していない。

――今回の映画でも、山田さんは「漫☆画太郎が好き」って言ってますものね。

松江 そう、漫☆画太郎が好きなんです。

山下 だから、少しずつ近づいているけれど、そこはまだまだ慎重だと思います。

松江 本当にリスペクトしていますからね。

――山田さんが漫☆画太郎の「左翼ボクサーのぼる」の主人公・朝日のぼるを演じる劇中のシークエンスも面白かったですが、あの撮影はどんなふうに行ったんですか?

山下 本人がやりたいと言ったので、ほぼノー演出。漫画を見ながらそれを再現しました。

松江 グリーンバックの前で山田くんが漫画のコマに合うように演じて……。

山下 セリフもまったく変えない。

松江 漫画のまんま全部やってます。

山下 あれはすごい発明だよね。原作者も絶対に怒らないたろうし(笑)。

松江 漫画のまんまだからね(笑)。山田くんの誕生日に撮影したけれど、あれで“カンヌ”のラストカットのボクサーの格好をしていた山田くんが“のぼる”だったんだって分かるんですよ(笑)。

山田孝之が、まだまだ出しきっていないミラクルな可能性

「山田孝之の東京都北区赤羽」から始まった山田孝之と松江哲明監督、山下敦弘監督のクリエイティブな旅は、今回の『映画 山田孝之3D』で完結してしまうのだろうか? いやいや、そんなわけがない。

山田孝之の中には、まだまだ出しきってないミラクルな可能性があるだろうし、松江、山下の中にもこの唯一無二の面白い逸材を使ってもっともっと遊びたいという欲望が渦巻いているに違いないから。

山下 僕はいずれ劇映画を一緒にやると思います。

――漫☆画太郎ですか?

山下 漫☆画太郎はたぶんやらないですね(笑)。今回“のぼる”をやっちゃったし、あれ以外にやりようがない気もするから。

松江 僕も具体的には想像できないですね。“赤羽”でお姉ちゃんが出て、“カンヌ”ではお父さんが出て、今回は山田孝之が自ら自分の幼いころの話や家族の話までしちゃっているから、もうやることがないというのが正直なところです。

――ドキュメンタリーに限定すると、そうかもしれないですね。

松江 そうなんです。どうしましょうね〜。何かと戦ってもらいましょうか?(笑)

山下 アマゾンの秘境に行った山田くんが、ほかの民族と巨大な船を山の上に運びあげる、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の『フィッツカラルド』(83)みたいな映画とかね(笑)。

松江 でも、山田くんは何か考えているでしょうね。

山下 そうだね。さっきメディアで遊んでいるって言ったけれど、常に次の遊び場を探している感じがする。映画愛みたいなものはそんなに強くないものの、芝居に対してのこだわりはすごくあるから、役者がやっぱり彼の軸になっているんだろうけど、その反動のように、またいろんなことをやり出すんじゃないかな。僕の場合は山田くんと特殊な関係になっちゃったけれど、劇映画で監督と役者として組んだらまた違う関係性になると思うので、そこも楽しみにしています。

いちばん近くで見てきたふたりの監督も山田孝之の真相&深層をまだまだつかみきれていないようだったが、彼らが作った『映画 山田孝之3D』には本人が無意識のうちにさらけ出した気鋭の俳優の謎を解くヒントが隠されているかもしれない。

それに、完璧に自分をクリエイトして周りの者を欺く彼の魅力は、今回の監督たちの証言でさらに深みを増したような気もする。いま言える確かなことはただひとつ。

山田孝之はとにかく面白いということだけだ。彼はこれからも、私たちのハートをザワつかせるに違ない。

『映画 山田孝之3D』 6月16日(金)より公開