マストドンをビジネス視点でみたとき「流行るかどうか」は「どうでもいい問題」である: 情熱のミーム 清水亮
Mastodon(マストドン)についてキーマンたちが語らうイベント、マストドン会議3が去る6月10日に御茶ノ水で、マストドン会議4がその二日後の6月12日に大阪の梅田で開催された。

マストドン会議3には、mstdn.jpの運営者であるnullkal氏と、マストドンの実装にも使われているプログラミング言語Rubyの開発者であるまつもとゆきひろ氏、そしてマストドンの開発者であるオイゲン・ロチコ氏など豪華なゲストが参加し、マストドンのこれまでとこれからの可能性を語った。筆者は今のところマストドン会議に皆勤賞で登壇しているが、マストドン会議のプロデューサーである角川アスキー総研の遠藤諭氏にマストドン会議2の直前に「来月もやるから」と誘われた時は、さすがに少し戸惑った。

筆者はマストドン用の深層言語解析技術を搭載したマルチインスタンスクライアントであるNaumanniを開発しているので、まあ発表することがないではなかったが、しかしこんなハイペースでマストドンのイベントを開催して観客が集まるのだろうか、という疑問は常につきまとった。

そもそも何を話せばいいのか、ということを考えていたら、そういえば今のところ「これまではこうだった」という話が多くて、「どうすればビジネスにできるか」という「これから」の話はあまり言及されてこなかった。

マストドンを中心としたビジネスは、実は水面下ではかなり進んでいる。マストドンが流行り始めたかなり早い段階で、大手企業が水面下で動き出しているからだ。

しかし大手企業というのはITベンチャーと違い勢いだけでマストドンのインスタンスを立てるわけにもいかない。始めたものはすぐにやめられないので、どうすればいいのか知恵を絞っている段階という感触だ。

実際、筆者のところにもマストドンをどうビジネスにするのか、という問い合わせが数多く寄せられている。それとAIの仕事が重なって筆者はここ数年で久しぶりに一ヶ月に5回も出張するという忙しさになってきている。

筆者がクライアントに説明する図から、いくつか引用して説明しよう。



まず、企業がマストドンをやるべき大きな理由は2つある。

ひとつは新しい顧客接点のため。もう一つはマーケティングツールのためだ。

そもそもIT革命とは何だったのか。

社会的意義やその後の繁栄といった要素を全て除いて客観的に現象だけを見れば、「大学生やその他の暇で器用な人たちが、趣味の延長上でコンピュータとインターネットを使いこなしていつのまにか多くの顧客と接点を持っていて、それに乗り遅れた既存の大企業(エスタブリッシュメント)が大金を奪われ続ける」ということにほかならない。

成功したIT企業の創業者の多くが大学生や大学中退者であるのはある意味必然で、「暇」でなければITバブルの黎明期にインターネットの可能性に気づくことはできなかったし、大学のような場所と設備がなければ仲間を集めたりネットに触れたりすることもできなかったはずだ。

実際、当時のITエスタブリッシュメントだったMicrosoftはインターネットに遅れをとってしまったがために学生仲間が作った会社に過ぎなかったGoogleに後塵を拝することになった。

その流れ、暇人がアイデアと趣味の延長上で新しいコミュニティを起こし、そこにユーザーが集まって、コミュニティ運営のための維持費用を既存の大企業が広告費や買収といったかたちでせびられる、という構図は今も変わっていない。

10年以上前にTwitterが登場した時、そこに需要があると考えた人はとても少なかった。

筆者はTwitterの魅力にすぐ取り込まれ、Twitterに絡んだビジネスを展開しようとしたが、実際に発注が来たのは半年後だった。

しかし、マストドンの場合、明らかにエスタブリッシュメント企業の反応が違う。

既にいちど Twitterを体験しているため、容易に想像ができるのだ。マストドンはうまくすればTwitterとLINEを足したようなプラットフォームになる可能性があると。ならば、とっととやってしまおうと考える企業が現れるのは想像がつく。



そもそも今や大企業であっても、顧客接点を必要とするB2C事業を展開している会社はアプリのひとつやふたつは用意している。だが最大の悩みは、起動率が低いことだ。

起動されなければアプリは顧客接点には成りえない。

App Storeの中で埋もれてしまい、忘れ去られる。せっかくの通知機能も「鬱陶しい」とオフにされてしまう。

ところがもし、企業がコミュニティを自社のアプリに囲い込むことができたら......もはやTwitterやLINEに大金を払ってまでプロモーションを展開する必要はない。

なぜなら自分たちがアプローチしたい顧客は、自分たちの手の中にいるからだ。

そしてそこで交わされる日常的な会話を企業は分析し、消費者の隠れた欲望を知ることができる。いわばAppleにおけるApple Storeだ。

2000年代はじめ、負け組企業だったAppleは、まず起死回生の一手としてApple Storeを作った。

はたから見れば金の無駄遣いだったが、Apple StoreはAppleファンのために出現し、Appleファンを集める磁石のような機能を持つことになった。

既に人気商品としてヒットしつつあったiMacに加え、オープンの数ヶ月後にiPodを投入すると、AppleStoreは急激に活気づいた。

なぜAppleが直営店を必要としたかと言えば、既存の家電量販店ではApple製品の扱いが極端に小さかったからである。

AppleStoreの成功によってAppleは流通から自由になった。今でも量販店でのApple製品のポイント還元率が極端に低いのは、Apple製品を量販店が扱ってもほとんど利益がでないからだと言われている。それでもApple製品を置きたくなるほど、Apple製品は魅力的になったのだ。

また、今ではApple製品を陳列する場合は、Appleから厳しい指導が入るという。彼らは顧客接点のフロントエンドである販売店に最も力を入れて、Apple体験を他とは違うものにしているのだ。

さて、既存企業は顧客接点として直営店やフランチャイズを持っていることも少なくない。しかし、肝心のラストワンマイルには届いていない。つまり店と顧客の間だ。

AppleはiPhoneという最強の顧客接点を持っている。いまのところまだ盤石に近い体制だ。それに対して、既存の消費者向け企業は間接的にTwitterやFacebook、LINEやGoogle Adといった方法でしか顧客接点を持つことができない。

もしも企業が独自のマストドンを作り、そこに自社の顧客を囲い込むことができれば、これまで支払っていた膨大なソーシャルマーケティング費用を大幅に節約できる。

つまり、マストドンというカルチャーないし現象が、実際に大流行するかどうかに関係なく、自社の顧客にマストドンを使わせることさえ成功すれば、顧客接点の確保は完了するのである。これが魅力的な話だと感じないマーケティング担当者はいないだろう。

とはいえ、現状のマストドンのユーザーインターフェースや仕様はハイブロウすぎて、一部のマニアにしか使いこなすことができない。

しかし案ずることはない。マストドンはAGPLのもと頒布されるオープンソースソフトウェアであり、企業は自由にカスタマイズを加えることが可能だ。カスタマイズを加えた部分はAGPLの制約にもとづいて公開する必要があるが、回避する手段はいくらでもある。

たとえばマストドンサーバーは公開しなければならないが、そのサーバーと通信するプログラムに関しては一切の制約がない。つまりアプリや、その他決済に関わる機能などを追加したときは回避手段がいくらでもあるということだ。

通常ならば、この手のリアルタイムチャットを行うコミュニティの開発には数億の開発費と毎月数十から数千万の運営維持費が必要だが、マストドンを使うだけならば無料だし、カスタマイズ費用やアプリの開発費用と維持費だけを払えばいい。また、コア機能がマストドンにあるので、外注業者を変えることも以前ほどは難しくない。

では実際にどんなカスタマイズが考えられるか。筆者はこう考える。



マストドンの入会導線は極めてわかりにくい。

したがって専用アプリをダウンロードしただけですぐに登録できるような改造が必要である。これは必須となるだろう。

既にアプリがあるのならば、そこに組み込む形もとることができる。マストドンは柔軟なのだ。

さらに、こんな機能拡張が考えられる。



特にECとの組み合わせには期待が持てる。

とある投資家が「メルカリが伸びる!と思ったのは、滝のように出品情報が流れ始めた時」と言っていた。その通りだと思う。

マストドンの魅力のひとつは、滝のように流れるメッセージを見て、ユーザが驚くことだ。

もちろんインスタンスによって多少の差はあるが、「盛り上がってる感」「お客さんが沢山いる感」があるというのはこの手のコミュニティが流行るのに必須の要素と言える。



さらに、地方の商店などであっても、店舗ごとに地域のコミュニティを作ることでマストドンに参入することができる。

筆者らはさらにマストドンにAIを適用してより快適でスムーズなコミュニティを作ることが出来ると考えている。

多くの人が集まる場所で不快な行動をとるユーザを規制するのはコミュニティを運営する上で大きなオーバーヘッドになるが、AIを活用すれば自動的にそうしたユーザーの発言を隠したり、不適切な画像をマスクしたりすることができる。

また、これまではTwitter社が独占していたような管理が分権化されることで、ユーザ一人ひとりにもメリットがあることになる。特に炎上対策などは、Twitter社を経由するよりも遥かにやりやすくなるだろう。

ITの帝国時代はマストドンの出現で急速に終わりを迎えつつある。

今後、たとえばUberのようなものもマストドン的に非中央集権化する可能性があるし、そうなれば富と権力の一極集中による弊害をユーザや企業が受けることもなくなっていくに違いない。

そのあたりの話はまた次回の連載で。