熊澤喜一郎社長(左)と、丸々もとお氏(右)

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漆黒の闇に浮かぶ「工場夜景」が注目を集めている。繊細な光の美とメカニカルな重厚感を兼ね備え、“モノづくり大国”日本をより深く理解できる「スタディ・ツーリズム」としても脚光を浴びているが、日本で初めて海から船で工場夜景を楽しむサービス「工場夜景ジャングルクルーズ」を始めたのが、横浜港に拠点を置くリザーブドクルーズ。今回は、6月に10週年を迎えた同サービスを手がける同社の熊澤喜一郎社長と、企画・プロデュースを担当した夜景評論家の丸々もとお氏に、海からアプローチする工場夜景の魅力について聞いた。

工場夜景クルーズは、夜景評論家の丸々もとお氏のアイデアから生まれた

--お二人が出会ったきっかけから教えてください。

熊澤「横浜港を起点とする夜景遊覧クルーズを提供してきましたが、ただ眺めるだけでなく、新しい切り口を常に模索していました。そこで、夜景のスペシャリストの丸々さんに相談したのが始まりです」。

丸々「たしか2007年でしたよね。当時はホテルなどの夜景プランニングを中心にプロデュースしていましたが、将来は船を使った夜景サービスも考えていたところでした」。

熊澤「その時アイデアの1つとして、京浜工業地帯の工場夜景をクルーズするのはどうかと提案していただきました。それまで東京方面へのクルーズを手がけていたので、夜の工場群の美しさは知っていたのですが、それがビジネスに直結するとは考えもしていなかったので驚きましたね」。

丸々「首都高・横羽線から眺める工場夜景はドライブの定番コース。十数年前から『工場』をテーマにした写真集などが注目されはじめましたが、夜景にたずさわる立場の自分には『工場は夜こそ美しい』という思いが。海上からクルージングで体験するサービスには、時代を大きく動かす可能性があると予感したのです」。

熊澤「テロ防止の観点から、陸上から化学工場へ近づくのは年々難しくなっていますが、海からは30mまで近づくことができるので、アプローチの面で圧倒的に有利。視界を遮るもののない海から見上げる工場は幻想的で美しいですが、無機質で油っぽい工場が、果たしてクルーズとして受け入れられるか心配でした。ただ、丸々さんの『産業を観光資源にする』という考えはまだ世の中になかったので、パイオニアになるチャンスに賭けたんです。それが、川崎市が手がける2年前のことでした」。

--「工場夜景ジャングルクルーズ」はどのようなサービスなのでしょうか。

熊澤「赤レンガ倉庫に隣接した桟橋で乗船していただき、ベイブリッジを右手に見ながら大黒橋をくぐり、京浜運河に入ります。アクアラインの起点の浮島ジャンクションを目指しながら東亜石油京浜製油所や昭和電工など、各種工場を巡ります」。

丸々「夕暮れから空の色は刻々と変化しますが、工場の灯りの色によって最適な時間帯があるのです。薄暮の『ブルーモーメント』と呼ばれる青い光が似合う工場もあれば、漆黒の闇に映えるプラントもある。ぴったりのタイミングで見られるよう、出港時間を季節によって変化させると言うきめ細かな工夫もしています」。

熊澤「迷路のように張り巡らされた京浜運河周辺の水路は、まるでジャングルに迷い込んだよう。操業する工場の音は動物の鳴き声のようだし、漂うガスの匂いは野性味がある。船の振動とあいまって、ジャングルの中にいるような体験ができるので『工場夜景ジャングルクルーズ』と名づけたわけです」。

丸々「クルーズ時間は90分ほどで、ガイドが乗船して、しっかりと解説をします。コース取りや順路も練りに練っていて、魅力的なポイントはゆっくりと、工場の無いエリアは素早く通り過ぎるなど、強弱をつけ効率よく遊覧できます」。

--参加者はどういった方が多いですか?

熊澤「開始直後は、マニアックな“工場ファン”がほとんどでした。3カ月ほどすると情報感度の高い若い女性が増え始め、SNSなどの口コミで人気に火がつき、3カ月先まで満席になるほど注目していただきました。思いの外早く女性やファミリー層に広がったのは驚きでした」。

丸々「工場を夜の海から眺めるという体験を、得体の知れない非日常のエンタメとして共感してくれたようです。そういった評価を得たおかげで、『第一回かながわ観光大賞〜魅力ある観光地づくり部門』を受賞することもできました」。

--苦労した点は?

丸々「工場夜景を一過性のブームではなく観光産業として成長させたかったので、コースに組み込んだ工場や、工業地帯のある川崎市の産業振興部に熊澤社長と一緒にご挨拶に行って筋道をつけました。工場夜景ジャングルクルーズが生まれた2年後には、川崎市の産業観光ツアーにも工場夜景クルーズを取り入れたいとの打診をいただき、コースやガイド監修等のプロデュースのお手伝いをしたところ、40名の定員に800名の申込みが殺到しました」。

--10周年を迎えてサービスもリニューアルするそうです。

丸々「『その日のとれたての工場夜景をお見せする』というのが、リニューアルのコンセプトです。工場はその日によって動かす設備の場所が変わります。臨機応変にアプローチの仕方やガイドの解説を変化させることで、より鮮度の高い夜景を堪能していただけます」。

熊澤「とれたて感に加えて、工場間の移動時間も充実するように、工場夜景の歴史や魅力を高画質で再生する映像を放映します。最近では四日市や室蘭、北九州などの工場夜景も注目され始めていますが、その元祖である京浜工業地帯の風景にオーバーラップするような深みのある映像ショーを用意しました。川崎と全国工場夜景のコラボですね。今後は、2020年の東京オリンピックに向け、外国人観光客に対応する言語のガイドシステムにも取り組みたいですね」。

--最後に、お気に入りの工場夜景スポットを教えてください。

丸々「定番ですが、東亜石油京浜製油所は必見です。温かみのあるオレンジの光と白い光が入り混じっていて、映画『ブレードランナー』に描かれた近未来の風景を間近に感じることができます」。

熊澤「波の静かな運河の奥にある昭和電工は、建物の造形美がすばらしい。蛍光灯のシンプルな白い光が漆黒の闇にとても映えるのが気に入っています。工場夜景はブームで終わると思ったこともありましたが、いい意味で裏切られました(笑)。先駆者として10週年を迎えることができてうれしいですね」。

丸々「乗客に感想を聞くと『キレイ』というだけでなく、『SF映画を観ているよう』とか『経済成長の力強さを感じた』など、自分の言葉で語ってくれます。心の深い所で共感しないと出てこない言葉なので、それを友達や家族とシェアしたいという思いが、工場夜景クルーズがブームで終わらなかった理由だと感じています」。

【ウォーカープラス「夜景時間」/取材・文=杉山元洋】