スタイリッシュな電気自動車を世に出した「テスラ」の創業者にして、宇宙事業会社「スペースX」を立ち上げた実業家のイーロン・マスクが、早ければ今月18日にも、さらなるロケットの打ち上げに挑む。

 一方、Amazon.comの創業者にして世界で第2位の富豪であるジェフ・ベゾスもまた、ロケットや宇宙船を開発する企業「ブルー・オリジン」を設立。宇宙事業に乗り出すとともに、マスクのライバル的な存在として立ちはだかろうとしている。

 宇宙を舞台に熱い火花を散らすマスクとベゾス。なぜ彼らは宇宙を目指し、そして宇宙で何をしようとしているのだろうか。


イーロン・マスク(右)、ジェフ・ベゾス(左)©getty/Blue Origin

「人類が宇宙で暮らせるように」ロケットを開発するイーロン・マスク

 イーロン・マスクは1971年生まれで、現在45歳。若いころに彼が立ち上げた、ネット決済サービス「ペイパル」の売却などで得た資金をもとに、2002年に設立したのがスペースXである。


イーロン・マスク ©SpaceX

 スペースXを設立した目的を、彼は「人類が宇宙で暮らせるようにするため」と語る。そのためには誰もが利用できる、安全で安価なロケットが必要になる。しかし米国航空宇宙局(NASA)はもちろん、世界のどこにもそんなロケットはなかった。ならば自分たちで造るしかないと考えたのである。

 マスクは米国の優秀な技術者を何人も口説いて引き抜き、NASAや国防総省などからの資金援助も次々と取り付けるなどし、そして世界で最も進んだロケットと宇宙船を開発した。

 同社が開発した「ファルコン9」ロケットは、米国や欧州、日本の大企業が開発したロケットに比べて、ほぼ同じ性能ながら圧倒的に安価という特長をもつ。ファルコン9はこの低価格を武器に、世界中の通信衛星会社などから、人工衛星の打ち上げ受注を取り付けている。

 宇宙事業を手がける企業というのは、実は珍しくなく、米国には1990年代から、雨後の筍のように数多くの宇宙ベンチャーが立ち上がっている。しかし、その多くはロケットひとつすら満足に造れずに撤退している。

「何度も飛ばせるロケット」で革命は起こるか?

 なぜ、スペースXはここまで躍進することができたのか。マスクをよく知る人物は、彼のことを「原理・原則にしたがって考える」、「物理学の限界に挑むことを要求する」人物だと語る。

 これまでNASAや大企業がロケットを開発しようとした場合、多かれ少なかれ政治的な理由で、ロケットの性能や開発する企業が決められていた。これでは無駄なコストがかさむばかりか、技術的に最適なロケットは造れない。

 しかしマスクは、どうすれば優れたロケットが造れるのか、ということを突き詰めて考え、そのための研究・開発を惜しまなかった。技術的に合理的な、最適解を選んで開発したからこそ、スペースXは高性能かつ低コストな、先進的なロケットや宇宙船を造り上げることができたのである。


イーロン・マスクの宇宙企業スペースXが開発した「ファルコン9」ロケット。打ち上げ後に着陸させて回収し、ふたたび打ち上げられる、先進的なロケットである ©SpaceX

 同社はまた、ロケットを打ち上げ後に着陸させて回収し、何度も再打ち上げができる「再使用ロケット」の開発も進めている。従来、ロケットは打ち上げごとに使い捨てるのが当たり前だったが、マスクはかねてより「飛行機のように何度も繰り返し飛ばすことができればコストを安くすることができるはずだ」と主張しており、そして実現に移しつつある。

 本当に安くなるかはまだ未知数だが、実現すれば宇宙輸送に革命が起こるだろう。

「一歩一歩、獰猛に」ジェフ・ベゾスの宇宙開発とは?

 ジェフ・ベゾスは1964年生まれの53歳。もはや私たちの生活の一部になったネット通販のAmazon.comの創業者で、ワシントン・ポスト紙のオーナーも務める。


ジェフ・ベゾス ©Blue Origin

 ベゾスが「ブルー・オリジン」という宇宙企業を立ち上げたのは、スペースXよりも2年早い2000年のことだった。彼もまた「人類が宇宙に進出し、活動の場とするため」という目標を掲げ、そのためにはNASAに頼らず、自分たちでやるしかないと考えた。

 もっとも、ベゾスはあまり表舞台に立たず、その言動もあまり明らかになることはない。講演会やシンポジウムに積極的に登壇したり、Twitterで開発中のロケットの情報を小出しにしたりするマスクとは対象的である。

 ブルー・オリジンもまた、ベゾス同様にやや秘密主義なところがあり、何を目的に、どんなロケットを造っているのかということは、長い間謎に包まれていた。しかし、同社は「Gradatim Ferociter」(ラテン語で「一歩一歩、獰猛に」)というモットーを掲げ、スペースXのような高性能かつ低コストなロケットの開発を、着実に進めていることが徐々に明らかになった。

影も形もない大型ロケット「ニュー・グレン」はすでに受注競争に

 現在は、短時間ながら誰でも宇宙観光が楽しめるロケットと宇宙船を開発。試験飛行を繰り返しており、数年以内にサービスを始めると予告されている。

 またそれと並行して、人工衛星を打ち上げられる大型のロケット「ニュー・グレン」も開発しており、2020年の打ち上げを目指している。性能はスペースXのファルコン9などと同じくらいで、運用が始まれば打ち上げ市場で両社がライバルになることは間違いない。

 実は、まだニュー・グレンは影も形も存在していないにもかかわらず、同社のもつ技術力への信頼や、低コスト化への期待などから、すでにいくつかの企業から打ち上げの受注を取り付けている。受注をめぐってはもう競争が始まっている。


ジェフ・ベゾスの宇宙企業ブルー・オリジンが開発している「ニュー・グレン」ロケットの想像図  ©Blue Origin

マスクの「火星移住」、ベゾスの「月までAmazon」 構想はどんなもの?

 性格的には正反対なように見えるものの、ともに宇宙を目指し、そしてライバルになりつつある2人だが、大型ロケットや宇宙船の開発や、人工衛星の打ち上げビジネスでの躍進と対決にとどまらず、すでに次の段階を見据えた構想を明らかにしている。

 マスクは2016年9月に、火星をはじめとする太陽系のさまざまな天体への移住構想を発表。一度に100人が乗れる巨大なロケットと宇宙船を開発することを明らかにした。早ければ2022年に打ち上げを始め、40〜100年かけて、火星に人口100万人規模の都市を築くという。


マスクが考えている火星や太陽系のさまざまな天体への移住を可能にする超巨大宇宙船の想像図 ©SpaceX

 一方のベゾスも、2020年代の中ごろまでに月に定期的に物資や人を運ぶ、Amazonのようなサービスを行う構想を発表。また「将来、月を人類が永住できる場所にしたい」とも語り、そのための巨大ロケットの開発も考えていることが明らかにされている。

 この2人の構想は、一見すると荒唐無稽にも思える。もちろん、実現には資金面をはじめ多くの困難があるだろうが、少なくとも技術的には決して不可能ではない、よく考えられたコンセプトに仕上がっている。

 打ち上げビジネスと同様に、彼らは月や火星進出へ向けてもしのぎを削ることになるだろうが、それは人類の宇宙進出を確実にし、なおかつ早めることにもなるだろう。

 1969年に「アポロ11号」が月に降り立ってから、まもなく半世紀。アポロ計画をモチーフにしたポルノグラフィティの『アポロ』が大ヒットしてからも20年近くが経とうとしているが、私たち人類はふたたび月に行くどころか、宇宙に進出してすらいない。しかしようやく、この対照的な2人のパイオニアによって、そんな未来が切り拓かれようとしている。

(鳥嶋 真也)