ゴールンデステート・ウォリアーズの圧倒的な強さの前に、”キング”レブロン・ジェームズ(SF)もひざまずくしかなかった。それでも、前年度王者の誇りは忘れはしなかった。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。


ファイナルMVPに輝き、優勝トロフィーを掲げるケビン・デュラント「5試合すべてで全力を尽くした。うなだれる理由はない。最終目標を達成することはできなかったが、プレーオフ史上でも最高のチームが相手だったのは明らか。今季が失敗だったわけではない」

 今季のウォリアーズは、まさに「プレーオフ史上でも最高のチーム」だった。

“スプラッシュ・ブラザーズ”と呼ばれるリーグ屈指のシューティングデュオ、ステファン・カリー(PG)とクレイ・トンプソン(SG)。206cmながら抜群のシュート力を持つ新加入のケビン・デュラント(SF)。鉄壁の守備力を持つ”緑の壁”ドレイモンド・グリーン(PF)。上記4人のオールスター選手のみならず、2015年のNBAファイナルMVPのアンドレ・イグダーラ(SF)、マルチなポジションをこなすショーン・リビングストン(PG)と、その選手層の厚さは圧倒的だった。

 優勝が決まった直後、リポーターの「すばらしい選手たちを、うまくまとめましたね」という言葉に対し、スティーブ・カー・ヘッドコーチ(HC)の「大した才能のない選手ばかりで、HCがすごい仕事をした」という返答が冗談であることは、世界中の誰もがすぐに理解したはずだ。

 4勝1敗とスウィープこそ免れたものの、イースタン・カンファレンスを圧勝で制したクリーブランド・キャバリアーズですら、一矢報いるので精一杯。それほどまでに、ウォリアーズの強さは異次元だった。

 第1戦、113-91。シリーズはウォリアーズの圧勝で幕を開けた。第2戦、ウォリアーズは20ターンオーバーを記録しながらも132-113。ふたたびの圧勝劇だった。試合後、トンプソンはこう言った。

「ターンオーバーを10から15にしていれば140点は獲れた」

 レギュラーシーズン、ウォリアーズの1試合平均ターンオーバー数は13.6。ウォリアーズは「ミスをしなければ」ではなく、いつもどおりにプレーすれば、冗談ではなく140点を獲れる攻撃力を持っている。その自信が攻守において、ウォリアーズの選手には余裕を、対するキャブスの選手には焦りを生んでいたように思えてならない。

 もちろんキャブスには、プレーオフに入り大車輪の活躍を見せるレブロン、さらには1on1で無類の強さを発揮するカイリー・アービング(PG)がいる。さすがのウォリアーズも、彼らに対して何らかの対策を練るかと思われた。だが、それもまったくの的外れだった。

 第3戦、キャブスのリードで試合は進むも、残り45秒でウォリアーズが逆転して118-113。3連勝でシリーズに王手をかけると、カーHCはレブロンとアービング対策についてこう語った。

「特にディフェンスは変えていない。1試合を通して1on1で攻撃すれば、いずれ彼らも疲れる。だから選手には、『マークを外さずについていけば、最後には疲労がプレーに影響してくる』と伝えた」

 まさにウォリアーズの戦いぶりは、横綱相撲だった。

 崖っぷちに立たされたレブロン。だが彼は、「王朝の最盛期にあるチームと対戦するのは、俺の運命」とあきらめなかった。

 第4戦、そんなレブロンの気迫がチームにも伝播したか、キャブスが1ピリオドにおけるNBAファイナル史上最多の49得点を第1クォーターに叩き出し、待望の1勝を挙げる。しかし、昨季は1勝3敗から逆転優勝したキャブスをもってしても、今季の反撃はここまでだった。

 昨季のウォリアーズにはなく、今季のウォリアーズにあったもの。それは、誰の目にも明らか……デュラントの存在に他ならない。

 デュラントはシリーズ5試合で平均35.2得点・8.2リバウンド・5.4アシストを記録し、ファイナルMVPに輝いた。その受賞スピーチでデュラントは、「MVPよりも価値のあるものがある」と語った。そしてそれが、スター軍団でありながら、誰もが献身的にプレーをするウォリアーズの強さを物語っていた。

「バスケットボールはチームスポーツだ。チームスポーツでもっともすばらしい功績は優勝すること。ファンのみなさんに感謝します」

 3年間で2度の優勝を果たしたウォリアーズは、まさに全盛期を迎えた。その黄金期を築くために必要だった「最後のピース」がデュラントであったことは間違いなく、同時にチームを崩壊させる可能性を持つのも、またデュラントだと言えるだろう。

 チーム生え抜きのスーパースターであるカリーの年俸は今季、リーグ82番目の1211万ドル(約13億3000万円)でしかない。そんなカリーが今オフに契約更新を迎え、5年総額2億ドル(約220億円)を超える契約を結ぶことが濃厚だ。

 さらにデュラントも、今オフにFAとなる。デュラントの活躍を考えれば当然、マックス契約(年棒約3540万ドル/約37億9000万円)が妥当だろう。しかし、デュラントのキャップスペースを確保するためには、イグダーラかリビングストンのどちらか、もしくは両選手を放出しなければならない。ESPNによれば、「デュラントはマックス未満の契約に応じる可能性もある」と報じられているが、ファイナルMVPを獲得した男の決断次第では、王朝の崩壊は今夏にも始まる。

 また、もしデュラントが減額に応じたとしても、2019年にはトンプソンがFAとなる。トンプソンは「父親からは金のためではなく、バスケットボールに対する愛情のためにプレーしろと教えられた」と、金額よりもチーム残留を優先する発言こそしているものの、他チームならエースになれる男が、第2どころか第3の男でいることに、いつまでも我慢できるのだろうか?

 ただ、やはりファン心理としては、ウォリアーズの黄金期に内部崩壊で終止符が打たれるのではなく、彼らを打ち破るチームの出現を期待したい。

 そう考えると、その筆頭はキャブスだろう。今オフ、キャブスはケビン・ラブ(PF)とデマーカス・カズンズ(ニューオーリンズ・ペリカンズ/PF)のトレードを計画しているというウワサがある。カズンズは今季平均27.0得点・平均11.0リバウンドを記録したリーグ屈指のビッグマンだ。キャブスのフロントが「今季のメンバーでは何度やってもウォリアーズに勝てない」と感じたのならば、カズンズ獲得くらいのインパクトのある変化を求めてもおかしくはないだろう。

 他にウォリアーズを倒せる可能性があるチームとしては、チームの再建に乗り出すロサンゼルス・クリッパーズの名前も挙げておきたい。今夏、クリッパーズはFAとなるクリス・ポール(PG)の引き留めが最優先事項となるが、その後の構想としてはシカゴ・ブルズからドウェイン・ウェイド(SG)、ニューヨーク・ニックスからカーメロ・アンソニー(SF)の獲得を目指していると言われている。

 この2選手が獲得できれば、「いつか3人(ポール、ウェイド、カーメロ)と同じチームでプレーしたい」と発言したことのあるレブロンの来夏オフの移籍も現実味を帯びてくる。ポール、ウェイド、カーメロ、レブロンの「ビッグ4」が形成できれば、ウォリアーズの戦力と比較しても遜色ないどころか、それを上回る可能性も十分に秘めている。

 果たしてウォリアーズを倒すチームは現れるのか? きっと現れると信じ、まずは今オフの各チームの動向に注目しつつ、少し気は早いが来シーズンの開幕を胸躍らせながら待ちたい。

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