過去1週間でドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)が立て続けに提訴されている。

 大統領を有罪にすることは可能なのか。今後の見通しと、5月15日に当欄で論じた弾劾の可能性(「トランプ大統領が弾劾される可能性は50%」)についても改めて述べていきたい。

 まず提訴について記したい。

 1つ目は米首都ワシントンとメリーランド州の両司法長官が12日に起こしたものだ。

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すべての事業を息子に引き継いだと言うが・・・

 トランプは昨年9月、ホワイトハウス近くに「トランプ・インターナショナル・ホテル」を開業。もともとはオールドポスト・オフィスという商業施設で、トランプがホテルに改装した建物である。1泊5万円超の高級ホテルだ。

 大統領就任前、トランプは数百に及ぶ事業のすべてを息子2人に引き継ぎ、同ホテルの利益は国庫に納めると述べた。

 だが両長官は、トランプがホテル事業などで依然として報酬を得ているばかりか、外国政府から多額の利益を上げていると指摘。サウジアラビア政府などはすでに同ホテルで数十万ドルを使途したという。

 提訴の柱になっているのは「報酬条項(第1章第9条第8項)」という憲法のくだりである。大統領に限らず、連邦職員は連邦議会の同意なしに外国から「贈与、支払い、利益」を受けてはいけないというルールがある。

 ただ1回20ドル(約2200円)までであれば許可される。手土産の範疇である。トランプは息子に任せたと言ったが、ホテル事業などで、いまだに利益を得ているというのだ。

 もう1つの訴訟も「報酬条項」の違反である。ただ原告は連邦上下両院の約200議員で、民主党が議員団を結成して連名でトランプに反旗を翻した。

 トランプが憲法違反を犯しているという主張は、状況を冷静に考察する限り、トランプを政権の座から引きずり下ろしたいという野党の願望の具現化である。筆者としては、トランプを政権の座から引きずり下ろすことに異論はないが、現実はそう簡単ではない。

 メディアはあまり論じていないが、米大統領には免責特権がある。大統領が持つ広範な特権で、民間の訴訟から免れられるのだ。

 理由は、大統領は日々の職責の遂行を最優先にすべきであり、個人の訴訟に時間と労力を割くべきではないとの判断である。そのため、今回のような司法長官や連邦議員による提訴であっても、裁判所(ここでは地方裁判所)は訴訟を却下できる。

 訴訟となれば膨大な時間が取られる。トランプの顧問弁護士が実務をするとはいえ、トランプも証言をしたり、出廷したりする必要が生じてくる。仮に裁判所が提訴を受理したとしても、トランプの大統領任期中は審理を止め、任期を終えてから裁判に入ることも考えられる。

裁判で負けたビル・クリントン元大統領

 ただ例外もある。ビル・クリントン元大統領のセクハラ訴訟である。

 クリントン氏と言えばモニカ・ルインスキーさんとの情事が思い起こされるが、実はポーラ・ジョーンズさんというアーカンソー州職員からセクハラ訴訟を起こされていた。

 訴えが起こされたのは、クリントン氏が大統領に就任した翌1994年。懲罰的損害倍賞として85万ドル(約9350万円)の支払いを求められた。

 だがアーカンソー州地裁は大統領特権を重視し、ジョーンズさんの訴えを却下。しかし、ジョーンズさんはすぐに控訴する。

 連邦控訴裁では、大統領であっても法の下では平等であるとの理念から、審理が継続されることになった。つまり大統領特権はすべての訴訟で有効ではないということだ。

 クリントン氏は最高裁に上訴申請をし、裁判は長引く。最終的には1998年になってクリントン氏側が折れて、ジョーンズさんに和解金として85万ドルを支払うことになった。結果的には大統領の負けである。

 トランプ訴訟の今後の流れとしては、弁護団が裁判所に訴訟の却下を求めてくるはずだ。その時に裁判所がどう判断するか。却下するのか、審理を継続させるか、判事の判断に委ねられている。

 それよりも、今後トランプがより大きな危機に見舞われると思われるのが、ロシア政府による昨年の大統領選へのサイバー攻撃とトランプ陣営の関係である。いわゆるロシアゲートだ。

 6月8日の連邦上院情報特別委員会の公聴会で、実はジェームズ・コミー前FBI(連邦捜査局)長官が、今後のトランプ政権を揺るがしかねない発言をしている。ロシア政府による選挙介入があったと断言したのである。その場面の質疑応答を抜粋したい。

上院情報特別委員会での証言

リチャード・バー上院議員「(ロシアからの)サイバー攻撃に最初に気づいたのはいつですか」

コミー氏「最初のサイバー攻撃・・・、ロシア政府が主導した最初のサイバー攻撃は、覚えている限りでは2015年夏の終わりでした」

バー議員「民主党全国委員会(DNC)と民主党議会選挙対策委員会(DCCC)が標的でしたか」

コミー氏「その通りです。政府関係組織だけでなく、政府以外の団体も標的にされていました」

バー議員「どれくらいの個人・組織・団体が標的にされていたのですか」

コミー氏「たぶん数百です。1000以上かもしれません」

(中略)

バー議員「ロシア政府が州政府の有権者登録ファイルにサイバー攻撃をしかけたことに、疑いはありますか」

コミー氏「ないです」

バー議員「ロシア政府高官がサイバー攻撃を熟知していたことに疑いはありますか」

コミー氏「ないです」

 この証言から分かることは、ロシア政府が昨年の大統領選に大々的に関与していたという事実だ。コミー氏は疑いようがないと明言した。

 ただ、同氏はロシア政府とトランプ陣営がどう関わっていたかについての言及は避けた。それはロバート・モラー元FBIが特別検察官として現在捜査を進めている最中だからである。

 ロシア政府が大統領選に介入していた件については、前CIA(中央情報局)長官のジョン・ブレナン氏も5月23日、連邦下院の公聴会で次のように証言している。

諜報機関のトップがロシアによる関与を断言

 「ロシア政府は大統領選にあからさまに介入していました。さらにトランプ陣営に関わる複数の米国人との間にやりとりがありました。その証拠に遭遇しています」

 すでに辞めた2人の諜報機関のトップがロシア政府による大統領選関与を断言したのだ。しかもウソをつけば偽証罪に問われる公聴会という場においてである。

 しかし、現職のジェフ・セッションズ司法長官は13日の公聴会で、言葉を濁している。トランプはコミー長官の証言の直後、「我々は包囲された」と発言したが、顔には余裕の表情を浮かべていたところが不吉でさえある。

 それでは前出の「報酬条項」違反によって、トランプは大統領職を追われるだろうか。可能性は低い。それよりも、ムラー氏によって少しずつロシア政府による選挙介入の実態が明らかにされ、トランプ陣営の不正な動きが立証されれば、弾劾裁判に進む可能性はある。

 都議会と同じで、トランプの支持率がさらに低下して求心力を失い、共和党議員が来年11月の中間選挙で敗北が予想されるような政局になれば、「トランプ離れ」が始まるはずだ。ましてや米国には党議拘束がないため、投票時に党の決定に従う必要はない。

 1か月前に弾劾の可能性を50%と述べたが、筆者の見立ては現在も変わっていない。

筆者:堀田 佳男