シリコンバレーから中東、アフリカ、そしてブラジルのスラム街まで、世界中のありとあらゆる国・地域で600社、1000人超の起業家を支援してきた「非営利ベンチャーキャピタル」、エンデバー。その稀有な組織を立ち上げ、「今世紀最高のメンター」とも呼ばれるリンダ・ロッテンバーグによると、いまあなたが助言を求めるべきは、意外なことに年下のメンターかもしれないという。
シェリル・サンドバーグ絶賛の著書『THINK WILD あなたの成功を阻むすべての難問を解決する』から、イーベイ(eBay)CEOも務めたあの世界的経営者ジョン・ドナホーが、あるベンチャー経営者に教えを乞うた、とっておきのエピソードを紹介しよう。

素晴らしい実績をあげる経営者に「メンター」はいらない?

 なぜ、ジョン・ドナホーほどの人物が助言を必要とするのか。背が高く、お洒落な銀髪にハンサムな顔立ちの54歳。人生を通してトップを走りつづけてきた男性には、独特の躍動感が漂っているものだが、彼こそはまさにその典型である! ダートマス大学で経済学を学んだあと、スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得。20年近く働いたベイン・アンド・カンパニーでは、6年間にわたってCEOを務めた。イーベイのCEOだった頃は、オークション事業を活性化させた手腕を高く評価された。

 彼は、(錚々たる起業家たちがこぞって頼った)ビル・キャンベルのアドバイスを必要としない、シリコンバレーで数少ない人間に思える(もっとも、ドナホーとキャンベルは友人どうしである)。これほどの成功をつかんだあとで、メンターが必要なはずもない。

 ところが、わたしは間違っていた。

イーベイCEOがエアビーアンドビーCEOに教えを乞うた夜

 その夜、わたしはドナホーとディナーの席についた。そして彼から聞いた話は、アントレプレナーの時代に起きた、メンター制度の変化をよく物語っていた。

 イーベイの時価総額が400億ドルに跳ね上がった2012年、ドナホーはベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンに電話をかけて、シリコンバレーで最も有望な若いアントレプレナーを紹介してほしい、と頼んだ。イーベイのサイトをあか抜けないと感じていたドナホーは、もっと洗練されたデザインにするためのアドバイスを求めていたのである。このときアンドリーセンが紹介したのが、エアビーアンドビー(オンライン宿泊仲介サービス)の創業者で、弱冠30歳のブライアン・チェスキーだった。

 ドナホーはエアビーアンドビー本社までクルマを走らせ、20歳も年下の“同業者”を質問攻めにした。常に変化を求める顧客のニーズを、どうやって満足させるのか。デザインをどうやってうまく調整するのか。製品を古びさせない秘訣とは……。「もう夢中でメモを取りまくったよ」。ドナホーは語る。

 2時間後、ドナホーが立ち上がって帰ろうとすると、「まさか、ちょっと待ってくださいよ!」と、チェスキーが慌てて叫んだ。「それはないでしょう。今度は、僕が教えてもらう番ですから」。そして、ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン卒のチェスキーは、経営のグールーに質問を浴びせかけた。チームをどう組織し直せばいいのか。企業運営を一元化する方法とは。リーダーシップを発揮する秘訣は何か……。

 その日以来、ふたりは定期的に会った。ドナホーは言う。「私からは、時代を超えて通用するリーダーシップ原則を教えたんだ。そしてメンターのチェスキーには、起業家精神に溢れた、俊敏な企業を経営する方法について教わったんだよ」

 今日必要なのは、「愛の鞭をくれる経験豊かなアドバイザー」と「率直な意見を教えてくれる仲間」だけではない。「年下のメンター」も必要なのだ。