東芝、7000億円特損のデタラメ。「真の理由」を公表できぬ裏事情」でも詳しく報じた東芝の巨額損失問題。当の東芝は、監査法人から合意を得た決算の発表が出来ずに会見直前の延期を繰り返すなど、創業以来最大の危機に立たされていますが、メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の著者で元国税調査官の大村さんは、「東芝はアメリカにはめられた」との衝撃的な見出しとともに、その詳細を伝えています。

東芝はアメリカにはめられた

今、東芝が大変なことになっていますね。

約7000億円もの損失を計上し、半導体事業などの売却を検討し、上場廃止などの声も上がっています。下手をすれば、倒産するんじゃないかとさえ、言われています。

東芝というのは、日本を代表する家電メーカーであり、原子力事業でも国内で最大規模を誇っていました。その巨大企業が、なぜこんな窮地に陥っているのでしょうか?

新聞や週刊誌などでは、東芝の隠蔽体質などが原因視されています。

確かに、東芝は、近年、粉飾決算などを行っており、決して問題のない会社ではありませんでした。

しかし、東芝の行っていた粉飾決算は、東芝を破滅させてしまうほどの大ごとではありませんでした。

今、東芝が窮地に陥っているのは、約7000億円にも及ぶ損失を記録してしまったからです。

この7000億円の赤字の大半は、実はたった一つの取引から生じているのです。

その一つの取引というのは、アメリカのS&W社の買収です。

東芝は、2015年の暮に、原発の建設会社だったS&W社を買収しました。東芝が直接買収するのではなく、東芝の子会社となっていたアメリカのWH社が買収するという形になっていましたが。

このS&W社が、1年後に約7000億円の赤字を出すのです。

たった1年で7000億円もの赤字がなぜ生じたのでしょうか?

東芝は、なぜそれに気づかなかったのでしょうか?

そこには、日米の原子力政策を巡る、虚々実々の駆け引きが隠されているのです。

簡単に言えば、東芝はアメリカにはめられたということです。

今回はその経緯を説明したいと思います。

なぜ東芝はアメリカの原子力事業に参入したのか?

ことの発端は、2006年のことです。

この年、東芝は、アメリカの原子炉メーカーのWH社を買収しました。なぜ買収したかというと、東芝はアメリカの原子力事業に参入したかったからです。

当時、アメリカは、原子力発電に再び脚光が浴びせられ、「原子力ルネッサンス」というような状況にありました。

アメリカは、1979年のスリーマイル島の事故以来、30年間、新規の原発建設を認めていませんでした。が、環境問題の世論の高まりや、電力コスト高などの影響を受けて、原発回帰の機運が生まれてきたのです。

東芝は、この話に飛びついたのです。

東芝が、WHを買収したのは、この「包括エネルギー法」成立の翌年のことなのです。

順調なWH社

WH社は、アメリカでは最大級の原子炉メーカーでした。既存のアメリカの原子炉の多くは、WH社によるものであり、そのメンテナンスだけで莫大な収益を上げていました。

WH社は、アメリカの原子力政策にも精通しており、原子力発電を規制していた「アメリカ原子力規制委員会(NRC)」ともツーカーの仲だとされていました。

そのためか、東芝の買収後、WH社は、次々にアメリカの新規の原子力発電所建設を受注しました。

2008年4月、WHは、アメリカ・サザン電力の子会社であるジョージア電力(ジョージア州)と、2基の新規原子力プラントの建設に関する契約を締結しました。

さらに2008年5月には、WHはアメリカ・スキャナ電力の子会社であるサウスカロライナ・エレクトリック&ガス・カンパニー(SCE&G)と2基の新規原子力プラントの建設に関する契約を締結しました。

また中国でも2007年に4基の建設を受注していました。

ここまでは東芝の目論見通りだったといえます。

しかし、この事業計画は順調には進みませんでした。

ご存知のように、2011年に東日本大震災が起きてしまったからです。

福島第一原発の事故により、WHの原発建設の着工は大幅に遅れました。

サザン電力、スキャナ電力のいずれの原発も、2011年に着工の予定でした。

しかし、アメリカ原子力規制委員会(NRC)の承認がなかなか下りなかったのです。

もともとアメリカでは、2001年の同時多発テロの影響で、飛行機が激突しても耐えられるような厳しい設計基準がありました。それに加えて、福島第一原発の事故を踏まえ、巨大な自然災害にも耐えられるような安全性が求められるようになったのです。

そのため、NRCの承認が下りたのは、ようやく2012年のことなのです。

そして、着工されたのは2013年です。

もちろん設計の変更や工期遅延により、莫大な追加費用が発生しました。

この費用負担を巡って発注元の電力会社や建設請負をしている会社「S&W」と訴訟騒ぎとなり、着工はさらに遅れることになりました。

電力会社がS&Wの買収を要請した

このとき電力会社側が、ある提案をしてきます。

スキャナ電力など、アメリカの電力会社側が、東芝(WH)にS&Wの買収をすることを求めてきたのです。

電力会社側の言い分としては、「建設側の企業が入り組んだ状態となっているので、建設工事が進めにくい」ということでした。メーカーと建設業者が一体となって工事を進めることで、今後のスケジュールをスムーズに進めてほしい、というのです。

この言い分は、一見まっとうに聞こえますが、よくよく検討すると非常に不自然なのです。

原子力発電所の建設に、いくつもの企業が参加するというのは当然のことであり、一グループだけで建設をすべて請け負うのはそれほど多くありません。だから建設側に「一体化しろ」と要求するのはおかしな話です。

しかし電力会社側は、「東芝(WH)がS&Wを買収し一体化すれば、契約金額や工事期間の見直しに応じる」とも言ってきたのです。

東芝はその甘言にまんまと引っかかってしまったようなのです。

固定価格オプション

東芝(WH)は、S&W社を買収することに合意し、それとともに、電力会社と今後の建設費などの見直しの契約もしました。

その見直し契約には、固定価格オプションという取り決めがされていました。

固定価格オプションというのは、スキャナ電力は、工事費に5億500万ドル(約564億円)を上乗せし、2年程度、工事期間を延長する契約変更に応じますが、その後の超過コストはすべてWHが負担するというものです。WHが負担するということは、つまりは実質的に親会社の東芝が負担するということです。

超過コストがあまり発生しなければ、東芝にうまみがあります。でも、超過コストが発生すれば、東芝は際限なく負担を強いられることになります。

では、超過コストはあったのでしょうかなかったのでしょうか?

ご存知のような、約7000億円という莫大な超過コストがあったのです。

しかも、それは、S&Wの買収時点で、すでに発生していたのです。

東芝は、S&Wが抱えていた超過コストについて、知らなかったものと思われます。なぜなら、7000億円もの超過コストがあるのがわかっていれば、買収などしないでしょうし、固定価格オプションなども結ばないはずです。

なぜ東芝は、S&Wが超過コストを抱えていることに気付かなかったのでしょうか?

それはアメリカ側の官民が結託した隠蔽工作があったからだと考えられます。

巧みに隠蔽された巨額の超過コスト

S&Wは、もともとはアメリカの建設会社大手のショー・グループが所有していました。東芝は、このショー・グループからS&Wを買収したのです。

買収する際、S&Wの持ち主であるショー・グループは、S&Wには10億ドル以上の運転資金があることを約束していました。10億ドルの運転資金があるということは、10億円の黒字があるということです。

東芝は、それを信じてS&Wを買収したわけです。

そして、アメリカの監査法人なども、ちゃんとそれを証明しているのです。

なのに、なぜS&Wは超過コストを抱えていたのでしょうか?

実は、S&Wは、東芝(WH)から買収される時点では、「会計上の超過コスト」は発生していなかったものと思われます。

S&Wの損金が発生するのは、電力会社が固定価格オプションを発動してからなのです。

前述したように、スキャナ電力は、東芝がS&Wを買収した時点で、固定価格オプションという契約を結びました。しかし、この固定価格オプションは、しばらく発動されませんでした。発動するかどうかは電力会社に委ねられていたのです。

つまり固定価格オプションは、まだS&Wの買収時点では「有効」にはなっていなかったのです。

S&Wは、買収された時点で、潜在的に70億ドル程度の損失を抱えていましたが、固定価格オプションが発動されていないので、この損失は、帳簿上はまだ損失という扱いにはなっていなかったのです。

S&Wの原発建設による追加費用は、当初はS&Wにとっては売上として計上されていたはずです。S&Wは、建設業者であり、建設工事が伸びたり、追加工事が発生すればその分、売上が増えることになります。だから、工事の遅延代金や追加工事の代金は、当然、売上に計上されていたはずです。

この追加代金は、電力会社が払うかも知れないし、WHが払うかもしれない。が、いずれにしろ、S&Wにとっては、追加工事は「売上」であり、損失ではなかったのです。

が、東芝が買収してから半年後、スキャナ電力は固定価格オプションを発動しました。

これにより、追加工事の費用のほとんどがWHにつけられることになります。WHにつけられるということは、つまりは東芝につけられるということです。

この時点で、S&Wは東芝に7000億円の損失をもたらしたのです。

だから、売り主のショー・グループとしては、「売却する時点では、70億ドルの損失はなかった」と強弁できないこともないのです。

こうしてみると、アメリカの電力会社とショー・グループは、一体となって東芝をはめたとしか見えないような構図です。

丸儲けしたアメリカの電力会社

東芝が窮地に陥ったのは、S&Wという大赤字会社を騙されて買収させられたからであり、S&Wが大赤字になったのは、固定価格オプションを結ばされてしまったからです。

通常、新しい原発の建設は費用超過がつきものなので、その負担は電力会社と受注企業が分担するのが通例となっています。

しかし、サウスカロライナのスキャナ電力の場合、超過コストをほとんど負担していません。スキャナ電力と東芝(WH)が、当初結んでいた原発建設契約の総額は約76億ドルでした。固定価格オプションによって追加費用を支払っても、総額は約77億ドルです。数十億の追加コストが発生しているのに、スキャナ電力の負担はほとんど増えていないのです。

東芝は、アメリカ側の巧妙な策に引っ掛かってとんでもないババを引かされてしまったのです。

しかも、さらに腹立たしいことがあります。

アメリカ側のスキャナ電力は、原発建設の超過コストを、ちゃっかりを電気料金の中に組み入れているのです。つまり、スキャナ電力は、住民から超過コスト代をせしめていながら、超過コストの負担は一切していないのです。

スキャナ電力のあるサウスカロライナでは、電力料金は、総括原価方式という価格設定方法が採られています。

アメリカでは、州によって電力料金の決め方が違っており、大まかに言って「総括原価方式」「電力自由化」の二つの地域がありますが、サウスカロライナは、「総括原価方式」を採っているのです。

総括原価方式というのは、電力をつくるためにかかったコストに、一定の利潤をプラスして決められるものです。当然のことながら、発電所の建設費も、この原価に含まれることになります。

東芝(WH)に原発建設を発注しているスキャナ電力は、2009年以降、電気料金を9回も値上げをし、18%増となっています。これは、原発建設の費用がかさんだために、電気料金に転嫁するという建前になっています。

が、前述したように、スキャナ電力は、当初の原発の建設の契約額から、ほとんど上乗せはしていません。

つまりは、スキャナ電力は、丸儲けしたということなのです。

2005年から始まったアメリカの新原子力発電事業は、2010年のシェール革命によるガス発電の大躍進と、2011年の福島第一原発の事故により、大きく後退しました。そして、建設中の原発は、巨大なコスト超過により、大きな損失を蒙りました。

現在、その損失を、全部、東芝一人が背負わされてしまったという構図になっています。東芝が破綻しかかっているのは、それが本当の原因なのです。

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『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』

著者/大村大次郎(記事一覧/メルマガ)

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出典元:まぐまぐニュース!