堤下敦(インパルス)

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 自動車の運転席で朦朧としているところを警察に保護された、お笑い芸人の堤下敦(インパルス)。そのニュースに「また薬物か」とザワついたが、実際は睡眠薬、抗アレルギー剤の服用後に自動車を運転していたということだった。関係者は一応にホッと胸を撫でおろしたことだろう。だが、たまたま事故にならなかったから良かったものの、悲惨な事故を起こす可能性が高かったことは間違いなく、何事もなかったのは奇跡的といってもいい。

 堤下はインタビューで「服用後は運転を控えるように」と医師から指導を受けていたと話しているが、本当ならこの医師の指導には違和感がある。一般的に、睡眠薬を患者に処方する際は、「就寝前の服用」を指導する。

 筆者は薬剤師だが、睡眠薬について説明する際は、「服用後は速やかに床に就くように」と指導する。なぜなら、個人差はあるものの、一般的に睡眠薬服用後は15分程度で効果が発現し、眠りに落ちていく人がほとんどだからだ。そして、必ず付け加えるのが、「服用後に起きていたり何か作業をしていると、うまく薬が効かなくなったり、服用後から寝付くまでの間の記憶が飛んでしまうことがあるので、必ず服用したらすぐに布団に入り、いつ眠りに落ちてもよい態勢でいるように」ということだ。

 医師の説明が不十分だったのか、堤下の理解が不十分だったのかは定かではないが、医師や薬剤師は、患者が説明を十分に理解しているかどうかを見極める必要があるだろう。

●重なった悪条件

 今回の堤下の軽はずみな行動は非難されてしかるべきだが、これまでの経緯を聞くと、気の毒な面もある。堤下は、1カ月ほど前から眠れないほどのひどい蕁麻疹に悩まされていたといい、心身ともに疲労困憊状態にあったことは想像できる。

 堤下が今回、服用したと公表されている薬は、レンドルミン、ベルソムラ、アレジオンだが、この3種類を服用したうえで自動車の運転をして、事故に至らなかったことはまさに奇跡かもしれない。

 レンドルミンは、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬である。脳のGABA受容体に作用し、脳の活動を抑制して強制的に眠くするように働く。

 ベルソムラは、脳内のオレキシン受容体拮抗薬と呼ばれる睡眠薬である。オレキシンは、オレキシン受容体に取り込まれ、脳を活性するように働く。睡眠に問題がない人は、オレキシンの分泌が日中に高く、夜に低くなる傾向にある。ベルソムラを服用すると、オレキシン受容体にオレキシンが取り込まれるのを阻止することで脳の活性を抑え、眠くすることができる。

 アレジオンは抗ヒスタミン薬と呼ばれる抗アレルギー薬であり、ヒスタミンを抑えるように働く。しかし、一方でヒスタミンは、脳を活性化する働きがあるため、ヒスタミンの働きが抗ヒスタミン薬により抑制されると眠気が起きるのだ。

 以上からも、堤下の行動がいかに軽はずみであったかわかるだろう。その上、血液の循環がよくなる入浴後に服用したことで、薬の効果の発現は速やかになったと予想される。

 今回の堤下の件は、まさに不幸中の幸いだ。副作用に、眠気を生じる薬があることも事実で、そういった副作用の発現は個人差が大きい。医師が指示した薬の服用時間には理由があり、安全に服用するには、守るべき決まりであることを読者諸氏にもあらためて認識していだきたいと願う。
(文=吉澤恵理/薬剤師)