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昨年、ドナルド・トランプ現象(注)が世界に拡散していることが、金融市場にとって不安材料となった。

注:ドナルド・トランプ現象

トランプ米大統領のように、過激発言で大衆を煽る政治家が人気を博す現象。ポピュリズム(大衆迎合型)を振りかざし、反資本主義、反グローバル主義の過激発言を繰り返す政治家が喝采を浴びる現象が世界に広がった。

今年に入ってからも、しばらく、トランプ現象・ポピュリズムの拡散は、留まるところを知らない勢いだった。ところが、ごく最近、少し異変が起こりつつある。トランプ型政治家が、単純に喝采を浴びなくなってきた。トランプ大統領の暴走が反面教師となり、激しい言葉で他国を罵倒し、大衆を煽る政治家に、警戒心を持つ人が増えてきた印象がある。

4-5月の仏大統領選で、中道・親EU派の「共和国前進」マクロン氏が勝利し、極右・反EU派の「国民戦線」ルペン党首が敗れたのが、その最初の兆しだ。

反EU・反移民・フランス第一を掲げるルペン党首は、歯に衣着せぬ過激発言で知られ、「フランス版ドナルド・トランプ」と言われていた。昨年、米国にトランプ旋風が吹きまくったのと同時に、フランスにはルペン旋風が吹き荒れた。ルペン氏の国民戦線は急速に勢力を拡大し、今年の大統領選で、ルペン大統領誕生の可能性もあるとの声も出ていた。

ところが、ルペン氏は、5月7日の大統領選の決戦投票で、親EU派で国際協調路線のマクロン氏に破れた。ルペン氏の主張は、反自由貿易・反移民・米国第一を掲げるトランプ大統領と共通だった。ルペン氏はトランプ大統領に親密感を持ち、トランプ現象が世界に広がることを、歓迎していた。

ところが最近、「パリ協定離脱」「ロシアゲート疑惑」などによって、トランプ大統領への熱狂が冷め、警戒が高まるにつれて、ルペン氏への熱狂もトーンダウンしたと考えられる。

6月11日に行われたフランス議会選挙(第1回投票)では、マクロン大統領の率いる「共和国前進」が大勝する勢いだ。ルペン党首の「国民戦線」の票が伸び悩んだのは、トランプ現象が収束しつつある事例と見られる。

6月8日に実施された英下院選挙では、途中まで、仏選挙とまったく同じ流れが出ていた。つまり、イギリス版ドナルド・トランプと言われ、昨年6月のEU離脱を問う英国民投票で、過激な演説によって、離脱派勝利を導いたボリス・ジョンソン前ロンドン市長や、イギリス独立党ナイジェル・ファラージ前党首の人気が低下し、代わって政権を担う保守党メイ首相の人気が上昇していた。

ジョンソン氏やファラージ氏が、EUと英国の関係について事実誤認の数字を使って、離脱キャンペーンを進めていたことが、離脱派勝利が決まった後に明らかになった。ファラージ氏は、実現不可能な公約を掲げて離脱を主張していたことをあっさり認め、党首を辞任した。両氏に対して、英国民から「無責任」との声が広がり、「離脱賛成に投票したことを後悔」との声も増えた。

イギリス独立党は、その後、地方選で大敗し、下院選挙でも議席をも失った。一方、保守党は、もともとEU残留派だったが、メイ首相はきっぱり離脱に舵を切り替え、ボリス・ジョンソン氏を外相に起用した上で、強硬離脱も辞さずと、強い姿勢でEUとの交渉に臨んだ。

メイ首相の姿を見て、英国民は、「大衆を煽るだけの政党や人物は信頼できない。責任政党である保守党メイ首相のリーダーシップのもとで団結して、離脱交渉を進めたほうが良い」と考え始めていた。

そのまま、保守党が6月8日の下院選挙で勝利していれば、仏大統領選・仏議会選とともに、典型的なトランプ現象衰退の事例となるはずだった。ところが、結果はまさかの敗退だった。改選前51%の議席を持っていた保守党は、過半数割れの49%しか得られず、今後の政権運営に困難をきたすことになった。改選前に35%の議席を占めていた第二党の労働党が議席を伸ばし、40%を獲得した。

なぜ、メイ首相率いる保守党は敗退したか? 以下、2つの理由が大きかったと思う。

(1) テロ対応遅れに対する批判

選挙直前に、イギリスでテロが相次いだ。労働党のコービン党首は、メイ首相が内相時代に警察官を2万人削減したために、テロが増加したと、メイ首相の責任を追及した。テロ続発が、メイ首相への反感につながった。

(2) 緊縮財政に対する批判

保守党は、大勝すると誤認したうえで、社会保障費削減を含む緊縮財政継続の公約を発表した。これに対し、英国民から、多数の批判が出た。労働党は社会保障を手厚くする公約を作り、貧富の格差拡大を招く保守党の政策を批判した。その結果、低所得者層の票が労働党に流れた。

保守党は、もともと資本主義・自由経済を信奉する政党だ。「鉄の女」の異名を持つサッチャー首相を生んだ政党としても知られる。近年、英経済は好調に推移していたが、その中で貧富の差が拡大し、社会的な分断が深まっていた。

社会的な弱者・低所得者の間では、資本主義や自由経済に対する不満が高まっていた。それが、昨年の英国民投票で、EU離脱派が勝利する原動力になったと言える。

メイ首相は、EU残留の考えを捨て、強硬離脱辞さずの姿勢で、EU交渉に臨んだ。その姿が、当初、EU離脱派からも残留派からも人気を集めた。そこで、強硬離脱さえ掲げていれば大勝できると誤認して、弱者に配慮しない公約を掲げて選挙戦に臨んだ。社会的な弱者の不満が高まっている現状を配慮せず、社会保障費カットの公約を掲げていては、選挙に負けるのは自明であった。

昨年は、社会的な分断を利用して、大衆を煽る政治家が躍進した。今は、大衆を煽る政治家への警戒が広がり、トランプ現象がやや終息してきている。ただし、社会的な分断が深まっているという問題の根幹は変わっていない。

メイ首相は、それを忘れて、大勝できると誤認し、まさかの敗北を喫することになった。

トランプ大統領に期待した、米社会の弱者も、そろそろトランプ大統領に裏切られたと感じ始めているはずである。オバマケア(医療保険改革)代替案、予算教書、大型減税推進では、弱者を切り捨て、大企業を優遇する姿勢が明らかになってきている。

金融市場では、ロシアゲート疑惑が深まりトランプ大統領があっさり辞任し、ペンス副大統領が大統領に昇格することを望む声も出ている。良識ある共和党大統領が登場すれば、金融市場は、好感するだろう。ただ、それでも、米社会の分断が深まっている問題は解決しない。

どういう形でロシアゲート疑惑が決着するか、世界が注目している。

○執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。

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