先鋭的な音像として機能する、アヴァンギャルドな南米の民族音楽 / 『タキ・アヤクーチョ』イルマ・オスノ(Album Review)

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 世の中には何度聴いても不思議な感覚の音楽が存在する。なかでも、南米アンデス地方に残るケチュアの歌は、別格といってもいいかもしれない。アンデス音楽というと「コンドルは飛んでいく」を思い出すだろうが、このイルマ・オスノによるアルバムには、それとはまったく雰囲気は違う。しかも、初めて聴く人にとって、彼女の鳥のさえずりや大地の響きのようなユニークなヴォーカルからは、深い森に迷い込んだような感覚に陥るだろう。

 イルマ・オスノは、ペルー出身だが現在は日本を拠点に活動しているシンガーだ。パートナーでもあるギタリストの笹久保伸とコラボレートしたアルバム『アヤクーチョの雨』(2013)も素晴らしい作品だったが、本作ではさらにパワーアップしている。基本は彼女の声を全面に押し出したシンプルな作品だ。しかし、歌なのか鳥の鳴き声なのか区別がつかないような独特の発声法を駆使し、ヴォーカルというよりもヴォイス・パフォーマンスと言ったほうがしっくりくるような前衛的なイメージも浮かび上がってくる。

 楽曲によっては、ケーナやチューバといった管楽器、ヴァイオリンやコントラバスなどの弦楽器を取り入れており、声を何層にも重ねることで、シンセサイザーのような効果を生み出しているサウンドも聴くことができる。これらは、いわゆる伝統に基づいたものではなく、あくまでも先鋭的な音像として機能している。いわば、伝統のフォルクローレをそのままなぞるのではなく、新たに今有効なサウンドへとアップデートしているのだ。だから、南米の民族音楽という感覚ではなく、エレクトロニカやアヴァンギャルドなサウンドを求めている人にこそ聴いてもらいたい。そう感じる、なんとも強力な作品なのである。


Text: 栗本 斉

◎リリース情報
『タキ・アヤクーチョ』
イルマ・オスノ
2017/06/04 RELEASE
2,500円(tax incl.)