オランダ戦から中3日で、初対戦となるベルギー戦に臨んだ「なでしこジャパン」は、後半に先制しながらもすぐさま追いつかれ、1-1の痛み分けとなった。

 まだ修正点はあるものの、オランダ戦で一定の守備の軸が見えた高倉麻子監督は、ベルギー入りしてから「ずっと試したかった」(高倉監督)という新たな取り組みに着手していた。3バックシステムである。


ベルギー戦に左ウィングで出場し、存在感を示した杉田亜未 ベルギーでの最初のトレーニングでそれは試された。4-4-2に慣れ親しんだ選手たちは、ピッチのあらゆるところで迷子になり、紅白戦でも穴を突かれて失点。特に守備においては、かなり手こずっていた。だが、それぞれ複雑な表情で終えた練習後に、日本は本領を発揮する。ミーティングで選手たちは詳細を確認、動きの意図と修正点をそれぞれのポジションで話し合った結果、翌日のトレーニングでは、前日には見られなかった流れが生まれていた。これが実戦でどう出るか、期待と不安が入り混じる中で迎えたベルギー戦だった。

 右から高木ひかり(ノジマステラ)、熊谷紗季(オリンピックリヨン)、市瀬菜々(ベガルタ仙台L)の3バック。中盤にはオランダ戦では左に入っていた中島依美(INAC神戸)が右サイド、阪口夢穂、中里優(ともに日テレ・ベレーザ)のボランチに、左サイドが杉田亜未(伊賀FC)。3トップのシャドウに長谷川唯(日テレ・ベレーザ)、横山久美(AC長野L)と田中美南(日テレ・ベレーザ)が前線についた。

 試合の立ち上がり、日本の4バックを想定していたベルギーは、中盤で数的優位に立ち、目まぐるしくボールを回していく日本に翻弄されていた。8分、DF裏へ狙いすました熊谷のロングフィードを阪口が頭でつなぎ、横山がミートさせたシュートはクロスバーを叩く。だが結果的には、この一連の流れが前半で最もキレのあった縦ラインの攻撃となり、守備を固め始めたベルギーを前に、徐々に前線にボールが入らなくなっていく。

 それでも、3バックの強みである中盤の厚みは攻撃に勢いをつけていた。最終ラインで攻撃起点を作り、阪口がスイッチを入れる。前線では田中が常に相手の背後を取る動きを見せ、横山は身長差のあるCBの足元で勝負しようとしていた。長谷川はいつものように縦横無尽に駆け回り、そこへ両サイドと中里らが絡みボールを回していく。

 中でもいい動きを見せていたのが、左サイドのウィングを担った杉田だ。慣れないスライドと、アップダウンの動きの中でも、受け身に回らないよう「先手を取りたい」という意識で挑んだ。守備では逆サイドを伺いながら時には最終ラインまで戻り、市瀬とサンドでボールを奪取。課題の攻撃では、熊谷からのロングフィードを足元にピタリを受け止め、そのまま前線にまで顔を出す。

 このように、高倉監督の目指す”ポジションのないサッカー”の片鱗が形作られる場面も確かにあった。しかし、前半30分を過ぎる頃には最後の1本、バイタルでの脅威になる1本が全く通らなくなっていた。

 後半に入ると、状況が一変する。ハーフタイムで修正を図ったベルギーが攻勢に出た。日本は左サイドの最終ラインに鮫島彩(INAC神戸)、中盤に佐々木繭(ベガルタ仙台L)を投入。前線には菅澤優衣香(浦和レッズL)を送り出し、メンバーを代えての3バックにチャレンジしたが、ポロポロと3バックのリスクの部分が現れてきた。もちろん、それも折り込み済みではあるが、実戦は初めてのこと。次々と起こるピンチをいなしながら、懸命に対応していく。トップのケイマンの突破には中里、鮫島、熊谷とで囲い込み、ファンゴルプの走り出しには高木が目いっぱいに足を伸ばした。

 攻撃の形が作れないまま時間は流れたが、69分、ついに菅澤がベルギーゴールをこじ開ける。籾木結花(日テレ・ベレーザ)の蹴ったFKのクリアミスを見逃さなかった菅澤が、左足を振り抜いた。ところが、その3分後、ケイマンに右サイドを破られ、走り込んだファンゴルプに頭で合わせられ、すぐさま同点。3バックのリスクを痛感する失点であるとともに、この時間帯の反撃は何が何でも押さえなければならない課題のひとつだった。

 結局、このまま試合は終了。ヨーロッパ選手権を目前に控えたベルギー選手たちが抱き合う中、対照的になでしこたちの表情は沈んでいた。

 「何も起きなかった」――。高倉監督は厳しい口調でこう言った。そもそも、3バックは攻撃の厚みを期待してのものだった。ベースに据えるためではなく、あくまでもオプションのひとつ。高倉ジャパンとして約1年半経験を積み、7月にはアメリカ、ブラジル、オーストラリアと戦うアメリカ遠征を控えた今しかトライできなかったことでもある。

 3バックの視界を得ることで、この遠征のテーマだった”崩せる攻撃”に新たな一面を加える可能性があった。だが、結果としては、期待できる場面も見られたが、想定以上に攻撃が停滞してしまった。

 相手の対応が後手に回っている前半に決定機を量産できなかったこと。後半に主導権を握られたこと。これらを守備の要である熊谷は「相手がハメてきたのではなく、自分たちの(ボールの)取られ方が悪かった」と振り返った。

 問題はやはり攻撃面だ。最終ラインは縦の展開を狙っていた。最終ラインの3人がボールを持つ前、必ず前線のスペースの確認をする。スイッチャーであるボランチの阪口も縦パスを狙い続けている。追求しているのは”怖さ”だ。

「横パスは言ってしまえば遊び。縦パスこそ攻撃のスイッチ」(阪口)になるという。今のなでしこには類まれな”うまさ”がある。しかし、バイタルで勝負する相手にとっての”怖さ”がない。誰でも得意なプレーで勝負したいと思うものだが、それだけではつながらない。時には自分たちの持ち味以外のことを織り交ぜながら、コンビネーションを作り出せない限り、この長いトンネルから抜け出す方法はない。

 ぶつ切り感のある今の攻撃力は、そのまま”個”の力と置き換えることもできる。”個”の強さももちろん求められるが、日本の十八番はやはりコンビネーション。所属チーム同士だけでなく、なでしこジャパンでなければ生み出せない”個”を生かしたコンビネーション攻撃が生まれたとき、なでしこジャパンは確実に強くなるはずだ。

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