メールで損する"キラキラ署名"という地雷
何気なく送ったメールが、実は上司や取引先をイラッとさせているかもしれない。ビジネスメールの第一人者が、ちょっとしたNGポイントを解説する。
■4割以上の人が不快なメールの被害者
私は、一般社団法人日本ビジネスメール協会の代表として、ビジネスメールの研修やコンサルティングを行っており、研修の回数は毎年100回以上に上ります。また、2007年から10年以上に渡り「ビジネスメール実態調査」を実施してきました。これは、仕事でメールを使っている人を対象に行っている、日本で唯一のビジネスメールに関する継続した調査です。
今回、『イラッとされないビジネスメール 正解 不正解』(サンクチュアリ出版)という監修書を出版するにあたり、「役職者たちはメールについてどう感じているのか?」を調べました。「ビジネスメール実態調査」の回答者から約1000社の役職者をピックアップし、再集計した結果、「過去1年間に仕事でメールを受け取り、不快に感じたことがある人がなんと4割以上もいたのです。
しかも恐ろしいもので、およそ78%もの人がその不快感を指摘しないのです。メールは対面や電話と違い、相手の表情や声色を読み取ることができないコミュニケーション手段。すなわち、相手がイラっとしていることに気づかず、何度も同じ過ちを犯す恐れが実に高いのです。
あなたが何気なく送ったメールによって、人間関係がギクシャクしたり、取引を考え直されたりすることがあるかもしれません。それがメールの怖いところです。ここでは、メールで相手に不快感を抱かせてしまいがちなNGポイントを、いくつか見ていきましょう。
■「目立ちすぎる件名」はNG
メールを受信した際、最初に見るのが件名です。メールの優先順位を件名で判断するという人もいます。ですから、わかりやすくて目立つ件名をつけたいものです。
ただし、目立つ件名であることは大切ですが、目立とうとしすぎるのは問題です。たとえば、件名の冒頭に記号をつける人がいますが、やりすぎるとおかしなことになります。
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たしかに、これらのメールは受信箱の中で目立つでしょう。しかし、メールマガジンやただの営業メールと誤解され、読まずに削除される恐れがあります。特に「★」や「♪」など、ビジネスの現場にはふさわしくない記号なら、なおさらでしょう。
もしも記号を使うなら、「【 】」「( )」「< >」などの記号を、特に重要な連絡の際だけ使ってみてください。たとえば、返信のない相手に同じ用件を再送する場合や、請求書を依頼するようなケースです。
【再送】提案書のご確認のお願い
<確認>6月12日(月)ご訪問時間について
(ご請求書発行依頼)6月納品分
目立つことと、悪目立ちすることの違いを押さえて、件名にうまく記号を使ってみてください。
■「キラキラ署名」は悪目立ちする
メールの最後には必ず署名をつけるのが相手へのマナーです。住所や電話番号を含んだ署名があれば、電話で折り返し連絡したり、書類を郵送したりすることがスムーズにできます。署名はネット上の名刺のようなものだと思って、名刺に書くのと同程度の情報を入れておきましょう。
署名のレイアウトにも注意が必要です。件名同様、悪目立ちをしてはいけません。「★」や「♪」を多用するなど、次のような「キラキラ署名」は避けるべきです。
▼キラキラ署名
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株式会社サンクア商事
営業部第一課 沢田優子
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
〒×××-××××
東京都千代田区神田×-×-× 柳田ビル5階
TEL ××-××××-×××× FAX ××-××××-××××
メール sawada@×××.com
URL http://www.×××.com
☆.。:・★.。:*・☆.。:*☆.。:*・.。:*・☆.。:・★.。:*・☆.。:*☆.。:*・.。:*・☆
たとえば、シリアスな話題のあとに、このような飾り立てた署名があると、「この人は真面目に仕事に取り組んでいるのだろうか」「状況を理解しているのだろうか」と仕事への姿勢を疑われてしまう恐れがあります。
レイアウトはシンプルイズベスト。「■」「▼」などの記号は最低限にとどめ、太い罫線で本文と区切るといいでしょう。あなたがもし「キラキラ署名」を設定しているなら、次のような「シンプル署名」に変更することをおすすめします。
▼シンプル署名
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株式会社サンクア商事
営業部第一課 沢田優子
〒×××-××××
東京都千代田区神田×-×-× 柳田ビル5階
TEL ××-××××-×××× FAX ××-××××-××××
メール sawada@×××.com
URL http://www.×××.com
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署名は宣伝スペースとして利用することもできます。商品の発売や、ホームページのリニューアル、店舗の開店時間や問い合わせ時間などがPR材料です。この取り組みは、会社全体で行なうと予想以上の効果を発揮するので、工夫してみる価値があります。
ただ、長すぎると読み手をイラっとさせてしまうことになりますから、署名と合わせて10行以内、多くても15行以内に収めるようにしましょう。
■「顔文字」の使用は相手との関係次第
メールの普及とともに生まれてきたのが、顔文字の文化です。顔文字は気持ちを表現するのに便利なツールですが、ビジネスメールで使用してもいいのでしょうか?
よろしくお願いします(^^)/
ご提案ありがとうございます♪
大変申し訳ございませんm(_ _)m
もしも、このような文章を含んだビジネスメールが送られてきたら、「ふざけている」「なんだこの態度は」と、イラッとされてしまうかもしれません。
顔文字の類いはビジネスの場では基本的にNG。使わないようにしましょう。ただし、仲のよい同僚同士など関係が構築できている間柄で、軽い報告などをする場合に使うのは例外です。その意味では、あくまで相手との関係による、といえるでしょう。
また、まれに多少の顔文字が許容されるビジネスシーンもあります。たとえば、美容院がなじみ客に送るメールなどのケースです。フレンドリーな対応でお客さまとの関係が深めたいという場合には、多用しすぎない程度で使ってもよいでしょう。
■不快感を排除するチェックポイント
これまで、メールで相手に不快感を抱かせるポイントをいくつか見てきました。しかし、実際には、不快感は読み手の感覚によって異なります。つまり、イラッとするかどうかは個人差があり、イラッとするポイントも異なるということです。
ならば、相手のことなど気にせず「自己流」のメールを書き続ければよいのか? いえ、決してそんなことはありません。読み手がどう受け取るかはわからないからこそ、「書き手のときには、読み手が敏感な人であることを想定する」ことが必要です。
ていねいなメールを書いて、不快に思われることはありません。下記のチェックポイントを使って、メールで不快感を与えそうな要素を、極力、排除しましょう。
・誤解を与える表現になっていないか?
・相手の疑問や問い合わせにきちんと答えているか?
・失礼な表現はないか?
・敬語の誤りはないか?
・自分の都合を押しつけていないか?
・相手への気づかいができているか?
メールをする際は、以上の6項目を常に念頭におくように意識づけましょう。
大事な上司や取引先をイラッとさせる前に、自分のメールを見直してみてくださいね。正しい書き方、送り方を身に付ければ、メールはあなたの仕事にとって一生モノの武器になるはずです。
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一般社団法人日本ビジネスメール協会代表理事/株式会社アイ・コミュニケーション代表取締役
1974年生まれ。筑波大学人間学類(認知心理学)卒業。広告代理店勤務を経て2003年にメルマガコンサルタントとして独立。2004年、アイ・コミュニケーション設立。2013年、一般社団法人日本ビジネスメール協会設立。ビジネスメール教育の第一人者として知られ、メールマナーに関するメディア掲載400回以上、著書25冊。メールを活用した営業手法には定評があり、メールとウェブマーケティングを駆使して5000社の顧客を開拓。メールスキル向上指導、組織のメールに関するルール策定、メールの効率化による業務改善や生産性向上などを手がける。官公庁や企業などへのコンサルティングや講演、研修回数は年間100回を超える。著書や監修本には『仕事が速い人はどんなメールを書いているのか』(文響社)、『カリスマ講師に学ぶ! 実践ビジネスメール教室』(日経BP社)、『誰も教えてくれなかった ビジネスメールの書き方・送り方』(あさ出版)、『短いフレーズで気持ちが伝わる モノの書き方サクッとノート』(永岡書店)などがある。一般社団法人日本ビジネスメール協会 http://businessmail.or.jp/
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(一般社団法人日本ビジネスメール協会代表理事/株式会社アイ・コミュニケーション代表取締役 平野 友朗)