ショウガや白ワインの風味を利かせたJA大阪南の「焼きなす醤油」(大阪府富田林市で)

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 卵かけご飯“TKG”専用しょうゆに続け――。ナスの消費拡大につなげようと、産地や生産者が開発した焼きナス専用しょうゆが登場している。大阪府JA大阪南は、農家の声をヒントに1年かけてショウガや白ワインを加えて開発。愛知県の農家も、消費拡大につなげている。日本の食卓に“YNS”が浸透する契機になるか――。

特産 消費拡大懸ける


 同JAはハウスでのナス栽培が盛んで、府とJAグループ大阪が選定するなにわ特産品にも指定され、「大阪なす」としてブランド化している。JAによると、2016年産の市場出荷量は約1116トンと、ここ数年は微減傾向にある。

 消費拡大の方法を探る中、農家に聞き取りした際に上がった「一番おいしい食べ方は焼きナス」という言葉をヒントに開発に着手した。

 JAは府やJA大阪中央会などとプロジェクトチームを結成。試作を重ね、地元産の白ワインの酸味とショウガの風味を生かした甘口のしょうゆ「焼きなす醤油(しょうゆ)」を開発した。

 堺市のしょうゆメーカー大醤が製造し、JAの農産物直売所「あすかてくるで」で350円(200ミリリットル)で販売。今年度は1500本、来年度は5000本を目標にする。JA営農指導部の井之上佳嗣部長は「ナスの消費を増やし、農家所得の向上につなげたい」と意気込む。

 JA茄子(なす)部会の齋藤仁之会長は「このしょうゆで焼きナスを食べてみたが、ショウガが利いてよく合う。『大阪なす』の知名度が上がってほしい」と期待する。

 愛知県岡崎市額田地区でナスを栽培する伊藤園は、岐阜のしょうゆメーカーと開発した甘口しょうゆ「茄子にかけるだし醤油おかけなすって」を販売する。

 初年度の15年度は約300本(1本200ミリリットル)、16年度は2倍を超える約700本を販売し、人気上昇中だ。この商品が市内のスーパーの目に留まり、このスーパーが同地区のナスを仕入れるようになった。

 同園の伊藤吉孝さん(41)は「額田産ナスの認知度向上と消費拡大につなげたい」と話す。

ブームあやかれ 商品続々


 アイスクリームや納豆、目玉焼き、かき氷――。料理や食材に合わせる専用しょうゆは増えている。先駆けとなった卵かけご飯専用しょうゆは、05年に島根県雲南市で第1回日本たまごかけごはんシンポジウムが開かれるなど、卵かけご飯ブームに乗り、大ヒット。“TKG”の俗称も登場した。

 02年から「おたまはん」を販売する同市の吉田ふるさと村は、最盛期の05、06年には年間約50万本(1本150ミリリットル)、現在は年間10万本を販売する。累計で300万本以上を売り上げている。

 しょうゆの生産量は年々減少傾向にある中、専用しょうゆは健闘している。全国のしょうゆ業者でつくる日本醤油協会によると、16年度は約77万6000キロリットルと10年前と比べて2割近く減少。一方で、専用しょうゆ単独の調査はないが、しょうゆ業者が製造する「しょうゆ加工品(専用しょうゆを含む)」は、ここ10年間、年間約6万キロリットルと、横ばいを維持する。

 同協会は「専用しょうゆは増えている。しょうゆ生産量が減る中、新たな需要を喚起する狙いがあるのでは」とみる。(藤田一樹)

農産物とセットで 


 青果物流通のコンサルティング会社、ヒューマンコミュニケーションズの阿比留みど里代表の話

 しょうゆは地域によって味が異なり、農産物もその土地ならではの“地味”がある。その地域のナスに最も合うしょうゆもあるはずで、農産物としょうゆをセットで売り出す新しいブームが生まれる可能性もある。専用しょうゆは、農産物の消費拡大にもプラスになるだろう。