連載第5回となる今回のテーマは、働き方改革を促進する「制度・ルール」である。

 働き方改革とは「人の働き方を変える」というテーマである以上、社員の意識・行動変革をゴールに据えた取組みであることは言うまでもない。そして制度・ルールとは、その運用を通じて社員に刺激を与え、望ましい行動を促すためのものである。

 それでは以下、制度・ルール構築のポイントを見ていこう。

◎連載「働き方改革を進めるポイント」のバックナンバー
(第1回)会社が働き方を変える前に必ずやっておくべきこと
(第2回)なぜ社員は帰れないのか?要因ごとに残業を削減する
(第3回)同時に実現すべき女性活躍と働き方改革
(第4回)働き方改革の軸は「目指す人材像と働き方像」

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【1】制度・ルールの全体観

 まず、どのような機能を持つ制度・ルールが検討対象になるかを確認しておこう。働き方改革とは、「生産年齢人口が減少する中で、(1)労働力をいかに確保するか、(2)1人当たりの生産性をいかに高めるか」という課題に対する取り組みである。

 (1)については、これまで労働市場から余儀なく退出していた「制約を抱える人材」を雇用し活用できるよう、働く時間や場所の柔軟性を高める制度が検討対象となる。

 また(2)については、インプットである労働時間の削減とアウトプットである業務成果の増大に資する制度が検討の対象になる。つまり「フレキシビリティ(柔軟性)」と「プロダクティビティ(生産性)」双方の向上が制度・ルール構築の主眼であると整理できよう。

 次に制度・ルールの適用範囲の違いで見ると、全社を適用範囲とするものと、職場単位で適用されるものとがある。前者は一般的に人事部が企画立案することになろう。一方、後者は各職場が自発的に企画立案し導入するものである。

【2】制度・ルールの具体例

 それでは制度・ルールの具体例を挙げてみたい。まず「フレキシビリティ」向上を主眼とした制度である。前述したとおり、働く「時間」や「場所」の柔軟性を高めるものが該当する。代表例は以下のとおりである。

(1)働く時間の柔軟性向上

 フレックスタイム制、有給休暇促進施策(時間単位取得可、計画的付与)、様々な休暇制度(ファミリーサポート休暇、バースデー休暇など)など

(2)働く場所の柔軟性向上

 在宅勤務、サテライトオフィス勤務など

 なお、近年では「働く“時期”の柔軟性」を高める、例えばキャリアアップ休職制度(資格取得や海外留学等を理由とした休職)や出戻り制度(一度退職した社員の再入社を促進する制度)などを設ける会社もある。

 このように「社員が抱える制約条件への対応」という範疇を超えてフレキシビリティを高める動きは、社員を会社に縛り付けるのではなく、主体的な選択の余地を与えることで「働きやすい会社」にすることが社員の採用や引き留めに有効であるという考え方に基づいている。

 次に、「プロダクティビティ」向上を主眼とする制度である。プロダクティビティの向上は、インプットである労働時間の削減とアウトプットである業務成果の増大によりもたらされる。そのアプローチは大きくは、「労働時間制度による規制」と「評価・処遇制度によるインセンティブ」、そして「教育」の3つである。それぞれの代表例は以下のとおりである。

(1)労働時間制度による規制

 ノー残業デー、勤務時間短縮日の設定(プレミアムフライデー等)、残業事前申請制など

(2)評価・処遇制度によるインセンティブ

 業務改善や時間効率の高い働き方を評価する人事評価制度、目標管理制度、残業代削減分の賞与原資加算など

(3)教育による意識啓発・能力開発

 タイムマネジメント、業務改善スキル、管理職向け時間管理スキルなど

 これら個々の制度・ルールについて、全社適用とするか職場単位での適用とするかを判断する。人事評価制度や労働時間制度、教育制度など必然的に全社適用となるものを除いた他は、改革の進展度や重点方針等から判断することになる。

 以上をまとめたのが下図である。

働き方の変革を促す制度・ルール(例)


【3】制度・ルール構築のポイント

 これら制度・ルールを構築するうえでは、個々の制度・ルールごとに期待効果と副作用を明らかにしておくことがポイントとなる。なぜなら働き方改革においては、例えば「働く場所の柔軟性を高める一方、業務進捗管理が難しくなる在宅勤務の導入」と「業務目標の達成」といった、両立が難しい“二兎”を追うことが求められるからである。

 先の在宅勤務の例でも分かるとおり、個々の制度・ルールには必ず期待効果と副作用の両面が内在している。どちらがより強く現れるかは導入してみないと分からない。しかし事前に仮説を立てて副作用を抑制する施策をセットで打つことは可能である。

 また制度導入後は、望ましい変化と望ましくない変化の両方を捉えて対策を打ち続けることが求められる。そのためには人事部と各職場がそれぞれにアンテナを張って情報を共有し、意見を出し合いながら連携して進めることがポイントである。

 最後に、制度・ルール構築の企画立案者に一言。本稿のはじめに働き方改革のゴールは社員の意識・行動変換であると述べたが、働き方、すなわち「どのように働くか」の前に、「なぜ働くか」という問いに向き合うことで自身の働き方に意志が込められるであろう。企画立案者は「なぜ働くか」という問いに対して自分なりの回答を持ち、制度導入時にメッセージとして発信するとともに、社員一人ひとりがその問いに向き合うよう促す役割を果たすことを期待したい。

筆者:大久保 秀明