シャロン・モアレム(写真:Alex Tran)  受賞歴のある科学者、内科医、そしてノンフィクション作家で、研究と著作を通じ、医学、遺伝学、歴史、生物学をブレンドするという新しく魅力的な方法によって、人間の身体が機能する仕組みを説いている。ニューヨークのマウント・サイナイ医学大学院にて医学を修め、神経遺伝学、進化医学、人間生理学において博士号を取得。その科学的な研究は、「スーパーバグ」すなわち薬が効かない多剤耐性微生物に対する画期的な抗生物質「シデロシリン」の発見につながった。また、バイオテクノロジーやヒトの健康に関する特許を世界中で25件以上取得していて、バイオテクノロジー企業2社の共同創設者でもある。もともとはアルツハイマー病による祖父の死と遺伝病の関係を疑ったことをきっかけに医学研究の道に進んだ人物で、同病の遺伝的関係の新発見で知られるようになった。著書に、『迷惑な進化』(NHK出版)、『人はなぜSEXをするのか?』(アスペクト)があり、35を超える言語に翻訳されている。http://sharonmoalem.com/

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「顔や外見でしか見つけることのできない、遺伝子疾患がある」――一見すると信じられない話だが、もしこれが「本当」だとしたら? いまホットな遺伝子のトピック「エピジェネティクス」を解き明かした『遺伝子は、変えられる。』著者、シャロン・モアレム氏に、遺伝にまつわる最新情報を聞く特別インタビュー、第2回!「遺伝学者×医師」として、6000を超える希少疾患患者と向き合い、治療にあたるモアレム氏が教える、診察の切り札「ディスモルフォロジー」とは?(インタビュアー:大野和基)

遺伝学者の診察室では、何が行われているのか?

―― 本の中でもっともおもしろかった話の1つは、ディスモルフォロジー(異形学)についてです。具体的に教えていただけませんか。

モアレム ディスモルフォロジー(dysmorphology)は顔や手足などの身体部位の各構成要素をヒントとして活用して、個人の遺伝状況を把握し、診療に応用しようとする臨床遺伝学の一分野です。

 1つ例を挙げましょう。私の妻は「睫毛重生症リンパ浮腫症候群」という、FoxC2(フォックス・シー・トゥー)という遺伝子の突然変異で起きる疾患を抱えています。この疾患についてわかっていることは、疾患名のとおり体内のリンパ系に影響すること。実は私は、結婚して5年ほど経つまで妻のまつげの異形に気づきませんでした。この遺伝子の突然変異を抱えていると、まつげが2列になっています。ディスモルフォロジストを自認しているにもかかわらず、これほど明確で隠し通せないサインに、私は気づかなかったのです。

 私たちは誰もが、受け継いだDNAの中にこうした隠せないサインを抱えています。そのサインを見つけるには、どこをどう見るか、ということについて知識がないとできません。そのための体系的な学問が、ディスモルフォロジーです。

―― 顔や外見を見て難病を見抜くというのは興味深いです。どうしてそのような関心を持ったのでしょうか。

モアレム 日本での経験が影響しています。私は、過去にJETプログラム(注:外務省、文部科学省、総務省の協力のもと、地方公共団体が、諸外国の若者を特別職の地方公務員として任用し、日本全国の小学校、中学校や高校で外国語やスポーツなどを教えたり、地方公共団体で国際交流のために働いたりする機会を提供するプログラム(外務省ホームページより))で日本に1年間住んでいたことがあります。この経験は、自分の文化と異なる文化を自分の目で見ることになり、その後の自分に非常に影響するものとなりました。そのカルチャーショックのおかげで、私はアメリカに戻ってからもものごとを新しい角度からみるようになったのです。難病を通して、遺伝学をユニークな角度からみるようになったのはその日本の経験がかなり影響しています。

―― さきほどのディスモルフォロジーと遺伝学者としての関心が結びついたのですね。

モアレム 重要なのは、顔のどこをどう見るかを知っておかなければならないということです。日本に住んでいるときに非常に興味深いと思ったのは、日本人の肉体的な形態が私たちは欧米人とは非常に異なっていることです。そして、同じ日本人の中でも典型的な顔がいくつかあります。これが日本人の先祖を反映しています。

 でももっとも重要なことは、こうした身体の外見的な特徴が、遺伝的に何を継承しているのかを見るためのユニークな「窓」を提供してくれることです。

>>>「遺伝学者×医師」が明かす遺伝子検査の問題に迫るインタビュー第3回は、2017年6月19日公開予定です。