大胆な変革に踏み切ったハリルホジッチ監督だったが、イラク戦では大きな効果は見られなかった。写真:佐藤明(サッカーダイジェスト写真部)

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[ロシアワールドカップ・アジア最終予選]日本 1-1 イラク/6月13日/PASスタジアム

 勝点3が欲しい重要な一戦で、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、いくつもの新しい選択をした。守備の要となる逆三角形を形成したのは、昌子源、遠藤航、井手口陽介と、いずれもワールドカップ予選では初スタメンの選手たちである。さらに香川真司を欠いたトップ下には原口元気を、久保裕也は左サイドに据えた。言うまでもなく、故障者が連なり苦肉の策だった。ただし指揮官の能力が問われるのは、こうした窮状を想定して、どれだけ計画的に準備を施せるかである。
 
 理解に苦しむのは、よりによって自ら重要だと定義づけたイラク戦に向けて、かつてない大胆な変革を図ったことだ。確かに「日本代表の門戸は誰にでも開かれ、常連も決して安泰ではない」というメッセージは伝わった。しかしこの選択が、現実にテヘランのピッチで効果を示したかと言えば、大きな疑問符しか残らない。
 
 例えば、昌子は新戦力ではないし、クラブレベルでは十分な経験を重ねている。昨年末のクラブワールドカップでのパフォーマンスを見れば、吉田麻也のパートナーとして最適候補なのは、衆目の一致するところだろう。ところがこれまでハリルホジッチ監督がチャンスを与えたのは、昨年7-2で大勝したブルガリア戦(キリンカップ)の残り6分間だけだった。3月のタイ戦は57分間で3点差をつけ、予選を経験させるには格好の条件が揃ったが、優先させたのは力の分かり切った本田圭佑、清武弘嗣、宇佐美貴史のコンディションチェックだった。結局昌子は、ようやくシリア戦で初めて先発し1試合をこなしただけで、日本代表の命運が懸かる一戦に臨むことになった。
 
 それでもイラク戦の昌子は、前へのチャレンジ、危機察知、ラインコントロールを含めて及第点のプレーを見せている。だがチームを指揮する立場からすれば、新しいカードを切る今回だからこそ森重真人というセーフティネットも用意しておくべきだったのではないか。実際3月のUAE戦(アウェー)では、心身ともに痺れるような展開が想定されたからこそ大ベテランの今野泰幸を起用したはずだが、今回の奇抜な選考と見比べると、ますます整合性が取れない。現時点で戦力とは見込み難い加藤恒平や三浦玄太の招集は、本大会への出場を決めてからでも遅くはなかった。
 もちろん選択肢の幅に視点を絞れば、収穫は少なくない。シリア戦途中で緊急出動となった井手口は、躊躇ないチャレンジや広範な動きを見せ、左右のサイドにもサポートに出て攻撃面でも起点となった。試合後の会見では代表復帰の乾貴士についての質問が続いたわけだが、指揮官自らが敢えて「井手口も良かった」とつけ加えたほどで、そのままチャンスを活かしてイラク戦の抜擢につながった。
 
 今回の加藤のサプライズ抜擢からも窺えるように、どうやら現状でハリルホジッチ監督が最も苦慮しているのは、闘えて攻守のバランスに長けた理想のボランチ探しである。

 最終予選初戦(対UAE=ホーム)では、唐突に大島僚太を抜擢して痛い目に遭い、山口蛍をアンカーに据えた形も模索したが、完全に納得の様子ではない。オランダでレギュラーに定着している小林祐希を横目に、ブルガリアから加藤を呼んだのも、小林の適性がこのポジションではないと見ている証左なのだろう。適任を見出せない懸念のポジションで選択肢が広がり、しかも井手口、遠藤と若い世代が加わって来たことは朗報だ。だが予選を抜け出して世界への道が開けた時点で、当然ハリルホジッチ監督のチーム作りの基準も少なからず変化してくるはずである。
 
 今、指揮官の試行錯誤ぶりからは、焦燥が透けて見える。新陳代謝の必要性は感じるが、一方で予選突破という最優先の命題に確実な見通しが立たない。たまたまイラク戦では窮状に直面し、新戦力が巡って来たチャンスを活かしたし、また代表とはそうやって活気づいていくものなのかもしれない。しかし反面、手にした収穫の裏に、名将ならではの深謀遠慮や確かな設計図があるようには見えない。
 
文:加部 究(スポーツライター)