「新しい副業」相談に乗って時給1.5万也

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自分のこれまでの仕事経験や知見を提供し、1時間につき平均約1万5000円の報酬を得るサービスが広がりつつある。ビジネスパーソンがスキマ時間を有効活用する方法とは――。

■「時給1.5万」の副業には、すごい副次効果があった!

2017年3月、政府の「働き方改革実現会議」で決定された「働き方改革実行計画」のなかで、次のような言及がありました。

●副業や兼業は新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段である。
●副業や兼業は第2の人生の準備として有効である。
●副業・兼業を認める企業は現状極めて少なく、その普及を図っていくことは重要。

現在、副業の解禁は企業・個人双方にとってメリットのある施策であると期待されています。本稿では、ビザスク(東京・目黒区)の代表取締役CEO、端羽英子氏に協力をいただき、ビジネスパーソンが副業を行う意義について考えてみます。

ビザスクは1時間単位でコンサルティングサービスを提供するための専用プラットフォームを日本で初めて本格運営し、クライアント(相談したい人・企業)とアドバイザー(電話や対面などで自分の経験や知見を踏まえアドバイスをする人)のマッチングを行っている企業です。

たとえば、実務経験に基づくアドバイスや成功事例を求めるクライアントに対して、アドバイザーが約1時間の「スポットコンサルテーション」を提供し、その対価として報酬(後述)を得る。

▼自分の経験や知見が「役に立つ」喜び

ちょっと驚くのは、このビザスクにアドバイザー登録する人がここ1年で2倍以上の3万6000人(2016年7月時点では1万7000人だった)に達していることです。そのうち、企業に所属する現役のビジネスパーソンの割合は約7割。ビザスクはビジネスパーソンに対して、本業以外の時間の“スキマ時間(約1時間)”を活用した副業の機会を提供しているともいえます。

【1:自分が所属する業界×携わっている業務の掛け合わせでアドバイス】

日本総合研究所が実施をした調査によれば、首都圏に勤務する40代、50代の男性管理職のうち、約3割が「副業・兼業規定の緩和」を求めていることが明らかになっています。しかし、副業への関心を持ちつつも、いざ副業に挑戦するためには、自分が何をできるのか、悩まれる方も多いのではないでしょうか。

ビザスクではこの点を工夫しています。転職経験がないビジネスパーソンでも、自分自身のプロフィールの登録をしやすくするために、「所属している業界」と、「仕事上で携わっている業務」のそれぞれを選択できるようにしているのです。

■90歳まで稼げる自分だけの「掛け合わせ」を探せ

所属している業界には、たとえば、製造業、ヘルスケア、小売・飲食・生活、金融、建設・不動産、メディア、教育などがあります。

携わっている業務には、新規事業・R&D、経営・管理部門、生産・調達、営業・マーケティング、IT・システム、海外ビジネス、専門職などがあります。

業界×業務という経験の“掛け合わせ”で登録できる仕組みが同社の特徴の1つですが、実は、そのような仕組みとなっている理由として、端羽氏からはこう語ります。

「私自身、物心ついた頃から生涯働き続ける上で必要なことを考えながら生きてきました。これからは人生100年時代と言われますが、まさに90歳まで稼げる自分でいるためにはどうしたら良いかを考えてきたのです。大学を卒業してすぐに子どもを出産したこともあり、子育てをしながら働き続けるために普通の人より工夫する必要もありました。MIT(マサチューセッツ工科大学)に留学をしたときに、“掛け合わせ”によって、ブランディングすることが重要であると教えてもらったことがキャリアのヒントとなりました。私の場合は、今まで勤めてきた業界や業務の内容から、金融×会計、事業会社×金融などを軸に掛け合わせをしながら、キャリアをつなげることを考えて生きてきました」

自分の今までのキャリアを振り返り、“掛け合わせ”という発想で自分自身の経験やスキルを整理してみることは、副業の準備を含め今後のキャリアを考える上で参考になるのではないでしょうか。

好むと好まざるとにかかわらずやってくる、「人生100年時代」。端羽氏が語るように、「90歳まで稼げるスキル」を備えるためにも、副業の経験値を今から高めることが必要かもしれません。

 

▼副業をすると、自分史上最高の自己研鑽を積める

【2:副業を通じて得られるさまざまな経験】

経済産業省の「平成26年度兼業 ・副業に係る取組み実態調査」によれば、副業を行うメリットについて、「将来の起業に向けて準備ができる」「副業が物事の視野を広くしてくれる」「本業とは異なるスキルが身につく」「社外の人脈が広がった」など、自己研鑽につながるという意見が多いことが特徴として挙げられています。

端羽氏もこう語ります。「人に感謝されてうれしかった、経験の棚卸しができてよかったという声を多く頂きます。副業を契機に本業でさらに頑張れるようになったという方もいらっしゃいます」。

■1時間相談に乗って「自分」の市場価値を知る

参考までに、ビザスクのウェブサイトで紹介されている、「スポットコンサルテーション」の依頼(クライアント)内容と謝礼額は次の通りです。

【ケース1】オウンドメディアの運用・改善経験がある方に話を伺いたい
【相談の目的・背景】運営している自社メディアのサイトがありますが、アクセス数が伸び悩んでおり、より広告効果を期待する自社メディアとして運用強化したい
【聞きたい人】教育業界の企業
【実施方法】対面(福岡) or 電話
【謝礼額】5000円 〜 1万円

【ケース2】都内の宿泊施設(簡易ホテル)のマーケティング、予約受付業務経験者に話が聞きたい
【相談の目的・背景】都内にてホテルの運営をしているのですが、顧客数・単価アップに向けた改善点をお聞きしたい
【聞きたい人】施設のリノベーションや運営などを行う企業
【実施方法】対面(東京)
【謝礼額】1万 〜 1.5万円

こうした報酬(謝礼)の平均額は、1万5000円/時間とのことです。金額には幅があり、それを高いと感じるか安いと感じるかは判断がわかれるでしょうが、登録しているアドバイザーの多くは企業勤めをしていることから、もらう報酬の額にこだわる人は少なく、むしろ自分の市場価値を試すために挑戦をしている方が多いのが特徴です。

▼「教えているつもりが教えられている」

アドバイザーとして登録している人のなかには、勤め先で副業による金銭の授受が禁止されていることを理由に、発生した報酬を個人収入としては受け取らずに、社会貢献活動団体などへの寄付を選択する人もいます。

ビザスクのウェブページに掲載されている、実際に利用したアドバイザーの声もいくつか拾ってみよう。

《アドバイザーとして利用した人たちの声》

「過去に得た自分の知見を現在の仕事に生かしきれていないのはもったいないと思った」(現職外資系IT企業営業・元MR)

「日々の仕事で接点のない業種の方と話すと、多くの気づきがある。教えているつもりが、実は教えられている」(マーケティングコンサルタント・男性)

「キャリア構築の上で、これまでの自分の経験を世の中でどのような形で生かせるのかを知る機会として意義がある」(大手EC企業部長・男性)

■登録者の9割は男!自分の知見が「一流の価値」と認められる

一方、クライアントとして利用した人・企業も、これから参入しようとしているジャンルに精通した経験者・専門家の話を通じて、トレンドや新しい動向、潜在的ニーズなどを把握できた、といった声が紹介されています。

端羽氏によれば、アドバイザーに関しては当初、出産・育児や家族の転勤などでフルタイムの仕事を離れたキャリア女性を想定していたといいますが、実際は登録者の約9割が男性とのことです。予想と異なることもあったとはいえ、1カ月間のクライアントからの依頼数は1000件を超えています。ただし、クライアントからの依頼内容や登録しているアドバイザーのスキルによっては、全てがマッチングできるケースばかりではないという難しさもあります。

それでも、見知らぬ人同士がビジネスの経験・知見のシェアをするという新しい取り組みが軌道に乗っているように見えるのはなぜか。端羽氏はこう語ります。

「クライアントが払っている対価が見えるということが、アドバイザーに緊張感をもたらし、自分もきちんとクライアントに価値を提供していかなければいけないと感じるのではないでしょうか。ビジネスパーソンは、自分の時間がいくらなのか考えている人が少ないと思います。1時間単位という短い時間であっても、アドバイザーが一流の価値を提供できる人間であることに気づいてほしいと思っています」

副業を行うことは、副収入の獲得というよりは、むしろ社外に出ることで自分の価値を再認識し、社内に閉じこもっているだけでは得られないさまざまな経験が得られることに意味があるのだと感じます。

▼「副業解禁」で長時間労働が加速するのか?

【3:副業をする上で注意すべきこと】

「兼業・副業に対する企業の意識調査(2017年)」(リクルートキャリア)によれば、副業・兼業を禁止している企業は、調査回答企業(1147社)のうち、全体の約8割に上ることが明らかになっています。

副業・兼業を禁止している理由として最も多いのは、「社員の長時間労働・過重労働を加速する」(55.7%)、続いて「情報漏洩のリスク」(24.4%)です。特に、情報漏洩に関しては、副業を行うビジネスパーソンも注意をしなければならないことです。

「ビザスクでは、現職の方を直接、競合企業のクライアントにマッチングはしません。登録しているアドバイザー向けには、機密情報を提供しないことをお約束いただいています。またクライアントが相談する情報にも守秘義務を負っていただいています」(端羽氏)

さらに、副業であっても年間に副業から得た収入金額によっては、確定申告も必要となります。副業に挑戦する前には、必要に応じて専門家などに相談をしながら、自分が守るべきルールをきちんと理解し、個人としてリスク管理を行うことが重要です。

■「副業で自分の経験の価値に気付くことができる」

【4:最後に】

端羽氏は、「副業で自分の経験の価値に気付くことができる」と話します。

「人から見た自分の経験の価値に気づく視点がキャリアの強みをつくっていくのだと思います。社会に出る、普段会っていない人に会う、その人たちが自分の何に価値を感じてくれるのかに気づくことが、キャリアの強みをつくる第一歩になるのではないでしょうか。そのような経験を積み重ねておくことが、いざ、何かが起きたときに、自分を助けることにもなると思います。

終身雇用の企業でも、経営層から見たら新しいことをしてくれる人材、今よりも良い方法を考えてくれる人材が欲しいと思います。机に座っていて、社内の人の意見にうなずいているだけでは、そのような人材にはなれません。

もし、副業が禁止をされている企業にお勤めの場合であっても、大学の同級生と真面目に仕事の話をする、社外の勉強会に参加をしてみる、といったことでもいいと思います。とにかく社外に出る機会を作ることが大切なのです」

本稿では、副業をテーマに取り上げましたが、社外に出る機会が少ないと感じている方は、副業というライフスタイルを選択肢の1つとしつつ、まずは、社外に出る機会を積極的に増やしてみてはいかがでしょうか。

(日本総合研究所 創発戦略センター ESGアナリスト 小島 明子)