朴槿恵前大統領の逮捕に伴う抗議デモの様子(写真:AP/アフロ)

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 今年3月、「韓国人のもっとも嫌いな国ランキング」で中国が日本を抜いて2位に躍り出たことが報じられた。

 韓国のシンクタンク・峨山政策研究院が行った世論調査によると、「10」をもっとも好意的とする段階評価で、今年1月に「4.31」だった中国の評価は3月に「3.21」まで下降して北朝鮮に次ぐ2位に。それまで2位だった日本は、従軍慰安婦問題が再燃したことで「3.56」から「3.33」に下がっている。

 韓国人の中国嫌いが増加した背景には、地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の配備に反発した中国が経済報復を行ったことが影響したと思われる。中国は自国内の韓国系小売店数十店を閉鎖したり、韓国への団体旅行を禁止したりといった措置を講じた。

 では、実際に韓国人の対中感情はどう変化しているのか。日韓両国でビジネスを行う30代後半の在日韓国人・Aさんに話を聞いた。

●「中国人は何様だ」韓国人が経済報復に反発

――THAAD配備をめぐって中韓関係が悪化するなか、中国が「韓国人の嫌いな国」で日本を抜いて2位になりました。これを、どうご覧になりますか。

Aさん 韓国がTHAAD配備を進めたことに対して、中国からは経済報復というリベンジがあり、そのせいで両国間の感情は一気に悪化しました。中国の厳しい発言に対して、韓国人が「中国は何様なんだ」と反発している構図です。

 この調査は、3月に行われたものです。5月に韓国の大統領に就任した「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏は、中国に特使団を派遣し、対中関係の改善を図っています。特使団を率いたのは元首相のイ・ヘチャン氏ですが、中国の習近平国家主席や王毅外相とも会談を行いました。

 その後、中国からの観光交流も増えつつありますが、問題の根本であるTHAAD配備を解決しないことには、対中関係は改善しない。それが私の見立てです。

――THAAD配備をめぐっては、韓国内でも揺れているようですが。

Aさん 韓国国防部がTHAAD発射台4基の追加配備を文大統領に報告していなかったことで、文大統領は真相究明を指示しました。これに対して、「国防部トップクラスの人間が拘束されるのでは」ともささやかれています。また、追加配備については「中国は事前に知っていた」という話も浮上しています。そして、中国側の情報として「THAADの撤去は難しくなっているのではないか」との観測もあります。

――韓国はこのままTHAAD配備を進めるべきか、あるいは撤回してアメリカに戻すべきか。どう思われますか。

Aさん 配備を続けるべきではありません。アメリカに戻すべきと考えます。そもそも、この問題は朴槿恵(パク・クネ)前大統領が決めたことで、透明性もないため、私は反対でした。

 ただ、THAADの問題は簡単ではなく、アメリカ、中国、北朝鮮のそれぞれに思惑があります。3国の利害関係が絡み合うために簡単ではありませんが、だからといって、もたついている暇はありません。私は「6月中にはTHAAD配備問題の決着が着くのでは」と期待すると同時に「そうなれば、中国との関係は一気に改善に向かう」と推測しています。

 アメリカのドナルド・トランプ政権が不安定ななか、中国はTHAADと北朝鮮の問題を利用するかたちで、極東アジアでの地位をさらに高めようと考えているのではないでしょうか。

●サムスンの中国での悩みはコピー商品の流通

――韓国は中国からの観光客が減少し、さらに配備用地を提供したロッテが狙い撃ちにされています。韓国人の生活には、どのような影響がありますか。

Aさん 私たちの生活には、なんの影響もありません。確かに韓中貿易や中国人向けのビジネスをしている人には打撃があるのかもしれません。また、ロッテは中国国内の数十店舗が営業停止に追い込まれるなど、強いリベンジを受けています。

 日本人からすると、「ロッテは韓国の会社」というイメージがあるかもしれませんが、韓国人からすると「ロッテは日本の会社」というイメージです。そのため、ロッテが困っても我々が直接的に困ることはあまりありません。

――ロッテ以外の財閥系企業に影響はありますか?

Aさん 特にありません。サムスン電子の中国での悩みは、コピー商品が多いことです。サムスンの一番の悩みは、中国よりも李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が逮捕されたこと。トップ不在のなかで、どうやって経営判断を行っていくかに尽きます。

――あなたの世代の中国人のイメージは、どういったものでしょうか。

Aさん 1990〜2000年代初頭の中国人のイメージですが、社会主義の国なので「ごはんをちゃんと食べているのか」「出稼ぎの人が多いだろう」というものです。そのため、中国人が何か発言しても無視することが多かったのですが、最近は“爆買い”でだいぶイメージが変わりました。私たちの上の世代は、もっとひどいイメージを持っているかもしれません。現在の中国について、私は特に悪いイメージは持っていません。

 ちなみに日本については、私は政治家の発言については問題があると考えています。しかし、下の世代は「日本が嫌い」などという感情はあまり持っていないのではないでしょうか。

――韓国と中国の関係が、これ以上悪化する可能性はあると思いますか?

Aさん 中国は日本と違って政治家の発言には韓国に対する配慮があるため、特にこちらが腹を立てる内容のものはありません。そのため、より悪化するというシナリオは考えにくいです。

●「韓国人の嫌いな国」日本が再び2位に?

――韓国は、中国とはTHAAD、日本とは従軍慰安婦の問題を抱えています。文大統領としては、いつまでに解決を図りたいと考えていると思いますか。

Aさん 来年の今頃には、日本の統一地方選挙にあたる韓国全国同時地方選挙があります。それまでに韓国人が納得できるような解決を図りたいという意向があるでしょう。THAAD問題を解決することができれば、対中関係で大きな問題はなくなります。政治家が次の選挙までに見せ場をつくるというのは、どこの国の政界も同じです。

 問題は、日韓関係でしょう。韓国から見ると、日本の政治家の発言は韓国人に対する配慮が欠けていることがあります。日本の政治家は、票のために歴史を政治利用していると思います。特に、自分の立場が悪くなると韓国や中国に対して厳しい発言をして脅威を煽りますが、それが日韓関係を悪くしている原因のひとつです。

 特に慰安婦問題は、日本としては「不可逆的な解決」という理解でも、韓国から見れば「これから」の問題です。日本の政治家が不用意な発言を繰り返せば、また日本が「韓国人の嫌いな国ランキング」で2位になることも十分に考えられます。

 今、日本ではさまざまな問題もあり、与党の政治家の立場は微妙です。日本の政界は、不安定な面が見えます。一方、文大統領は日本では考えられないほど支持率が高い。韓国の世論も「当面は文大統領のことを応援しよう」という雰囲気で、韓国政治はきわめて安定しています。

 今、文大統領が一番恐れているのは国民の声です。いわば国民の声から生まれた大統領ですから、その国民の声にどう応えるか、期待半分と心配半分の感覚で見ています。

――ありがとうございました。

 筆者の中国人の友人に中国ロッテの事務員がいるため、話を聞くと、以下のような答えが返ってきた。

「今は仕事らしい仕事がほとんどなく、6月1日に給料の15%カット、そして有給休暇取得の促進が発表された。有休の日数は特に決まっていないが、相当日数休んでいいとのこと。うちの会社は潰れるか、閉店するのかな……」

 彼は、現状をかなり不安視しているようで、逆に筆者に中韓情勢について質問したほどだ。いずれにせよ、韓国をはじめとする東アジア情勢から目が離せそうにない。
(構成=長井雄一朗/ライター)