2017年、東京での“当たり前”な出会い方。

それはお食事会でも“友人の紹介”でもなく、デーティングアプリだ。

しかしオンライン上での出会いに、抵抗感を示す人は未だ少なくない。今まで難なく自分の生活圏内で恋人を探してきた男女なら、尚更のことだ。

商社で秘書として働く、桃香(30)もその内の一人。

―デーティングアプリって流行っているみたいだけど、私には必要ないわ。

そう思っていたある日のこと、桃香の価値観を揺さぶる、あるできごとが起こる。桃香の友人・亜美がデーティングアプリで出会った男と付き合っていたのだ。




デーティングアプリで彼氏ができた、亜美の本音


「素敵な彼ができて、良かったわね」

ペアーズで彼氏ができたという亜美の報告を、桃香はにっこり笑って祝福してくれた。その言葉に他意はないと信じたい。しかし、桃香はすぐこう続けたのだ。

「でもそういうアプリ、私はちょっと……」

亜美は「やっぱり」と思う気持ちをぐっと堪え、こう返した。

「私も最初は抵抗あったけど、色んな人とデートできるから楽しいわよ」

それは亜美が実際アプリを使ってみての、本音だった。桃香にはきっと響かないだろうけれど。

桃香は大手商社の秘書をやっているだけあり、美人で常に女性らしさを忘れない、亜美にとっては自慢の女友達だ。ただ向上心と正義感が人一倍強く、頑固な性格でもある。

桃香は少し、異性関係に潔癖過ぎるのだ。

男女の出会い方なんて時代とともに変わるし、それをうまく活用していい男性に出会えれば、結果オーライではないだろうか、と亜美は思う。

桃香は、デーティングアプリで彼氏を作ることに強い抵抗があるのだろう。しかしそのプライドこそが、男性を寄せ付けない一番の原因なのだ。

「パスタは、何にしようかしらね…。トマトソースもいいけど…。あ、ペペロンチーノもいいかしら」

亜美の話もそこそこに、桃香はメニューを見始めた。興味のないことへは、驚くほどあっさり見切りをつける。


頑固な桃香。その性格が災いする出来事が起こる?




桃香は今日、聡子に誘われた食事会に行く予定だ。相手は、大手監査法人に勤める会計士だという。

亜美に「デーティングアプリに登録してみれば?」と言われたことは何となく引っかかっていたが、そういう出会いにはやはり、抵抗がある。

水曜日、17時45分。定時きっかりに仕事を終えた桃香は、会社の化粧室で入念な化粧直しをスタートさせていた。ランコムのマスカラをたっぷりと塗り直し、会社に常備しているヘアアイロンで、髪を丁寧に巻き直す。

仕上げにディオールのグロスを塗り直し、全体のバランスを確認した。今日は最近一番お気に入りの、襟にビジューがあしらわれたChestyのピンクのブラウスを着ている。

鏡の前にいる女は、自分でも惚れ惚れするほど美しい。30歳にはとても見えないし、もしかしたら20代前半と言っても通じるかもしれない。

―ふふ。今日の食事会も、きっと楽勝だわ。

鏡の前で思わず微笑んでいると、3つ上の先輩、奈緒が現れた。奈緒は広報部にいる、憧れの存在だ。

「あれ、桃香ちゃん。ずいぶん楽しそうね」

奈緒に心の内を見透かされた気がして、桃香は慌ててエルメスのピンク色のボリードポーチにグロスをしまいこんだ。




「乾杯!」

丸の内の『丸の内 焼鳥 瀬尾』で、食事会はスタートした。現れた男性二人は、会計士らしくいかにも真面目そうな雰囲気で、ダークグレーのスーツがやや野暮ったい。桃香はその二人をちらりと見て、心の中ではこう呟いた。

―真面目そうな二人だけど、残念ながらタイプではないわ…。

そう思った途端、桃香は急に強気になる。

彼らはきっと、桃香のようなタイプの女性と接した機会がないだろうから、優しく会話をリードしてやらねばならない。

「桃香さん、休日は何をされているんですか?」

明夫という目の前の男は、黒ぶちの眼鏡に何度も手を当てながら、桃香に懸命に話しかけてくる。

その真面目そうな明夫の様子から、休日の彼の服装を思わず想像する。アイロンが丁寧に当てられた白シャツを、きっちりベルトに入れるタイプだろう。

「最近はテーブルコーディネートに凝っていて、レッスンに行くことが多いですね。昔は料理教室にも通っていたんですけれど、一通り教わってしまったので…。“食空間コーディネーター資格”取得に向けて、勉強中なんです」

明夫はその話に、一生懸命相槌を打っている。丁寧にアイロンがあてられたアーノルドパーマーの水色のハンカチを出して、何度か額の汗を拭っていた。

桃香は女性慣れしていない明夫のために積極的に話題を提供し、思う存分喋り尽くした。

明夫のような男性は全くタイプではないが、リラックスして話すことができる。


地味男・明夫に優しさを示した桃香。しかし、意外な展開が待っている!?


食事会後は皆でLINEを交換し、桃香は明夫に丁寧な文面のお礼を送った。

明夫からもまた律義な性格を窺わせる返信があったが、その後のやりとりは途絶えてしまった。

―地味な人だったし、奥手なのね…。

そう思ってやり過ごしていたが、翌日の夜、聡子から連絡があり思わぬことを聞かれた。

「ねぇ、昨日いた明夫さんってどう思う?」
「えっ……。聡子、タイプなの?」
「彼、カメラが趣味なんでしょ?綺麗に撮れるアプリ教えてあげたら興味津々で、今ちょっとLINEしてるのよ」

カメラが趣味。

そう言えば、そんな話をしていたかもしれない。

「…い、いいんじゃない?真面目で誠実そうな人だったし」

告白していないのに、フラれてしまった気分だ。

最近、桃香は食事会の後、いつもこんなやり切れない気持ちになる。




聡子との電話が終わったあと、桃香は家のベッドでFacebookをチェックしていた。何をする気力も湧かないとき、惰性でついSNSをチェックしてしまう。

すると、昨日化粧室に居合わせた先輩・奈緒が「いいね!」をしている「東カレデート」の記事が流れてきた。

奈緒は33歳で独身だが、新卒時代から憧れの存在だ。広報部にいて仕事は抜群にできるが、女性らしさを常に忘れない。

―奈緒さんが、デーティングアプリの記事に「いいね!」してるなんて、やっぱり流行っているのかしら…。

東京カレンダーの記事は、『秘書の秘め事』を大分読み込んでいたが、最近はあまりチェックしていなかった。しかしあの奈緒が「いいね!」している記事には興味がある。桃香は早速、読んでみた。

奈緒の恋愛事情は、常に謎に包まれている。

「うちの会社の井川遥」と言われるくらいの美人だが、実はバツイチだとか、20代前半と思われる男と歩いているのを見た、と色んな噂が流れるのだが、その真偽は未だ不明だ。

そんな奈緒が「いいね!」をしている記事を読み、一気に「東カレデート」に興味が湧いてきた。

東カレデートは、審査制デーティングアプリらしい。既存会員が異性の入会希望者を審査し、半数以上の同意が得られれば、無事入会できる。

「桃先輩も、登録だけでもしてみればどうですか?」

茜のその言葉を思い出す。

―まぁ、私が審査に落ちるはずはないわよね…。

そう思い、桃香は「東カレデート」をダウンロードした。

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桃香、ついにデーティングアプリデビュー!?

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