着床前診断を巡る対立が続いているが…

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体外受精によってできた受精卵に染色体異常がないかを分析し母体の子宮に戻す「着床前スクリーニング」の実施を巡り、条件付きの臨床試験しか認めていない日本産婦人科学会と、検査によって不妊治療における流産予防が期待できるとする医師が対立している。

2017年6月1日付の時事通信の報道によると、学会から処分の通告を受けた神戸市の大谷レディスクリニック院長大谷徹郎医師は、何があっても検査を続けると明言したという。

議論に上がっている「着床前スクリーニング」とはどのような検査なのだろうか。

実施するクリニックは流産率の大幅減を主張

「着床前スクリーニング」とはその名の通り子宮に着床する前、つまり妊娠前に受精卵の染色体や遺伝子に異常がないかを検査する「着床前診断」のひとつで、体外受精の際に行われる。実際に検査を実施している大谷レディスクリニックはウェブサイト上で、検査によって着床しやすく流産しにくい受精卵を選別して子宮に戻すことで、不妊症や不育症の女性の流産リスクを軽減できると説明している。

妊娠後に胎児に異常がないか母体の血液や羊水を検査する「出生前診断」よりもはるかに前の段階で検査を実施するため、仮に異常が認められても中絶という選択をする必要はない。

同クリニックは「受精卵の内、染色体異常を持つものの割合は30歳以下の方で30%程度、35歳の方で40%程度、42歳の方ですと約80%にもなる」とした米国での調査結果を例に挙げ、染色体に異常をもつ受精卵の97%以上は着床しても流産、死産してしまうと指摘。体外受精後の流産はこういった受精卵の染色体異常による場合が多いという。あくまでも同クリニックの主張だが、2016年時点で着床前スクリーニングによって受精卵1個あたりの着床率が70%以上になり、流産率が10%以下になったとしている。

一方、日本産婦人科学会も着床前診断の実施自体は認めているものの、ウェブサイト上で公開している「『着床前診断』に関する見解」の中で、実施条件として両親に子どもに遺伝する可能性がある重篤な遺伝性疾患がある場合か、両親に流産しやすい染色体異常がある場合に限定しており、健康な両親が不妊治療の一環として検査を受けることは認めていない。

その理由として診断技術や精度、安全性に加え不妊ではない両親が検査を利用することで優生思想的な産み分けにもつながるのではないか、とする倫理的な問題を挙げている。確かに、血液検査による出生前診断で胎児の21番染色体に異常がある、ダウン症と診断された妊婦の90%以上が中絶を選んでいるとの調査結果が2014年に日本医学会によって発表されたことがあった。

産婦人科学会が「命の選別」への懸念を示すのも理解できるが、これに対し大谷クリニックは着床前スクリーニングでは検査した受精卵の約1%しか21番染色体異常は見られず、着床前スクリーニングはダウン症を排除する検査とは程遠いと反論している。

産婦人科医も効果は認めるが

国外の状況を調べてみると、対応は国によって異なるが豪州や英国、フランスなどでは不妊治療時に限定しているものの着床前スクリーニングによる受精卵の選別を認めているようだ。

日本でも不妊治療による体外受精に限定すれば、流産を予防する効果的な方法になるとの見方もある。ある産婦人科医は匿名で「着床前スクリーニングの効果は理解しているし、積極的に反対しなければいけないようなものではない」とJ-CASTヘルスケアの取材に答えた。

「ただし、なし崩し容認も危険です。検査方法にバラつきがあれば精度も異なってしまいますし、着床の有無を選択する両親への適切なカウンセリングや倫理的な説明ができない施設などでは、単なる産み分け検査になってしまう可能性も否定できません」

この医師は学会と一部の医師の対立という構図を続けるのではなく、重要な当事者である不妊治療中の夫婦などを交えた検討の場を設けることが必要ではないかと指摘した。