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●プレミアム商品の提案

パナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長(パナソニック代表取締役専務)は、2017年6月12日、滋賀県草津の同カンパニー本社において、2017年度事業方針について説明した。

国内家電市場におけるパナソニックのシェアは27.5%と、過去30年間で最高となったことを示したほか、創業100周年を迎える2018年度には、売上高2兆8000億円、営業利益率4.5%を目標に掲げ、引き続き、成長戦略を推進する考えを示した。

○成長のポイント:プレミアム商品

パナソニック家電事業の成長戦略のポイントは、国内におけるシェアナンバーワンの維持と、海外事業の拡大にある。そして、それらを支えるのが、プレミアム商品の提案と、現地完結型の企画、開発、製造による地域密着型製品の展開だ。

本間社長も、「地域、国に適合したプレミアム商品提案を通じ、限界利益の向上とともに、日本における新たなマーケティングを展開し、シェアナンバーワンを拡大する一方、海外においては全地域の黒字化を目指し、とくにアジア、中国、インドでは組織能力を向上し、事業成長を加速させる」と語る。

たとえば、プレミアム家電の構成比は、日本では46%、アジアでは38%に、中国では55%に拡大しており、「今後は、インド、欧州にもプレミアム家電を積極的に展開していくことなる」という。

プレミアム家電の定義は、それぞれの国によって異なり、日本の冷蔵庫では400リットル以上、中国ではスマホで制御できる商品といった形になるが、「プレミアム家電の共通的な考え方は、憧れにつながる商品」と位置づけている。

国内においては、白物家電需要の飽和状態もあり、成長率は1%程度を想定しているが、競合メーカーが低迷していることもあり、パナソニックへの集中が見られている環境にあることは見逃せない。

本間社長は、「世界を見渡しても、それぞれの国でトップシェアを持っているローカルメーカーは、日本におけるパナソニック以上のシェアを持っている。そうした観点からみると、日本でシェアを拡大できる余地はまだあると考えている」と語り、「健康家電やフィットネス家電など、様々な提案を通じて日本における家電事業を成長させ、シェアを拡大させる」と意気込む。

だが、シェア拡大戦略には、慎重な姿勢もみせる。

「日本は、収益が高く出せる環境にあるため、シェア拡大を利益計画に盛り込むと、大きな増益を目指した計画になり、甘い立て付けになる。そのため、2017年度以降の営業利益計画には、日本でのシェア拡大は盛り込んでいない」とする。

ちなみに、パナソニックは、2018年度に迎える100周年にあわせた記念モデルについて、8月に第1弾製品を発表する予定だという。

「100周年というのは、内部的なものであり、これを外部に向けて打ち出していくかはまだ決めていない。だが、この節目にあわせて、各事業部に、目が覚めるような中身を持った製品を、ひとつずつ投入できるように要請している」と本間社長は語る。

これらの商品も、日本市場向けのプレミアム商品になることは明らかだ。どんな「目の覚めるような商品」が登場するのかが楽しみだ。

●海外事業の戦略

○成長のポイント:海外事業の拡大

もうひとつの成長戦略の軸が海外事業である。

パナソニックは、ここ数年、米国および中国からのテレビ事業の撤退により、海外売上げ比率が減少。現在、国内外の比率は54対46となっている。だが、数年後にはこれを逆転させ、海外が半分以上を占める形になることを目指す。つまり、家電事業の成長には、海外事業の拡大が鍵になる。

とくに、アジア、中国は、それぞれAPアジアおよびAP中国を設立。権限と責任を委譲した「前線化」によって、現地主導型の経営体制を確立。この成果がようやく発揮されようとしているところだ。

「アジア、中国では、ラインアップを刷新しているため、これらの地域での収益性が劣るように見えるが、この1年で収益が刈り取れると感じられるところまで到達し、十分な力がついてきたと判断している」2017年度には、アジア、中国において、5%台の営業利益率を目指す考えだ。

中国では、ECサイトを通じた販売が増加していることから、ECサイトと一括商談を行う電商本部を新設。さらに、「旺盛なインバウント需要の影響もあり、パナソニックの理美容商品に対する認知と評価が高まっている状況を捉え、スモール家電を中心としたプレミアム戦略を推進。外資系白物家電ブランドナンバーワンの獲得を目指す」と語る。

ナノイーを搭載したドライヤーをはじめとするスモールアプライアンスも、中国で高い評価を得ており、2万円を超える製品が売れ筋になっているという。

とくに中国では、「軽厨房」ブランドによるスマートキッチン群を、2016年9月から発売。スマホと連動したIoT家電として展開することで、プレミアム比率を高めることに成功している。

「軽厨房シリーズは、来月までに商品が出揃う。冷蔵庫、洗濯機、炊飯器、圧力鍋、ベーカリー、IHグリルがひとつのアプリが操作できるようになっている」とし、「IoT家電は、中国が最も手応えがある。中国では、多くの人が、朝から晩までスマホを手放さない。また、IoT家電に対する価値を感じて、そこに対価を支払っている。中国で成功した商品のなかで、日本でも受け入れられる商品や、そこに価値を感じてもらえる商品があれば、順次、日本にも投入していく」と語った。

また、アジアでは、ベトナム、インドネシア、フィリピンで家電ブームといえる状況に入っていることを指摘。「エアコンが一般消費者の購入できる価格帯に入ってきた。マレーシアのエアコン生産拠点に加えて、新たにタイの生産拠点で、50万台体制でエアコンの生産を開始。さらに、クアラルンプールのアジアデザイン拠点の機能を強化する」などとし、アジアでの体制強化をさらに加速させている。

そのほか、インドでは、地域とAP社の共同責任経営のパナソニック インド アプライアンスを設立。ジャジャールへのR&Dセンターの開設や、バンガロールでのオフショア開発部門の開設に加え、2017年度第4四半期から、インド国内で冷蔵庫工場を年間50万台体制で稼働する計画も明らかにしている。

○各地域の収益性と成長性向上のロードマップ

だが、いくつかの課題もある。

ひとつめは、海外事業における収益性と成長性への取り組みだ。

本間社長は、「海外では、一部赤字の地域があり、さらに、パナソニックが弱い領域も多い。海外家電事業の収益性と成長性は、業界水準には見劣りする」と語りながら、「日本では、メジャー家電、スモール家電、エアコン、AVCという4つの柱がある。だが、海外でその体制が確立できているのは、台湾とマレーシアだけである。この4つの柱で事業展開することで、その地域におけるパナソニックブランドの確立につながる。そして、この4つの柱のすべてに強い商品を持っているのは、世界中を見てもパナソニックだけである。今後、どの地域において、どの柱を、どの順番で立てていくのかということを、明確なロードマップとして考えている」と語る。

そして、「2017年度は、一部残っていた海外家電事業の赤字を無くし、地域、国に適合したプレミアム商品の提案を通じて限界利益を向上させたい。家電事業は、文化に寄り添う事業であり、調理家電ならば食文化、洗濯機ならば衣類の文化に沿ったものになる。そこに対して、パナソニックならではのやり方で商品を提案していく」と述べた。

たとえば、インドでは、衣服についたカレーの染みを落とすことができるカレーコースを搭載した洗濯機や、高音質を実現した液晶テレビなどによるプレミアムマーケティングを展開しており、こうした地域ごとのニーズ特性にあわせた商品展開を進める考えだ。

●テレビ事業への考え方

○テレビ事業の利益率改善

また、テレビ事業の利益率改善も課題となる。

「テレビ事業は、限界利益率の改善と、2015年度までの構造改革の完了で、利益は良化している」とするものの、ソニーが2016年度実績でテレビ事業の営業利益率5%を達成しており、パナソニックのテレビ事業の利益率はそれを大きく下回る。

本間社長は、「ソニーが、テレビ事業において、営業利益率10%を目指すと宣言したことは感慨深い」と前置きしながら、「パナソニックは、テレビ事業に関しては、具体的な販売目標を掲げるようなビジネスではないと考えている。また、最も大きなコストを占めているパネルを調達するという体制では、5%の営業利益を出すのはたやすいことではない」とする。そして、「全体の経営を考える場合に、そこに高いターゲットを置いて、全体を狂わせては戦略を誤ることにつながりかねない。達成可能な現実的な目標を置いて、毎年、少しずつ良化していけばいいと考えている」と語る。

それにも関わらずテレビ事業は継続する意思を見せる。

家電の販売プラットフォームを持つ上で、テレビ事業を持つ重要性はある」とし、「家電事業が文化の事業であるのに対して、テレビ事業は文明の事業である。顧客価値を認識してもらうもので、各地域でそれをどう訴求するかが重要だ」とする。

パナソニックが成長戦略のなかにテレビ事業を位置づけていないのは明らかだが、収益改善は当面の課題であることに間違いはない。

○BtoB事業の地盤をいかに早く構築できるか

そして、もうひとつの課題が、BtoB事業の地盤づくりだ。

パナソニックの利益拡大において、BtoB事業は重要な鍵になり、本間社長も、「将来において、BtoB事業は高い利益を確保できるビジネスだと考えており、高収益化への推進を加速していきたい」と語る。

だが、現時点では、「地域別販売体制を確立している段階にある」のが実状だ。利益成長に向けた改革として、冷機コンプレッサー事業の本社機能をシンガポールに移転したのもそのひとつだ。

ここでは、M&Aを含めた非連続の成長戦略や、IoTを活用することで事業基盤を強化するといった取り組みにも挑む。増収増益を加速する体制づくりを早期に構築できるかが鍵になる。

○2つのリスク

さらに、本間社長は、成長戦略におけるリスク要因として、「2つの課題がある」とし、「鉄やアルミニウムなどの原材料費の高騰による収益性の阻害」、「労働力の逼迫と、それに伴う人件費の増加」をあげる。

こうした外的要因をにらみながら、収益拡大への舵取りを担う必要がある。

本間社長は、「過去2年続けて、すべての事業で増益となった。成長ドライバーは、どれかひとつの事業というよりも、すべての事業を増益させることにある。2017年度もすべての事業で増益を目指す」とする。

アプライアンス社では、非連続投資を行いグローバルな成長を目指す「高成長事業」にエアコン、食品流通、スモール・ビルトインを位置づけたほか、安定的な収益拡大を目指す「安定成長事業」には、洗濯機、冷蔵庫などのメジャー家電や、コンプレッサーなどのデバイスを位置づけ、リスクを最小化し、黒字化の定着を目指す「収益改善事業」には、テレビやデジカメなどのAVCを位置づけている。

パナソニック家電事業全体では、この2年で営業利益を2倍に拡大してきたが、さらなる利益拡大に向けた一手を、国内外において打つ考えだ。2018年度の創業100周年に向けてのラストスパートがかかりはじめた。