プレジデント 2017年7月3日号発売中!特集は「『書き方』のお手本」です

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まずは次の文章をお読みください。

『働くということは、ただ単に収入を得たり、労働に対する対価を得るという物理的な理由だけの目的で行うのではない』

「頭にすっと入ってこない」「難しい」「堅い」――このような感想を持たれたのではないでしょうか。

この文章は、エッセイストである阿部紘久さんから出題いただきました。阿部さんは30万部超の『文章力の基本』の著者です。帝人で、宣伝企画、国際事業企画、経営企画などに携わり、その間に、タイ、韓国、イタリアの合弁会社で10年間勤務し、日本にある米国系企業のCEOを務めました。その後、昭和女子大学で10年間文章指導を、企業でも指導をしています。その間、添削した文書はなんと6000以上。心に響く文章から、何が言いたいのかわからない文章まで、様々な文章を集めるのが趣味だそうです。

6月12日発売の「プレジデント」誌最新号「『書き方』のお手本」特集をつくるにあたり、阿部さんにご協力いただくべく打ち合わせにうかがうと、たちまち文章教室となりました。

阿部さんは、多くの人が無意識のうちに難しい言葉で文章を飾ろうとしているのだと言います。仕事に関する文章を書くときには少し改まった表現を使うべきだという思い込みが、妨げになっているのだそうです。

さて、冒頭の文章は、何がいけないのでしょうか。阿部さんはこう解説します。「『収入を得る』と『対価を得る』、『理由』と『目的』が重複しています。『物理的』というような難しい言葉を、ここでことさら使う必要もないでしょう。では、どう改善しますか?」

みなさんはどう改善しますか? 重複や無駄な飾りを取り去って……と、私は次のような改善案を作りました。

『仕事は、収入を得るという目的のためだけに行うのではない』

阿部さんはこう続けます。「もっと言いたいことを煮詰めてください」

私がしばらく考えているのを見かねて、阿部さんは改善案を示してくれました。それは、昔から言われてきた次のようなシンプルな文でした。

『人は、お金のためだけに働く訳ではない』

本当に伝わる文章とは、わかりやすくて、シンプルなのだと納得しました。

たしかに、私も文章を書くとなると、肩に力が入ります。つい「〜であり、〜」「〜のうえ、〜」と次々に後へ繋げてしまい、なかなか述語が現れない長い文になってしまうのです。私の場合は、短く言い切る勇気がないようです。

当号では、阿部さんに「時間半分、スラスラ書ける! ビジネス文書の『基本テンプレート』大全」の記事をご解説いただきました。「面識のない相手へのアポ取り」「営業用の自己PR」から「お中元・贈り物のお礼」まで、仕事のさまざまなシチュエーションを想定し、たくさんの文例を用意しました。阿部さんには文章力アップのコツも併せて解説いただきました。ビジネス文書の作成に活用いただければ幸いです。

(プレジデント編集部 内林 大士)