"プロフェッショナル"も働きすぎなのか?

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残業時間に年間720時間(月平均60時間)の上限を設ける労働基準法の改正作業が始まっている。法改正の原則は、企業勤務者に一律の上限規制をかけることだ。筆者は、「働き方改革」の意義を認めつつ、この風潮が続けば、テレビ番組「プロフェッショナル」に登場するような人がいなくなるのではないかと心配する――。

■管理職の労働時間は2極化?

長時間労働を撲滅しようと、残業時間の上限設定といった法規制が具体化してきました。ところが、今回の規制の対象外となる人もいます。

(1)管理職
(2)経営者
(3)フリーランス
(4)公立学校の教師

といった人々です。ひとつずつ確認していきましょう。

(1)管理職

正確には、法律上の「管理監督者」に当たる社員です。

労働基準法では、「監督もしくは管理の地位にある者(管理監督者)または機密の事務を取り扱う者については、労働時間、休憩および休日に関する規定は適用しない」と定めています。これは「管理監督者には労働時間、休憩、休日について法律上の制限をしない」ということを示し、今回の残業上限も適用されません。

ただし、管理職については、今後労働時間が減る人と増える人に分かれると予測します。大企業の多くは、「ノー残業デー」など、時短対策を全社一斉に行うため、管理職にも労働時間短縮の流れは波及するでしょう。一方、労働集約型の中小企業などでは、一般社員の残業が減った分、管理職にシワ寄せが来て、これまでよりも長時間労働を強いられるかもしれません。

(2)経営者

社長をはじめとする会社役員は、企業において「使用者」という扱いですので、労働時間の規制はありません。管理職でも対象外なのですから、当然といえば当然です。

しかし、経営者だから家庭を顧みず、仕事一筋でいいという時代ではなくなりました。また、社長や役員といっても、中小零細企業では、営業や製造などのプレーヤーとして働いている人たちも少なくありません。コンビニのオーナーの中には、人手不足でアルバイトが集まらず、自ら休みなしに店頭に立っているといったケースも見られます。

法律で縛る対象ではありませんが、意識改革と工夫により、自らの働き方について、あらためて考えなおすことになるでしょう。

(3)フリーランス

クラウドソーシングの拡大により、注目が集まっているフリーランスという働き方。クラウドソーシング仲介大手のランサーズが実施したフリーランス実態調査2017年版によると、日本における広義のフリーランス数が推計1122万人(労働力人口の17%)にまで増加しています。

フリーランスは、特定の企業や組織に属さずに働く人ですので、やはり今回の残業規制の対象外です。仕事を請けるかどうかも自由(フリー)に決められるのですから、長時間労働を避けたいのであれば、仕事を請けなければいい、ということになります。

ところが、フリーランスの中には、生活費を確保するため、長時間労働を強いられている人がいます。クラウドソーシング自体のマーケットは拡大しているものの、業務単価はなかなか上がらないからです。

フリーランスが増えれば増えるだけ、競争原理が働き、発注価格の低下により生産性向上とは逆の方向に進んでいるように見えます。

■学校の先生は月80時間以上の残業は当たり前?

(4)公立学校の教師

公立小中学校の先生の大半が、月80時間以上の残業をしているといわれています。ところが、残業について、文部科学省は以下のように説明しています。

「公立学校の管理職以外の教員には、労働基準法の時間外労働における割増賃金の規定が適用除外となっており、全員一律に給料に4パーセントの定率を乗じた額の教職調整額が支給されている。実態として月々の給与を支給する上で、管理職が部下である教員の時間外勤務の状況やその時間数を把握する必要に迫られることが少ない」(文部科学省のサイトより抜粋)

これは、明らかに民間企業のサラリーマンより厳しい条件ではないでしょうか。したがって、いずれ改善されると思われますが、現時点では対象外となっています。

このように、長時間労働規制の対象から外れた人たちは少なくありません。

「だって、経営者やフリーランスは、自分で仕事や時間を選択できる人たちなのだから、一般の労働者とは違って当然だろう」という意見も少なからずあるでしょう。

それはその通りなのですが、であれば企業や組織に勤める労働者に対しても、一律で時間規制するのではなく、各人の選択権を認めてはどうでしょうか。

企業勤務者には一律上限規制、その他はすべて対象外、という発想自体に無理があるように思われます。

NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」やTBS系「情熱大陸」といった人気番組に登場する人たちは、どなたも長時間労働者であるように見えます。ある番組では、カリスマとよばれる医師が、自らの生活を犠牲にしながら患者のために働く姿に感動させられました。もし一律の労働時間規制が進めば、こうした番組も成り立たなくなるのではないかと心配します。

「働き方改革」によって過労死は減るかもしれませんが、日本の将来に対して不安も抱きます。敗戦後の奇跡的な復興について、長時間労働が貢献した割合は少なくなかったはずです。現在では時短推進の中心的役割を担っている、中央省庁、新聞やテレビなどのマスコミ、弁護士なども、これまで長時間労働の代表格でした。これからの日本は、かつてとは違う働き方で、将来をつくっていかなければいけないのでしょう。

■勤務時間も「分勤」のススメ

働き方改革の趣旨自体に異論はありません。ただ、改革を急ぎすぎれば、さまざまな副作用ももたらします。そこでひとつ提案があります。

昔は「全面喫煙可能」というオフィスも珍しくありませんした。ところが、今ではほとんどNGです。その代わり、「喫煙スペース」が設けられ、禁煙者との分煙が浸透しています。電車やレストランなども同様です。

勤務時間も、分煙ならぬ“分勤”を認めるようにしてはどうでしょうか。

定時で帰りたい人もいれば、寝食を忘れて仕事に打ち込んで実力や収入を伸ばしたい、という人もいます。時間の自主判断ができない職種、たとえば工場の製造ラインで働く人や、小売り・飲食業などの店頭で働く人に対して、一定の規制を設ける必要はあるでしょう。一方で、クリエーティブな仕事や高い専門性が求められる業務については、成果やアウトプットで評価し、投入する時間やプロセスは本人任せでもいいのではないでしょうか。

今からでも可能な法的施策としては、「裁量労働制の適用拡大」や「本人選択による残業規制の適用除外」といったことが考えられます。社員とフリーランスの中間のような働き方のイメージです。

テレビ番組で取り上げられる「プロフェッショナル」に対して、長時間労働を懸念しなくてはいけないというのは、どこか違和感があります。業務の専門性について、さらに踏み込んだ議論が必要ではないかと思います。

(新経営サービス 常務取締役 人事戦略研究所所長 山口 俊一)