きっかけはあの「囲碁対決」、加速する韓国NAVERのAI開発

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約1年前、韓国では世間を揺るがす衝撃的な事件が起きた。Google DeepMindが開発したAI「アルファ碁」に、国民的英雄イ・セドル9段が囲碁対決で敗北するという、いわゆる「アルファ碁・ショック」だ。

対戦前、韓国の専門家ら、またイ棋士本人すらも「機械との世紀の対決」において勝利を疑わなかった。が、結果だけみれば惨敗。以降、韓国ではAI社会到来の現実味が一般の人々のなかでも強く語られるようになった。

韓国テクノロジー専門メディア「テックホリック」を運営するイ・ソグォン記者は、当時の世間の様子を次のように振り返る。

「韓国の一般的な国民にとって、AIはSF映画に登場するものでしかありませんでした。ですが、アルファ碁の勝利は、その認識を一気に変えてしまった。その衝撃を例えるなら、牛で畑を耕している田舎に最新のスポーツカーがやってくるようなものとでも言いましょうか…。囲碁は韓国人なら誰しも一回はやったことのある国民的ゲーム。しかもイ棋士に勝ってしまったとなれば、社会的にAIの存在を受け入れるしかなくなったのです」

アルファ碁・ショック以降、韓国では政府および民間企業による、AI研究・開発また投資のスピードが一気に加速している。なかでも、韓国IT業界の巨人・NAVERの動きは注目すべきかもしれない。

LINEの親会社として日本でも認知度が高いNAVERは、人工知能、ロボットなどを含む新時代テクノロジーの開発に注力するため、2017年1月2日に「NAVER LABS」という別法人を立ち上げている。資本金は日本円にして約500億円、また別途で約500億円を投資する用意を進めているという。

記者出身のNAVER新代表ハン・ソンスクは、2016年11月に行われたCEO内定発表のイベントの席で「未来技術のためのNAVER LABSを分社。技術投資に1兆ウォン(1000億円)を使う。技術系人材の確保にも積極的に乗り出す」としたが、その方針を着々と現実のものにしているようだ。

今年5月、NAVERはAIアシスタント機能を搭載したスマートフォンアプリ「NAVER Clova」のベータ版テストに乗り出している。同アプリに搭載されているAIプラットフォーム「Clova」は、LINEと共同開発されたもの。ユーザーは今後、AIアプリを通じて音声情報検索、音楽推薦、外国語通訳・翻訳、英会話、感性会話などのサービスを受けられるようになる見通しだという。

NAVER Clovaはおそらく、アップルの「siri」などAIアシスタントと同類のサービスだと予想できるが、その違いはアプリで提供されるという点だろう。NAVER側は「NAVER Clovaは、端末を選ばないのが強み」と、テスト開始に際してコメントを残している。

NAVERはまた、2017年6月末までにディープラーニング技術の研究・開発用に大規模なデータセンターを構築するとしている。もともと、韓国内では検索分野のトップ企業として君臨してきた同社は、検索サービスを通じて蓄積されたビッグデータとAIを統合し、他サービス(地図アプリや旅行先レコメンド機能など)と連携させるプロジェクトを進めてきた。

今回、構築されるデータセンターにはテキスト情報だけではなく、音声、画像、動画など様々な形のデータ、またそれらの学習資料が蓄積される予定となっていて、連携プロジェクトはさらに加速すると見られている。

加えてNAVERは、アマゾンエコー、グーグルホームなどで話題の家庭用AIスピーカー(スピーカー型音声アシスタント)市場にも、今年中に飛び込むとしている。

6月8日、市場調査会社TrendForceは、2016年度のサービスロボット市場の製品別シェアについて「家庭用AIスピーカーが全市場の47.4%を占める」とのレポートを発表しているが、NAVERがAI分野に加え、市場拡大が目されているサービスロボット分野でも存在感を発揮できるか気になるところだ。

韓国勢としては、NAVERの他にもサムスンや通信事業者大手・KTがAI分野への進出を強めている。アルファ碁・ショックの興奮が現在でも語り草になっている韓国で、今後どのようなAI関連の動きがあるか注目したい。