金正恩氏(写真集「人民の偉大な空」より)

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韓国の政府系シンクタンク・統一研究院が発表した「北朝鮮人権白書2017」によれば、北朝鮮の刑法で法定最高刑が「死刑」となっている罪は、次の8種類だ。

「国家転覆陰謀罪」「テロ罪」「祖国反逆罪」「破壊・暗害罪」「民族反逆罪」「不法アヘン栽培・麻薬製造罪」「麻薬密輸・取引罪」「故意的重殺人罪」――。

北朝鮮のニュースに関心のある読者の中には、「あれ?」と思った人もいるのではないだろうか。反逆(スパイ)罪やテロ罪については、米国を含め多くの国が最高刑を死刑とする厳しい姿勢で臨んでいるし、薬物犯罪に対してはシンガポールや中国も厳しい。殺人罪については、日本も同様である。

冒頭の説明だけを読むと、北朝鮮が死刑問題において突出して無慈悲な国ではないような印象を抱くかもしれない。

しかし現に北朝鮮においては、上記の8つの範囲に収まらない「罪」によって、多くの人々が処刑されている。

その裏には、ふたつの理由がある。

権力者の性犯罪

第一に、北朝鮮は2007年の法改正で、「刑法付則」なる独特の規定を設けている。これは、本来なら法定刑が死刑とされていなかった一般犯罪について、「行為の情状がきわめて重い場合」に、死刑や財産没収刑、無期労働教化(無期懲役)刑を最高刑として適用するというものだ。

では、この付則によって「死刑相当」とされているのはどのような罪か。以下はその一部である。

「国家財産の略取」「貨幣偽造」「貴金属・有色金属の密輸・密売」「食堂や旅館を運営しながら性奉仕を組織した場合」「故意の重傷害」「誘拐」「強姦」「個人財産の強盗」――。

これを、日本の犯罪に当てはめたらどうなるだろうか。多額の公金横領や脱税で捕まったら、まず死刑を免れないだろう(国家財産の略取)。激しい暴力沙汰を起こす暴力団や半グレも同様である。また、最近ニュースを賑わしている金塊の密輸団も、かなりヤバいかもしれない(貴金属の密輸)。

きわめつけは、「食堂や旅館を運営しながら性奉仕を組織した場合」に無期懲役か死刑にするという付則である。実はこの条項には、「行為の情状がきわめて重い場合」という但し書きが添えられていない。ということは、これをやったら「1発アウト」なのだ。

つまり、北朝鮮軍が攻めてきて日本を占領し、自国の法律を押し付けたら、日本全国の歓楽街は「血の海」にされるということだ。現状ではあり得ない想定だが、北朝鮮の人々はそのような体制の下で暮らしているのである。

もっとも、北朝鮮で売買春が組織的に行われていることは良く知られている。それは、そのようなハイリスクな行為に手を染めなければ、生き残ることのできない人々がいかに多いかの証左でもある。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

そして、北朝鮮において法の定める範囲を超えて処刑が横行している理由の第二は、死刑執行の「恣意性」にある。

国際人権規約(自由権規約)の第6条1項は、次のように規定している。 「すべての人間は、生命に対する固有の権利を有する。この権利は、法律によって保護される。何人も恣(し)意的にその生命を奪われない」

この「恣意的」という言葉は、よく「意図的」とか「作為的」の類語と混同されるが、実際にはそうではなく、「自分勝手」とか「思うがまま」、「場当たり的」といった意味だ。

北朝鮮は、まさにこれだ。上述した付則によれば、「強姦」を行った者は一定の割合で死刑にされていておかしくない。実際、処刑が行われているとの情報もある。しかし聞こえてくるのは、犯人が庶民であるケースばかりだ。

北朝鮮では権力をかさに着た性犯罪が横行しているが、それが重大犯罪として裁かれたとの話はまったく聞いたことがない。

結局のところ、権力者は並大抵のことでは処罰されず、法律を平気で捻じ曲げる。その陰で、本当は罪とも言えない罪を犯した庶民たちが、場当たり的に葬られているのである。