港区であれば東京の頂点であるという発想は、正しいようで正しくはない。

人口約25万人が生息するこの狭い街の中にも、愕然たる格差が存在する。

港区外の東京都民から見ると一見理解できない世界が、そこでは繰り広げられる。

これはそんな“港区内格差”を、凛子という32歳・港区歴10年の女性の視点から光を当て、その暗部をも浮き立たせる物語である。

港区内で頂点を極めた者に与えられるキングとクイーンの称号。クイーンとなり、港区女子を卒業した凛子は、白金で生まれ育ったお嬢様の格の違いを思い知り、タワマンを去る人々の存在を知るのだった。




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男というのは何故、何歳になっても考えることが変わらないのだろうか。

どんなに年齢を重ねても考えていることは基本的に変わらず、女性にモテたい、カッコ良く見られたいという欲が湧く。そして自分達が一番だと信じている。

“彼ら”を見ていると、港区という狭い世界で必死に何かを守ろうと、縄張り争いをしているようにしか見えなかった。



「凛子ちゃんは、ゴルフするの?」

今日は美奈子の誕生日会。

『サイタブリア バー』の3階にある個室を貸し切って誕生日会が行われており、隣に座った30代後半であろう、爽やかな笑顔の男性が話しかけてきた。

「以前はしていたのですが...最近はすっかりご無沙汰しております。」

一時期、港区住民は狂ったようにゴルフに熱中していた。男女問わず、ゴルフがコミュニケーションの基本であり、ネットワーキングのメイン手法になっていた。

しかし時代は変わり、近年では急にゴルフ人口が減ったように感じるのは気のせいだろうか。

「俺らさ、ここ界隈で飲んでいる人達集めてゴルフコンペをよく開催してるんだ。今度よかったら、参加しなよ。」

彼らの噂はこの界隈で遊んでいる人ならば一度は聞いたことがあるだろう。若手投資家やクリエイター陣が集う、港区の新進気鋭軍団・西麻布チャンピオンクラブ。

彼らは独自の縄張り、そしてコミュニティーを築いており、その集団に入れる人は経済力だけではなく、波長が合うことが何よりも大事とされている。

「あれ、でも凛子さんって佐藤さんと仲良いんですよね?」

もう一人、別の男性が話しかけてきた。その瞬間に、場の空気が固まったことを肌で感じた。


集団によって全く異なるカラー、どこに属すかで決まる人脈の質


港区派閥争い➁港区トライアスロンチーム


「なぁんだ、凛子さんは佐藤さん派閥かぁ。」

がっかりしたような声でその場にいた男性が肩を落とす。凛子には理解できない心情だが、男たちが互いを意識していることは確かだ。

佐藤はトライアスロンをしており、大企業の社長系が多く属すグループに入っている。

彼らは日々勢力拡大中で、派手なパーティーが大好きだ。

“男の絆”を何よりも大事にしており、そこに女性が入る隙はない。(しかし当然の如く、女性が彼らにとっての最大の栄養源である。)

メディアに露出している人も多く、最も華やかな派閥だと言っても過言ではないだろう。

「佐藤さん派閥はまた俺らとは違うグループだからなぁ...」

隣に座る男性が、小さな声で呟いた。同じような場所、狭い世界で遊んでいるにも関わらず、彼らは決して交わることはない。

「でもきっと、俺らの方が一緒に遊んでいて楽しいと思うよ。」

茶目っ気たっぷりに笑いながら言っているが、彼らの本心であることに間違いはなかった。




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気がつけば深夜2時を回り、誕生日会はお開きとなった。

「何歳になってもお誕生日を祝ってくれるのって、港区の嬉しい慣習よね♪」

美奈子はすっかり酔いが回っている。

美奈子やチャンピオンクラブの皆と一緒にお店を出ようとした時、別の男女数名の集団とタイミングが被ってしまった。

どうぞ、と言おうとした時、思わず「あ...」と声が出た。そこには市原と、市原の友人がいたからだ。

「あら凛子さん。奇遇ですね。」

いつも冷静で何を考えているのか分からない、市原の冷たい視線が更に冷たく感じる。

凛子に一瞬視線を向けたかと思いきや、即座に一緒にいる男性たちに視線が注がれる。

「こんなお時間まで西麻布で飲んでいるなんて、お元気ですね。」

市原の隣にいる男性が少し小馬鹿にした言い方で、凛子と美奈子を一瞥する。凛子は何も言えず、思わず下を向いた。

「久々にこの辺りに来ましたけど、やっぱり時代は変わらないんですね。」

市原たちは、港区卒業組だった。


狭い港区、この後凛子の婚約者に遭遇。彼は何派閥?


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市原との遭遇により、一気に疲れが増した。

「本当、どこに行っても知り合いばかりで嫌になっちゃう...」

ぼやく凛子を横目に、お誕生日の主役である美奈子は上機嫌で、“暫く歩こう”と 言い始めた。こうなると、もう誰も止められない。

セルジオ・ロッシの11cmピンヒール。普段ならば断固として歩かないけれど、ちょうど今は夜風に当たり、酔いを冷ましたい気分だった。

美奈子と一緒に西麻布の交差点から六本木通り沿いに進み、六本木交差点まで歩き始めると、美奈子が呟いた。

「男性の帰属意識って、女性より強いよね。港区で生きるためには、一人ぼっちでは寂しいのかな。」

港区には、社会的成功を手にした者が当たり前のように大勢いる。そんな中に一人では、タフな男たちでも大きな波に飲まれてしまいそうな気分になるのだろうか。

誰かと一緒に、集団でいないと不安に襲われることもなんとなく理解できる。

そんなことをぼんやり考えながら歩いていると、凛子はまた声を失った。

「あれ、凛子!もう誕生日会は終わったの?」

目の前には、凛子の婚約者・雅紀が立っていた。




「ま、雅紀!奇遇だね。」

雅紀は酔っているのか、少し顔が赤い。そして周囲にいる友人たちに、“婚約者です”、と次々に凛子を紹介し始めた。

雅紀の周りには外資金融に勤める男性陣と、雅紀と同じような環境で育ってきた帰国子女の面々が集っていた。

「そっか、雅紀はチーム帰国子女だった...」

中には見たことのある顔も何人かいた。皆、英語と日本語がたまに混じるような話し方をしている。

凛子は今夜の出来事を思い返しながら、昔小学校の授業で習った、スイミーという絵本を思い出した。

小さな魚は、一匹でいるとすぐに大きな魚に食べられてしまう。

だから皆で群れをなし、大きな魚のように見せて敵から身を守る方法を編み出した。

一人ぼっちでは生きていけない港区。

皆どこかの派閥に属すことで自分をより大きく見せ、己の身を守っているのかもしれない。

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これぞ正に栄華を極めた者の余裕。港区から離れゆく勝者たち