両腕のない6歳少年、水泳大会で金メダルを獲得(画像は『Elmina Ismail Zulfic 2016年12月8日付Facebook』のスクリーンショット)

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2歳〜9歳までの子供の6.5%が何らかの障がいをもって生まれてくると言われるボスニア・ヘルツェゴビナでは、対応可能な施設が不足し、障がいのある子供たちは福祉のサポートが制限された社会で疎外感を感じながら生きて行かなければならない。そんな子供たちに希望の道しるべを与えたある水泳クラスが話題になっている。米『REUTERS』やカナダ『CTV News』、英『Metro』などが伝えた。

イズマル・ザルフィク君(6歳)は足が変形し両腕が無い状態で生まれてきた。食事やものを書く時などは背中を曲げなければならず、両親は背中のセラピー治療のため息子に水泳を勧めたが、内気なイズマル君は水に入ることを怖がった。

しかし、アメル・カポさんというスポーツ選手に出会ってからイズマル君の人生は大きく変わった。アメルさんは1年ほど前にサラエボ市内で障がいを持つ子供たちのために無料で水泳レッスンを提供する「Spid(スピッド)」を立ち上げ、コーチとして教えていた。

イズマル君の父イズメットさんは、サラエボの北に位置するゼニツァの自宅から70kmほど離れた市営プールまで車で週に2回、イズマル君を連れて行く。地元の鉄工所で働く父にとってその費用は決して安くはないが、「Spid」がイズマル君に水泳を続けてほしいという願いからイズメットさんの車のガソリン代やイズマル君の水泳に必要な備品を援助しているという。

アメルさんの指導のもとで、自分と同じように障がいを持つ子供たちと水泳のレッスンを受けてきたイズマル君は、この1年で驚くほど上達した。水泳を始めて数か月後には、水への恐怖を乗り越えてダイブができるようになった。そしてオリンピック競技用サイズのプールで、手助けなしで泳ぐまでになった。

「私との信頼関係が築かれたこと、そして何よりイズマル君のやる気が成功をもたらしたのでしょう」とアメルさんが話すように、レッスンを始めて1年後、イズマル君はザグレブの障がい者水泳大会にて背泳ぎで50メートルを泳ぎ切り、自分の年齢の2倍にあたるライバル選手を負かしチャンピオンになった。

大会で見事金メダルを獲得したイズマル君は「勝つことが好き」と笑顔で語っている。障がいを背負った息子がここまで達成したことにイズメットさんは「水泳を始めてからというもの、息子の表情は明るくなり笑顔を見せるようになりました。これは決してお金で買えるものではありません」と喜びを隠せない。

そんなイズマル君の頑張りは海外にも伝わった。米ニューヨークを拠点とする非営利の慈善団体「The Swim Strong Foundation」の創立者ショーン・セルビンさんはイズマル君のことを知り、この1年間で50人ほどにまで増えた障がいを抱える子供たちに特別なレッスンをするためボスニア・ヘルツェゴビナを訪れた。

ショーンさんは「障がいを持つ子供たちが、他の子と同じように『自分もやればできるんだ』と悟った時、さらに自信がつき『できないことはない』と彼らは学ぶのです」と述べている。

「Spid」がサラエボの市民プールを使用するには、1か月に1,650兌換マルク(約10万円)がかかる。市からの援助金は出ないため、地元企業や国際援助団体の寄付により運営が賄われているそうだ。

アメルさんは、障がいを持った子供たちにも自分にできることがあるという能力を見出しそれをサポートしていくことを志している。「彼らの体は確かに健常者とは異なります。ですがそれを子供らに受け入れさせ、どのように自分の体を使うことができるのか。それを証明するチャンスを与えるのが、この水泳クラスなのです。私のゴールは彼らを世に送り出すことなのです」と話している。

イズマル君は、9月から小学校に通うことになる。特別な訓練を受けていない教師を含め、障がい者への受け入れ態勢が不十分な学校では、普通のクラスに入ることはイズマル君にとって困難を極めることだろう。しかし水泳を学んだことで自信を持ち、自分を信じる力を身につけたイズマル君は、どんなことにもチャレンジする姿勢を見せているようだ。

イズメットさんはそんな息子の姿を見て「息子からは多くのことを学ばされます。彼は本物のファイターです」と話す。イズマル君は今年度後半にドイツで開催される「世界障がい者水泳選手権」にも参加することが期待されており、指導を続けるアメルさんは「イズマル君の成功は、ボスニアの障がいを持つ子供たち多くの希望となるでしょう」と語っている。

画像は『Elmina Ismail Zulfic 2016年12月8日付Facebook』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 エリス鈴子)