かつて「最も素晴らしい受験生」として一躍有名になった男性がいる。試験の最中に腹痛で気絶してしまった女子高生を抱えて試験会場を飛び出し、病院に連れて行ったことで、自分自身の大学進学の夢をあきらめることになった四川省の青年、黄くんだ。(イメージ写真提供:123RF)

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 かつて「最も素晴らしい受験生」として一躍有名になった男性がいる。試験の最中に腹痛で気絶してしまった女子高生を抱えて試験会場を飛び出し、病院に連れて行ったことで、自分自身の大学進学の夢をあきらめることになった四川省の青年、黄くんだ。
 
 当時報じられていなかった、彼の家庭の事情やその後の様子を、あれから4年の歳月が経った今、複数の中国メディアが報じている。
 
 黄くんは当時、23歳の「高齢受験生」だった。高校生の時に大学入試試験に合格するも、点数はあまり芳しくない「三本線」レベル。浪人して再挑戦したいと考えたが、彼の家庭でそれだけの学費を捻出するのは難しい。一度軍隊に服役した後に再挑戦することを母親と誓った。
 
 約束通り、退役後に補習学校へ通って受験準備を始めた黄くんだったが、まもなくして父親が大病をわずらうなど、万全の態勢で試験には臨めなかった。あの時病院へ運ばれた女子高生は、一般的な総合大学への入学が可能な「二本線」圏内の得点を獲得できていたが、彼自身は短大レベルの「大専線」にも届かず、結果として大学入学の夢をあきらめることとなった。
 
 事件の後、彼の人柄に惚れ込んだ企業から、好条件での入社の誘いもあったが、全て彼は断り、職業学校への進学を決めた。父親の死、学費のための数々のアルバイト、彼の選んだ道は決して楽なものではなかったが、それでも彼は「あの時のことを後悔したことはない」と話しているそうだ。
 
 壊れた携帯電話を修理にも出さず、資格取得のために必死に勉強する彼は、まさに今懸命に就職活動をしている。受験シーズンになり「4年前の彼」を思い出したネットユーザーからは、「いいことをしたのに人生がダメになってしまうなんて・・・」「同じ受験生の彼にこんなことをさせて、女の子の親、教師、警察はいったい何をしていたんだ?」と彼を思いやる声や、「テストの点数は低くても、あなたの心は100点満点だよ!」「彼はこれからきっと素敵な人生を送るに違いない」と称賛する声が寄せられていた。
 
 よい大学に入ることで、よい企業に就職でき、高収入を得て幸せな人生を送ることができるという図式が、人生の成功パターンとして強く根付いている中国。彼のような優しい心の人々が、学歴至上主義の犠牲になることのない社会であって欲しいと願うばかりだ。
 
中国の大学入試制度
 
 全国大学統一入試と呼ばれる全大学共通の試験で合否が判定される。各大学ごとの二次試験は基本的に行われない。
 
 各省・自治区・直轄市ごとによって振り分け方や点数は異なるが、大学のレベルごとにボーダーラインが設けられている。一般的に、重点大学と呼ばれる上位の総合大学のボーダーは「一本線/重本線」、一般的な総合大学のボーダーは「二本線」、単科大学のボーダーは「三本線」、大専(日本の短大相当)のボーダーは「大専線」と呼ばれ、受験校を選ぶ際の目安となっている。
 
 2017年の重点大学上位20校は下記の通り。(括弧内は地区名)
 
1.北京大学(北京)
2.清華大学(北京)
3.武漢大学(湖北)
4.復旦大学(上海)
5.浙江大学(浙江)
6.上海交通大学(上海)
7.南京大学(江蘇)
8.中国人民大学(北京)
9.吉林大学(吉林)
10.華中科技大学(湖北)
11.四川大学(四川)
12.中山大学(広東)
13.南開大学(天津)
14.天津大学(天津)
15.中国科学技術大学(安徽)
16.西安交通大学(陝西)
17.中南大学(湖南)
18.哈爾濱工業大学(黒竜江)
19.北京師範大学(北京)
20.山東大学(山東)

(編集担当:永井晶子)(イメージ写真提供:123RF)