今季より就任したフアン・エスナイデル監督のもと、ジェフユナイテッド千葉が面白いサッカーをしているということは、小耳にはさんでいた。

 このアルゼンチン人指揮官が求めるサッカーは、ひと言でいえば「ハイプレス・ハイライン」。とりわけそのライン設定は極端で、「どんだけ高いんだよと!」と思わず突っ込みを入れたくなるほどだという。


この男がジェフに「ハイプレス・ハイライン」を持ち込んだフアン・エスナイデル監督だ 当然、背後には広大なスペースが生まれるが、それでも高い位置でプレスをかけて出しどころを抑え、背後にボールを簡単には蹴らせない。あるいは蹴られても、出し手と受け手のタイミングを狂わせることで、オフサイドにかける。その積極的な守備スタイルは一見すると無謀だが、うまくハマればほとんどの選手が相手陣内にいるため、分厚い攻撃を仕掛けられるメリットがある。

 ハイプレス・ハイラインとは、つまり、ハイリスク・ハイリターンと言い換えることができるだろう。

 実際にこれまでの千葉の戦いを振り返れば、そのリスクとリターンの振れ幅の大きさを感じることができる。松本山雅FCに1-3(第4節)、横浜FCに0-4(第9節)、東京ヴェルディに0-3(第14節)と完敗を喫した一方で、V・ファーレン長崎に5-0(第13節)、愛媛FCに4-2(第16節)と完勝。そうした派手なスコアだけでなく、第17節を終えた成績は6勝5分6敗と、勝ち負けを繰り返す出入りの激しい戦いを続けている。

 ハイラインの実効性を知るうえで、奪ったオフサイドの数を見ても面白い。開幕戦のFC町田ゼルビア戦では11回、第6節の京都サンガF.C.戦では12回、第7節のザスパクサツ群馬戦では13回と、何度も10を超えるオフサイドを奪っているのだ。通常、1チーム当たり1試合で2〜3回が平均だから、この数はちょっと尋常ではない。

 そんな千葉の特殊なサッカーが首位チーム相手に通用するのか。ホームで行なわれた第18節のアビスパ福岡戦は、彼らの力量を知るうえでも、実に興味深い一戦となった。

 どこまで極端なのか――。そんな高揚感をもってこの試合を見たためか、結論から言えば千葉のパフォーマンスにはちょっと拍子抜けさせられた。

 最終ラインは確かに高いが、「どんだけ!」と突っ込みを入れたくなるほどもでない。ハイプレスも献身的ではあったが、想像の範疇のレベルだった。むしろ感じたのは、バランスのよさ。それでも次々に福岡の選手がオフサイドに引っかかる。得点源のFWウェリントンが次第にイライラしていく様(さま)は、まさに千葉の巧みな守備の賜物だった。

 一方で攻撃面でも、よさが見えた。前線にクサビを入れて、その落としをアンカーのMF佐藤勇人やセンターバックのDF近藤直也がサイドに展開。両ウイングだけでなく、サイドバックも果敢なオーバーラップを繰り出し、厚みのあるサイドアタックを実現する。4-3-3のフォーメーションを採用した千葉は、3-4-3の布陣だった福岡とのシステムのギャップを突いて、サイドから次々にチャンスを作った。

 もっとも、20分ほどまでは完全に千葉のペースだったが、前半途中から福岡が4バックに変更したことでギャップを突けなくなると、次第に千葉の勢いはトーンダウン。落ち着きを取り戻した福岡にラインをかいくぐられ、ピンチを招く場面も増加した。

 それでも千葉は粘り強く耐えしのぎ、逆にいくつかチャンスを作った。結局、失点はしなかったものの、得点も奪えずに試合はスコアレスドローで終了。試合後、エスナイデル監督は「いい試合だったと思っている。もちろん勝ちたかったが、全体的には満足している」と納得のコメントを残したように、首位チーム相手の引き分けは、千葉にとっては前向きなドローだったようだ。

 個人的な感想では、物足りなさが残った。どこか規格外のサッカーを期待しすぎたのかもしれない。そんな想いを佐藤に伝えると、苦笑いを浮かべながら、こう返してきた。

「開幕当初はこのサッカーはすごいなというか、ラインが高すぎるんじゃないかという不安を持ちながらプレーしていました。でも、最近は自分たちも慣れてきて、うまくバランスを調整できるようになってきたと思います。危険なシーンもだいぶ減ってきたし、リスク管理もできるようになってきた。それでもオフサイドはしっかり取れている。不安が自信に変わってきたという手応えを感じています」

 当然、破天荒なスタイルだけでは結果にはつながらない。試合を重ねるごとにハイライン・ハイプレスのサッカーは悪い部分がそぎ落とされ、成熟度を増していったということなのだろう。極端ではなく、程よい高さ。その絶妙なバランスを、徐々に見出しているのかもしれない。

 首位の福岡を零封した守備の手応えがある一方で、佐藤は攻撃面の課題を口にする。

「立ち上がりはよかったですけど、時間が経つにつれて勢いは消えていったかもしれません。攻撃の質ももちろん重要ですけど、意識の問題も大きい。1点でも獲れば、相手は出てこざるを得ないので、自分たちのやりたいサッカーがもっとできると思う。だからまずはシュートの意識、ゴールを奪うという覚悟をもっと持たないといけないと思います」

 確かに、この日の千葉はいい形を作りながらも、得点の匂いを感じることは少なかった。スタイルの成熟の一方で、個々の意識が欠如していた。不安は自信になったが、その自信を確信に変えるには、指揮官が求めるスタイルを体現するだけでは足りないのだ。

 2009年以来、J1から遠ざかっている千葉に今求められるのは、「ハイライン」でも「ハイプレス」でもなく、勝利を得るための「覚悟」なのかもしれない。

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