ふたたび心に火が灯(とも)った、頼れる元主将が戻ってきた――。

 ワールドカップまであと2年あまりとなった6月10日、ラグビー日本代表(世界ランキング11位)は2019年の本番で同じプールになる可能性が高いルーマニア代表(同16位)と熊本・えがお健康スタジアムで対戦した。


ルーマニア戦のリーチ マイケルはトライを挙げるなど大活躍 この試合で桜のジャージーの「6番」を身にまとい、約2年ぶりに日本代表に復帰したのが元キャプテンのFL(フランカー)リーチ マイケルだ。リーチといえば、エディー・ジョーンズ体制の2015年ワールドカップで南アフリカ戦を含む3勝を挙げたチームの大黒柱であり、リーチにとってはそのワールドカップ以来の代表戦となった。

 最高気温が28度を超えるなか、1万8000人近くのファンが集まったスタジアムで、リーチは持ち前の強いタックルと運動量でFWの大きなルーマニア相手にプレッシャーをかけ続けた。ラインアウトや空中戦では、そのジャンプ力を活かしてボールを華麗にキャッチ。後半1分、ラインアウトを起点にSO(スタンドオフ)小倉順平からのノールックパスをキャッチすると、豪快なランニングを見せて中央に飛び込み、自らトライも挙げた。

「トライはワールドカップの南アフリカ戦以来。ボールを持って走ってのトライは久しぶり。大学以来でしたね!」(リーチ)

 日本代表のジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が「一緒にやってまだ5日目ですが、彼が非常にいいリーダーなのはわかる」と絶賛すれば、現キャプテンであるHO(フッカー)堀江翔太も「ディフェンスでガツガツいって、チームを勇気づけていた。(合流して)短い時間でも戦術的なことができている。非常によかった」とリーチを称えた。一方で、試合前の合宿中に同部屋だったというSH(スクラムハーフ)田中史朗は「運動量はあったが、前回のワールドカップより動けてなかった。もっとできる」とさらなる期待もかけていた。

 このような言葉が並ぶとおり、リーチは日本代表に欠かせない選手である。ではなぜ、彼は2年ぶりの代表復帰となったのか――。

 リーチは他の多くの選手と違い、トップリーグ(東芝ブレイブルーパス)に在籍しながらも、日本を拠点とするスーパーラグビーチーム「サンウルブズ」に加わっていない。「スーパーラグビーで優勝したい」という理由で優勝2回を誇るニュージーランドの強豪チーフスに所属している。ニュージーランド代表選手らオールブラックスと一緒にプレーする、数少ない「海外組」だ。

 ただ、昨年6月は右手親指の負傷により、日本代表への参加を辞退。さらに昨年11月の欧州遠征も、その2ヵ月前に就任したばかりのジョセフHCに「2019年には必要だ」と代表入りをオファーされたが、「今後、日本代表に呼ばれないリスクもある危険な判断でしたが、断りました。もし今後(日本代表)呼んでくれないということになったら、違う目標を立てないといけないですね……」と不参加を決めていた。

 その理由について、リーチはこう振り返る。

「このまま2019年まで3年間突っ走って、日本代表で戦うのは無理でした」

 昨年の秋ごろからリーチの心身は、特にメンタル面で限界を迎えていたという。

 東海大学3年の2008年から日本代表に身を置き、特に2014年からはトップリーグとスーパーラグビー、さらに日本代表の北米遠征をこなし、そして2015年のワールドカップ・イングランド大会へと突入。大会終了後もトップリーグとスーパーラグビーが始まり、常に身体を張り続けていた。また、グラウンドを離れれば、多くのメディアからの取材に連日、応じなければならない環境だった。一度、リセットしたいと思うのは当然のことだろう。

「ちょっと、ゆっくりします」

 リーチはそう語り、奥さんの実家である長野でリフレッシュすることを選んだ。昨年11月14日には3歳を迎えた愛娘・真依ちゃんの誕生日を初めて祝うことができ、家族で七五三にも行ったという。その一方で、スーパーラグビーやトップリーグでパフォーマンスが落ちていると感じ、筋力やフィットネストレーニングなどで自身と向き合う時間にも使った。

 そんなリーチも昨年10月末、自分の名前が載っていない代表メンバーを久しぶりに目にし、困惑と寂しさがあったという。チーフスのチームメイトはオールブラックスで戦い、自分のいない日本代表が欧州で善戦する姿を見て、沸き上がるものもあった。

「2019年のワールドカップには出たい。自分の心のなかでファイアーが点(つ)いて、もう一度がんばりたいと思った。高校時代に年代別代表に選ばれたい(と感じた)ときの気持ちが戻ってきました」

 同時にリーチは、ジョセフHCとも「チーフスでいいプレーをすれば、また呼んでくれるのか」などの話し合いを行なったという。

 こうして、リーチはふたたび「桜の戦士」としてピッチに戻ってきた。

「いろいろ考えて、日本代表から離れて、『もう1回、選ばれたい』というスタンスから入るほうが一番いいかなと思いました。テストマッチはトップリーグやスーパーラグビーとも違う、勝たなければいけない特別な試合。もう1回、やりたいと思った」

 ジョセフHCは「世界のなかでも、このポジションでベストの選手」とリーチを高く評価する。合宿での練習でも存在感は抜きん出ており、選手たちからも「リーチをリーダーグループに入れてほしい」との要望があった。そしてリーダーのひとりに選ばれたルーマニア戦では、「今回は代表に選ばれたときからワクワクしていた」という気持ちを体現するかのように、自らの復帰を祝うトライを挙げるなど攻守にわたって大活躍し、勝利に大きく貢献した。

 日本代表で48試合目となったリーチは「エディー・ジャパンを経験していないメンバーが自信を持ってプレーしている。みんな自分たちの役割を理解して、ジェイミーの目指しているラグビーができている。日本代表に、勝つイメージができていた」と語り、若い選手の成長を実感して破顔した。

 ただ、反省も怠らない。試合後半、FWに強みのあるルーマニアに押し込まれたことに関しては「反則して(自陣で相手の)スクラム→モールの(悪い)流れになってしまった。モールディフェンスはまだまだです。もっと練習しないといけない。ワールドスタンダードではない」と注文を付けることは忘れなかった。「でも、それがテストマッチのよさ。自分たちの弱みを見つけることができる」と、リーチはジェイミー・ジャパンに光明を見出してもいる。

 ルーマニア戦から再スタートを切ったリーチは、ジョン・カーワンHC、ジョーンズHCに続き、ジョセフHCのもとで3度目のワールドカップを目指す覚悟を決めた。試合後の表情は、「個人のパフォーマンスは悪くなかった。(2019年のワールドカップに向けて)スタートとなる試合です。波をなくして、どんどんよくしていきたい。もっともっと成長できる」と実に晴れやかだった。

 そして最後に日本代表のファンに向けて、リーチは自らに語りかけるようにこう言った。

「日本代表に戻ってきて、パッション――勝ちたい気持ちが倍以上になった。『違うリーチ』が見られると思います。楽しみにしていてほしい」

 2019年のワールドカップでベスト8以上を目標に掲げるジェイミー・ジャパン。ニュージーランド出身だが誰よりも大声で『君が代』を歌う大和魂を持った”サムライ”が、チームにさらなる進化をもたらす。

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