『モアナ』で手描きアニメーションを担当したエリック・ゴールドバーグ

写真拡大

 映画『モアナと伝説の海』には、“手描き”のキャラクターが登場する。この作業を担当したエリック・ゴールドバーグは、手描きのアニメーションを描いたのは『くまのプーさん』(2011)以来だったと言う。現在は『アナと雪の女王』『ズートピア』と3DCGアニメーション作品が続いているディズニー。ディズニーの手描きの今についてエリックや、『モアナ』監督のジョン・マスカーらが語った。

 『モアナ』の登場キャラクター・マウイの体に存在する、彼の体を動き回るタトゥー“ミニマウイ”こそ、アニメーターがライティングボックス(トレース台)を使ってアナログで描いたスケッチを、デジタル処理し、CGのキャラクター上に貼り付けるという作画方法が取られた“手描きキャラクター”だ。そのためミニマウイの動きには、伸縮など2次元的な特徴が強く出ている。このミニマウイを手掛けた一人が、1990年からディズニーでアニメーターとして働いているエリックだ。

 エリックいわく、現在ディズニーでトレース台を使用しているのは彼を合わせても片手で足りるほどだという。『プリンセスと魔法のキス』(2009)時には50人以上の手描きのアニメーターがいたが、『モアナ』で手描きのアニメーターとして参加したのは彼を含めて3人だった。だが、ディズニーに手描きの精神は失われていない。エリックは「コンピューターでアニメーションを描いていても、手描きのスケッチの需要は多大だってことを忘れないでほしい」と強調する。

 「コンピューターを使うアニメーターの多くが、手描き出身の人、もしくは手描きのトレーニングを受けた人が大勢なんです。キャラクターデザインは皆、手描きのスケッチでスタートしています。ストーリーボート(絵コンテ)も手描きです。作品を作るにあたって何千という手描きスケッチが必要になります」。実際にコンピューターでCGを作る前には、テスト用として多くの手描きのスケッチが生み出されているのだとか。また『モアナ』のプロデューサーであるオスナット・シューラーも、ディズニーでは手で描くことを何よりも基本としていると語る。

 今後2Dアニメーションが作られる可能性もゼロではないようで、『モアナ』でも初期の構想には、手描きのアニメーションにCGを組み合わせて2D主体で作る考えがあったそう。だがディズニー・アニメーション・スタジオCCOであるジョン・ラセターの「CGじゃないとダメだ」という主張によって、CG作品としてスタートした。これに対してマスカー監督は、「手描きでもいいのに」と思っていたというが、作品が出来上がっていくにつれてラセターの考えが正解だったと確信したという。

 「正しい決断だったと確信したよ。海の動きを手描きでやっていたら時間がかかり過ぎるし、CGのように水を上手く描けない。マウイの体中にあるタトゥーは手描きだけど、それはそれは大変だった。ほとんど不可能って感じだね。それから衣類のなんともいえない生地感。土の趣き、草の細かい動き、手作りの籠、それに髪の毛。どれも手描きではCGのような質感はだせなかった」。そしてマスカー監督は、「アニメーションはどれもこれもCGであるべきだとは思わないが、この映画に関してはCGが正しいやり方だったと確信しているんだ」と結論付ける。クリエイターが表現したいものを描くために必要なもの。それが今のディズニーアニメーションにとっては、3DCGであるよう。手描きの精神が失われたわけではない。少なくとも『モアナ』ではその精神を感じることができるはずだ。(編集部・井本早紀)

『モアナと伝説の海』は6月28日より先行デジタル配信開始、7月5日よりMovieNEXが発売(税抜き価格:4,000円)