森岡が移籍した「ベヴェレン」の背景を探る

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元日本代表MF森岡亮太がワースラント=ベヴェレンに移籍した。契約期間は3年、クラブ史上最高額とあって、その期待は大きいがベヴェレンとはどんなチームなのだろうか?

合併して誕生

2010年にKSKベヴェレンとレッドスター・ワースラントというクラブチームが合併して現在のワースラント=ベヴェレンが誕生した。KSKベヴェレンはベルギー国内リーグを2度優勝したことのあるチームで、チャンピオンズリーグやカップウィナーズカップといったヨーロッパの舞台でも戦った経験があった。

しかし、財政的に非常に厳しい状況に追い込まれていた。2009-10シーズンの順位は2部で19チーム中18位、この順位は残留プレーオフを争うものであったが、プレーオフ以前に財政難により3部降格が決定していた。

これに目を付けたのが2部6位であたレッドスター・ワースラントである。レッドスター・ワースラントはそのシーズン2部6位ではあったものの2000-01シーズンには4部であったように少しずつ伸びてきたチーム。チームは合併し、ワースラント=ベヴェレンとなったチームは2部でプレーオフ圏内につけるようになり2011-12シーズンに昇格を勝ち取っている。

2012年以降は1部残留を勝ち取っているが、13位、14位、14位、12位、14位と降格しないぎりぎりのラインで残留している。そうしたチーム状況を打破すべく獲得した選手が森岡亮太ということになる。

スタンダール・リエージュの川島永嗣、ヘントにいる久保裕也が優勝に繋がる活躍を期待されていたのに対し、森岡はチームの順位を1つでもあげることが役割として求められるだろう。

前身は育成王国

じゃあ、ベヴェレンって大した選手もいないしJリーグのチームより弱いんじゃないの?といった懐疑的な目を向ける人もいるだろう。

だが、旧KSKベヴェレンは育成に定評があるクラブで、これまで独特な戦略を持って運営してきたチームだった。その一端を紹介しよう。

1.GK王国

育成といってもGKスクールに特に定評がある。ジャン=マリー・プファフ、フィリップ・デ・ヴィルデ、ヘールト・デ・フリーヘル、トリスタン・ペールスマンといったベルギー代表守護神を数多く輩出している。今シーズン20試合を守ったラースロー・ケテレシュもハンガリー代表招集のみでcapはないが、ヘンクで200試合以上プレーしてきた重鎮で2010-11シーズンにはリーグ優勝を経験している。


2.コートジボワール王国

元フランス代表のジャン=マルク・ギユーは1993年にコートジボワールにASECミモザがスポンサー、会長、監督を引き受けた。ギユーは、アフリカで若者を鍛え上げヨーロッパへ輸出するアカデミーを作ったのだ。そこでは、朝の6時から夜の8時過ぎまで練習を行い、英語、スペイン語、フランス語と3か国語をはじめ勉強面でもぬかりがないなどスパルタ教育を行った。

2000年までASECで監督を務めたギユーは注目を浴びた。当時、私が購読していた雑誌群ではよく記事が取り上げられていた。コートジボワールはまだアフリカの強豪でもなく軍隊が統治していた厳しい情勢だった頃である。

後に、2001年からベヴェレンの監督になったことで同クラブに在籍するコートジボワールの若者を次々とベヴェレンへ連れてくる策略をとった。

その中にはユース上がりだったヤヤ・トゥレ、アルトゥール・ボカのほか、エブエ、ジェルヴィーニョ、ロマリッチ、ディディエ・ゾコラといった名だたるメンバーがいた。彼らは後にビッグクラブへとステップアップし、コートジボワール代表でも主力を務めた。2014年のワールドカップで日本代表と戦ったメンバーも含まれている。

一方で、上記の写真のように選手のほとんどがASEC上がりのコートジボワール人になってしまっていた時期もあった。そして、その全員が成功できるわけではなかったため、ギユーはベヴェレンでコートジボワールの若者を自分のおもちゃのように扱ったという批判もある。

3.アーセナル王国

2001年から2006年までアーセナルと提携をしていた。ギユーと友人のアーセン・ヴェンゲルはモナコ時代からつながりがありアーセナルがコートジボワールとベルギーを使ってアフリカから選手を生み出すことに賛同したのだ。

エマニュエル・エブエがベヴェレン経由でアーセナルへ移籍し、イーゴルス・ステパノフスが反対にアーセナルから貸し出された。

2001年に、ベヴェレンの財政難からアーセナルが150万ユーロを貸し出した。これが、「フェアプレーと利害の対立を管理する」FIFAの規定を破るものとされ、ベルギー警察から調査を受けた。結果的にはアーセナルは利子をつけない融資であったことから、FAとFIFAはこれを許可した。

ベヴェレンというチームはこのように独自の取り組みを推し進めてきたが、森岡の期待される役割はどこにあるだろうか。

それはレギュラーシーズン30試合で28得点という得点力不足解消があるだろう。この数字は今シーズンのジュピラーリーグで2番目に少ない。また、今季チーム得点王はシーベ・スフライフェルスの5得点だが彼は冬のマーケットですでにゲンクへ移籍している。

もう1人5ゴールをあげた選手にジーニョ・ガノという190cmを超えるフォワードがいるが、FW、MF含めても得点が期待できる選手は不在である。

次にMFの層に偏りがあることが述べられる。主将のセネガル代表MFイブラヒマ・セックをはじめ守備的な選手やセンターハーフ的な選手はいるがアシスト面でアイデアを感じさせる選手も不在である。チームはドリブルが得意なマルティニーク代表左ウイングのスティーヴン・ランジルを冬にレンタルで獲得したが彼も7試合1ゴールに終わっている。

「得点」と「アシスト」が共に足りていないチームにおいて、森岡はその起爆剤になることが期待されているのではないだろうか。そうした期待の表れは「クラブ史上最高の移籍金」といった金銭面でも表れている。

ベルギー経由でイングランドやドイツにステップアップをする選手は少なくない。森岡もまたベルギーからさらに羽ばたくことができるだろうか?