今夏に結成30周年を迎えるスピッツ。彼らの楽曲はなぜ多くのミュージシャンにカヴァーされるのか

 ロックバンドのスピッツが今夏、結成30周年を迎える。永きにわたって広く親しまれる楽曲を生み出し、世代を超えて愛され続けているスピッツ。それを裏付けるように、“スピッツ楽曲”は洋邦問わず様々なミュージシャンにカヴァーされている。ざっとみてもその数は優に130組を超える。なぜ、彼らの楽曲はこんなにもカヴァーされるのか。そして、なぜこんなにも愛されるのか。彼らの楽曲を追っていくと、<楽曲としての力><シンプルだが深い><日本のスタンダードポップス>という3つのキーワードが浮かび上がってくる。

幅広い世代に受け入れられる“スタンダードポップス”

スピッツの代表曲のひとつ「ロビンソン」

 彼らの代表曲「ロビンソン」が大ヒットを記録した時期に青春時代を過ごした“スピッツ世代”をはじめ、様々な世代で“スピッツ楽曲”は親しまれている。彼らが永きにわたって愛されている理由の一つに、どの時代に生きる人にも受け入れられる普遍性を持った日本の“スタンダードポップス感”が挙げられる。

 例えば、スピッツを聴いた女子高生が「古くさい楽曲」と感じたり、子育て世代が幼児にスピッツを歌い聴かせて首をかしげられたり、シニア世代が「スピッツはよくわからん」と言ったり――、そうしたことはあまり想像し難いのではないだろうか。

 駅前のストリートミュージシャンがスピッツのカヴァーをしていたり、団塊世代の上司がカラオケでスピッツを披露したり、30代の音楽ファンのライヴラリーにスピッツのアルバムが何枚かあったり。考えてみれば、これらは自然なことだったりする。それくらい、スピッツはどの世代にも認知されているバンドだと言える。

 どのタイミングでもファンが生まれるスピッツの魅力、そして、“スタンダードポップス感”とはどういったものなのだろうか。

スピッツとは?

 スピッツの略歴に触れたい。1987年6月にメンバー4人が出会い、同年7月17日に三輪テツヤ(Gt)と粼山龍男(Dr)の母校・文化服装学院で初ライヴをおこなった。

 以降、草野マサムネ(Vo/Gt)三輪テツヤ(Gt)田村明浩(B)粼山龍男(Dr)らの4人は、メンバーチェンジすることもなく、アルバムの発表とライヴを軸としてマイペースな活動を継続し、今夏で結成30周年を迎える。

 代表曲に「ロビンソン」「チェリー」「空も飛べるはず」「涙がキラリ☆」「スターゲイザー」などがあり、数々のヒット曲が挙げられる。

スピッツが“スタンダードポップス”である理由

 スピッツの楽曲はいずれも、ギター・ドラム・ベース・コーラス・ヴォーカルの編成を主として構成されている、わりとシンプルなアンサンブルスタイルだ。ロックバンドサウンドを主体とした「ギターポップ」スタイルの楽曲が多い。

 ロックバンドのサウンドとはいえ、スピッツ楽曲は歪んだギターのオーバーダビングがどっしり聴けるようなロック色の方向ではなく、和音やリズムの隙間を楽しめる「アンサンブル感を重視している」という点が大きな特徴だ。ゴージャスなオーケストラアプローチや、音圧の迫力で攻める、そういったパワーバランスのアレンジではなく、あくまで「楽曲としての力」を最大限広げるというところに、スピッツ楽曲の一貫性がある。

 ストリングスやエレクトロサウンドなどがフィーチャーされていても、“かくし味”程度にとどめられており、アレンジアプローチが曲そのものを喰ってしまうという楽曲はスピッツにはない。メロディ、リズム、旋律に対する構成音、全体としての和音、歌詞、間、などの楽曲を構成する各要素のどれか一つが特に目立っているという訳ではなく、スピッツは楽曲のトータルバランスを重要視しているように思える。その結果、様々な角度から楽曲を楽しめるというポピュラリティが生み出されるのではないだろうか。

「ロビンソン」はどこが名曲?

スピッツ / ロビンソン

 例えば、名曲の一つ「ロビンソン」は、人によっては「サビのメロディが切なくてたまらない」と捉えたり、「イントロが神」という印象を抱いたり、「Aメロのスカスカ感とドラムの絶妙なタメが良い」という感想や、「ギターアンサンブルが完璧」、「情景の浮かぶ歌詞が短編小説のようだ」、「草野マサムネさんの声最高」であったりと、案外バラバラの感想が出てくると思われる。真っ先に出る感想、気に入った魅力がそれぞれあれど、どれも「言われてみればそこも良い」と、各人の感想を共有できるというのは、スタンダード音楽として親しめる証明なのではないだろうか。

 先述のあらゆる点のいずれかに重きを置いて、例えば「この曲はサビのメロディが綺麗だからそこを推していこう」という仕上げ方でも十分「名曲」であっただろうが、スピッツは、「どこかの要素を“売り”にして、そこを中心に仕上げる」ということをせずに、「楽曲・ロビンソン」という世界を作り上げるという制作をしたと感じられる。それは、「永く愛され続けるスタンダードナンバー」という楽曲をいくつも作り上げ続けることに繋がるのではないだろうか。

 楽曲のトータルバランスを重要視したスタンダードポップスは、いつの世も一辺倒な感想では決して片付けられない魅力を持っている。逆に、「メロディが良い」など、たった一言でもその魅力を表せるというアンビバレントな面も併せ持っている。スピッツの楽曲は正にその点、言うならば「シンプルに深い」という点において極めて秀でており、それこそが「30年間愛され続けられている理由」としても過言ではないだろう。

様々なミュージシャンにカヴァーされるスピッツ楽曲

 スタンダードポップスと呼ばれるものがいつの時代もそうであるように、スピッツの楽曲は様々なミュージシャンにカヴァーされている。

▽スピッツをカヴァーしたミュージシャン

<ロビンソン>ゴスペラーズ・佐藤竹善・高橋真梨子・9mm Parabellum Bullet・Debbie Gibson ・Lucas Teague・Jake Shimabukuro
<チェリー>福山雅治・aiko・ANCHANG・Chris Hart・POLYSICS
<空も飛べるはず>ダイスケ・吉岡聖恵(いきものがかり)・Ms.OOJA
<楓>Scott Murphy・Superfly × 秦基博・朝倉さや
<ハチミツ>赤い公園
<あじさい通り>クリープハイプ
<ルナルナ>鬼龍院翔(ゴールデンボンバー)

Debbie Gibson / ロビンソン (Robinson) (カヴァー)

 スペースの都合上ほんの一部しか紹介できないが、シンガーからロックバンド、ウクレレ奏者やメタルヴォーカリスト、オルタナティブロックバンド、そして海外のミュージシャンなどなど、様々な方面からのアプローチは、その点だけでも「スピッツが永きにわたって愛されている理由」となるのではないだろうか。ちなみに、草野マサムネの中性的なヴォーカルは比較的キーが高いため、女性ヴォーカリストであってもオリジナルのキーでカヴァーされていることがほとんどなのである。

7月5日に発売されるシングルコレクションアルバム「CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-」

 スピッツが永きにわたって愛されている理由は、普遍性を持った日本の“スタンダードポップス感”という一貫性だろう。メロディの美しさ、歌詞の世界感、サウンドの心地良さ、それらのどれにとらわれることもなく、楽曲としての魅力をスピッツの世界観で最大限まで広げている。

 アメリカンポップスっぽくもなく、イギリスのギターポップっぽくもなく、スピッツは「日本のスタンダードポップス」なのである。海外のミュージシャンにもカヴァーされる理由は“日本のポップス”というオリジナリティが確立されている点が大きいのではないだろうか。スピッツの音楽は、これまでの楽曲も、これからの楽曲も、ゆりかごから墓場まで楽しめる日本のスタンダードポップスなのだ。

 そんな彼らの、結成30周年を記念したシングル・コレクション・アルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』が7月5日にリリースされることが決まっている。(文=平吉賢治)