生え抜きの若手をトップの戦力へ仕立て上げて結果を掴む。柏が示す強化方針は、‶Jのお手本″と言うべきものだろう。(C) SOCCER DIGEST

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 若いけれど年季が入っている。だから柏の選手たちは、ウォームアップのミニゲームから唸らせる。
 
 5月14日のFC東京戦は、U-20ワールドカップのために中山雄太がチームを離れていたが、それでもスタメンのうち7人が生え抜きだった。中山と、ベンチ入りしたGK桐畑和繁、古賀太陽を加えれば、トップの戦力となるアカデミー育ちは10人に上り、全員が中学年代以降を柏で過ごしている。そして指揮を執るのも、アカデミーで指導を重ねてきた下平隆宏監督。クラブが明確な将来像を描き育成に取り組んできた成果が、ようやくピッチ上に表われ始めている。必然的に同質タイプが育ってくる傾向はあるが、異質は厳選して外部から取り入れハーモニーを醸造している。
 
 現在は戦術アナリストとして活躍する元日本代表の岩本輝雄氏から、こんな話を聞いたのは2年前だった。
「バルセロナの試合や練習は、現地で頻繁に見ています。でも日本にいる時は、よく柏の練習に行くんですよ。ユースのポゼッションが素晴らしくて、時々トップチームを上回っちゃうんです」
 
 ところが今年の柏は出遅れた。4月上旬、目にしたのは不可思議な敗戦だった。序盤から圧倒的にボールを支配して決定機を連ね、逆にアウェーの清水は引いて跳ね返すのが精一杯で、特に前半は攻撃の糸口さえ掴めなかった。
 
 だが終わってみれば0-2。勝った清水の鄭大世主将が「はっきり言って柏は格上」と認めていたように、ワンサイドに近い内容で凌駕しながら、順位は降格圏に引きずり込まれそうなほど低迷することになった。
 
 しかしこの内容と結果が極端に矛盾した一戦を契機に、柏は一転して上昇カーブを描き始めた。前述のFC東京とのアウェー戦、戦術的には「相手もハイプレスをしっかりかけてくるという点でウチと一緒」(下平監督)でも、トップの強化方針では対照を成していた。柏は焦れずに原則自給の道を歩む。一方FC東京は、セカンドチームのJ3参戦など育成進化のビジョンを示しながらも、相次ぐ熟成品の購入で目の前の結果を急いだ。
 だが敢えて結論づければ、この試合は育成型を貫く柏の完勝だった。もちろんGK中村航輔の連続セーブも見逃せないが、手塚康平のミドルシュートで先制してからは「FC東京の骨格を砕く試合ができた」と指揮官も納得。後半開始早々にはハイテンポの流麗な崩しで中央を切り裂き「3〜5点は取らなければ」(下平監督)というほど決定機を連ねた。
 
 柏には大谷秀和のようなクラブ一筋のバンディエラもいるが、最近は手塩にかけるばかりではなく、外へ冒険に出す戦略も見て取れる。中盤で違いを見せつけた手塚も「ユース時代から、相手の嫌なポジションを取り、嫌がるところを突く特徴があったが、守備力に課題があった」(下平監督)ため、ニュージーランドで武者修行を経験した。本流から外れ一見ギャンブルにも映るが、現地で「ボディコンタクトを嫌がらず、球際にしっかり行ってボールをさばく」意識が促進され、レギュラー奪取につながっている。
 
 それまで柏では、長身でパワフルなクリスティアーノがセットプレーを蹴る側に回っていたので、手塚という優秀なキッカーを得たメリットは見逃せない。他にも武富孝介、中川寛斗、中村らが、若干遠回りをしながらも逞しさを増して戻っている。こうした流れは、おそらくアジアの中では優位性を保つ指導力という利点を、地道に追求し続けるクラブの姿勢とも重なる。
 
 熟成品の補強は、教本を提供するかもしれないが、若い芽の経験の場を奪うこともある。一方でビッグネームを買ってこなくてもビッグクラブになれることは、バルセロナを筆頭にいくつかのクラブが証明済みだ。
 
文:加部 究(スポーツライター)
 
※『サッカーダイジェスト』2017年6月8日号(5月25日発売)「加部究のフットボール見聞録 第496回」より転載