集団脱北した北朝鮮レストランの女性従業員ら

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北朝鮮の金正恩党委員長が得意とする「人質外交」が、韓国にいる脱北美女たちを窮地に立たせるかもしれない。

北朝鮮当局はマレーシアで発生した金正男氏の殺害事件において、マレーシア政府が遺族への遺体返還を優先させる方針を示すや、自国内に滞在するマレーシア国民を人質に取る暴挙を強行。その結果、殺害事件の重要な証拠でもある遺体を奪い取ることに成功した。

韓国で「送り返せ」との声

正恩氏は、この「成果」の成果に味をしめたようだ。

今回、新たな「人質外交」のターゲットとされたのは昨年4月、中国・浙江省寧波市にある北朝鮮系の「柳京食堂」を抜け出し、韓国に亡命した女性従業員ら12人だ。世間で、「北朝鮮レストランの美人ウェイトレス」として知られる女性たちである。

(参考記事:20代美人ウェイトレスを直撃……「北朝鮮レストラン」の舞台裏

北朝鮮の対韓国窓口機関・祖国平和統一委員会の関係者は7日、平壌でAFP通信のインタビューに応じ、南北離散家族の再会事業を再開させるには、上記の女性従業員12人と、もう1人の脱北女性の計13人の送還が前提条件となるとの方針を示した。

離散家族は、主として朝鮮戦争により北朝鮮と韓国で生き別れになった人々で、その再会事業はきわめて重要な人道問題だ。しかし南北関係の悪化を受けて、2015年を最後に開かれていない。

韓国では北朝鮮との関係改善を目指す文在寅政権の誕生を受け、右派の自由韓国党を除く与野党が、今年8月に離散家族再会の実現を目指すことで合意している。北朝鮮が核開発やミサイル発射を繰り返す中でも、これならば国際世論に気兼ねすることなく、南北で接触を持つことができる。もしかしたらそれが、本格的な対話の糸口になるかもしれない――韓国側が抱いたであろうこのような淡い期待を、正恩氏はすかさず打ち砕いて見せたというわけだ。

韓国側が、脱北したレストラン従業員らの送還に応じる可能性は低い。しかし、一抹の不安もある。韓国では「民主社会のための弁護士の会」など一部の市民団体が、彼女たちを「1日も早く(北朝鮮の)家族の元へ帰すべきだ」との驚くべき主張を展開しているのだ。

そうした主張の背景には複雑な政治的事情があるのだが、結果的には「女性従業員らは南の情報機関に拉致された」との北朝鮮側の主張に乗る形になってしまっている。

そして、女性従業員らの送還を離散家族再会の前提条件とする今回の北側の主張は、こうした市民団体の声をより大きなものにする可能性がある。

いずれにせよ、女性従業員らの人権も離散家族の悲痛な願いも屁とも思わない正恩氏にとっては、結果がどっちへ転ぼうが痛くもかゆくもない。女性従業員を奪い返すことができれば丸儲けである。

われわれは、本当にたちの悪い男に核武装を許してしまったものだ。