ユン・ジェホ監督

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 出稼ぎのつもりで中国に渡った北朝鮮女性の数奇な運命を追ったドキュメンタリー「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」が6月10日公開する。フランスと韓国を拠点に活動するユン・ジェホ監督が、波乱万丈だった撮影を振り返った。

 家族のため北朝鮮から中国へと出稼ぎに来た北朝鮮女性B(ベー)。しかし、彼女はだまされて中国の貧しい農村に嫁として売り飛ばされていた。その事実を知った彼女は、生きていくために北朝鮮からの脱出を請け負う脱北ブローカーとなることを決意する。そして彼女は北朝鮮に残してきた息子たちの将来を案じ、彼らを脱北させたのち、彼女自身も韓国へと渡る過酷な道を選択する。

 ユン監督は2013年に中国でマダム・ベーに出会う。撮影することになった経緯をこう語る。「元々マダム・ベーは、劇映画のシナリオハンティングのために中国へ行った際に他の脱北した方々に会わせてくれるガイドでした。このように彼女と会いましたが、ある日中国で一緒に暮らす夫のもとに連れていってくれました。そこで気になることが多かったのです。なぜこの人は中国の夫や家族がいるのだろう、そんなことも聞きました。その過程でマダム・ベーが自分の話をしながら、ある日自分のことを映画にしてみないか、と提案されたことから撮影が始まりました」

 「マダム・ベーの第一印象は、私の母親と似ていると感じました。声も大きいし、タフな感じ。たまに腹が立つときもありますが、電話したら自分の言いたいことだけ言って切ってしまうような、そんな人なんです。朝はすごく早く、家族の中で一番に早く起きて、一番に遅く眠る。そんな母の性格と似ていました。だからか、とても親近感を持ちました」

 政治的な状況に翻弄されながらも、1人の女性として幸せを求めるマダム・ベーだが、監督は本作をどのように見られることを望んでいるのだろうか。

 「まずはこの映画を通して感じられるほろ苦さです。マダム・ベーが二つの家族の間で葛藤する姿を見て、私はとても苦々しく思いました。結局はシステムが、もし二つの政府がここまで頑なに門を閉ざしていなければ、“幸福”の価値観がマダム・ベーにとって違ったかもしれないからです。彼女は本当に小さな幸せのためにあんなに闘ってきたのに、その小さな幸せさえも不可能にしてしまうその原因はどこにあるのだろうか。それを考え始めると結局苦々しく思うしかなく、憂鬱になるだけです。そんな思いも観客にも持ってもらえれば。脱北者の話だと言うと、普通は人間の物語というより、むしろ政治や背景が先走りますが、私はそれよりも人間の物語を作りたかったのです。どんな国にも条件が良かれ悪かれそこには人間がいるので人間としての感情をまず伝えるのが重要だと思いながら作りました」

 現在のマダム・ベーはソウルの郊外でバーを経営し、独立しているという。「今は中国の家族とも、北朝鮮の家族とも一緒に住んでいません。でも自分で守らないといけないものは守っているようです。バーで儲けが出たら、少しずつ中国の家族と北朝鮮の家族に送っているのです。自分のできる最善の形を守ろうとしているようです」と報告した。

「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」は6月10日から、シアター・イメージフォーラムほかで公開。