2006年1月19日、全国高校選手権・決勝、野洲高の当時2年生だった乾が、鹿児島実業高を相手にドリブルで仕掛ける。写真:サッカーダイジェスト写真部

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[キリンチャレンジカップ2017]日本 1-1 シリア/6月7日/東京スタジアム
 
 たちまち乾貴士の一挙手一投足に、誰もが釘付けになった。

 足に吸い付くようなトラップの瞬間に、複数のシリアの選手をたちまち置き去りにする。猛烈な勢いでボールを目がけて突っ込んでくる屈強なDFをワンタッチでいなし、その反動を推進力に変えてドリブルを仕掛ける。
 
 さらにスタンドやTVで観ている者をも騙す、背中に眼があるかのような後方への正確なパス。騙されたと思った次の瞬間には、前方のスペースを突き、フリーでパスを受ける。
 
 縦に抜ける、と見せかけての中央へのカットインも鋭かった。77分には本田圭佑からのサイドチェンジを受けると、まず縦に仕掛けて、さらにゴールラインぎりぎりを綱渡りするかのようにスルスルとダブルタッチのドリブルで、中央へ抜け出し決定機を作り出した。
 
 乾にパスが入ると、『何か』が起きそうな期待が膨らんだ。その期待に応えるように、日本の背番号11は必ずまず前を向いてドリブルを仕掛けようという“選択”をしていた。
 
 ふと思い起こしたのが、旋風を巻き起こした2006年度の全国高校サッカー選手権の野洲高だ。初優勝を果たした”セクシー&ちょい悪”軍団の攻撃を牽引したのが乾だった。とりわけ、完璧なボールコントロールと急激にピッチを上げるドリブル、そこから意表を突く背後へのパス--。決勝の鹿児島実業高戦、延長に決めた伝説のゴールにつなげた乾のテクニックが凝縮された一連のプレーは、今なお多くの人の記憶に残っていることだろう。

 あれから11年、今回のシリア戦での足技のデパートのようなプレーぶりを見ていて、当時と変わらない遊び心と創造力を感じた。大胆かつ繊細なテクニシャンぶりはそのままに、すべてがレベルアップし、加えて力強さも増し、2年ぶりとなる日本代表の檜舞台で披露してみせた。

 また高校3年時の2006年11月には、反町康治監督率いるU-21日本代表に飛び級で選出。韓国との親善試合の終盤に投入されると、短時間の中で小気味いいドリブルからチャンスを作り出していった。その大舞台で物怖じしなかった図太いメンタルも印象に残る。
  
 2007年に横浜でデビューを飾り、その後、C大阪、ボーフム、フランクフルトとステップアップをしていった。そして――15年からエイバルへ。気付けば日本よりも、海外でのプロ生活のほうが長くなっている。
 
 子どもの頃から憧れていたというスペインリーグのエイバルでの2年間、乾は「今が一番楽しくプレーできている」と、充実の日々を送っていると言う。
 
 今回のシリア戦は「(58分から途中出場する際、ハリルホジッチ監督からは)『裏を狙っていけ』と言われた。自由に楽しくプレーできた」と手応えを得ていた。一方で、「人に言われて何かをするよりも、自分のプレーを出せてこそ、一番楽しくできる」と印象的なことを言っていた。高校時代を含め、彼が貫いてきたスタンスが垣間見えるコメントだった。
 
 6月2日に29歳の誕生日を迎えた奇才のアタッカーであり永遠のサッカー少年。2年ぶりに日本代表に復帰した乾が、このまま夢の舞台である来年のロシア・ワールドカップに向けて、チームの貴重なピースとしてハマるか--。そんな期待にも、きっと応えてくれるはずだ。
 
取材・文:塚越 始(サッカーダイジェスト編集部)