テスラ、危険な工場環境を放置 遅過ぎたマスクの「本気」表明

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米電気自動車大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は先週、工場の安全性の問題を真剣に考慮し始めたことを示す声明を発表した。

カリフォルニア州フリーモントにある最新鋭自動車工場での安全性向上に向けた全員の協力を求めるもので、心のこもった訴えに聞こえた。ただ残念ながら、声明が発表されたのは、2014〜16年の同社の安全性評価の低さが公になった後だった。

評価を実施した労働者支援団体のワークセーフ(Worksafe)は、フリーモントのテスラ工場が2014年から16年にかけて提出を求められていた米労働安全衛生局(OSHA)の報告書を基に、テスラ工場での負傷件数が業界標準より31%高かったと結論。ワークセーフの報告書は、マスクCEOが声明を出す1週間前の5月24日に公表された。

製造業者の一部はこの安全情報を自主的に公表しているが、テスラは14〜16年のデータを公表していなかった。同社は今年の第1四半期のデータについては自主的に公表しており、現在の安全性が業界標準よりも高い水準に改善したことを示している。

テスラの工場は、主要な自動車製造施設の中で唯一、労働組合がない。全米自動車労組(UAW)は、テスラの安全面での実績の低さを指摘した上で、従業員に労働組合結成を促している。UAWは、労組があれば解雇を恐れることなく安全基準違反を告発できるため、工場の安全性が高まると主張している。

それも一理あるかもしれない。米紙ニューヨーク・タイムズは今年1月16日、ニューヨーク市の建設現場での死亡者数が過去2年間で31人に上ったと報道。うち29人が労働組合のない建設現場で勤務していた。一方で、労組のある建設現場での死者数はたった2人だった。

マスクはテスラに大きな志を抱き、結果として工場労働者に大きな負担を強いている。同社は2016年に8万台近くの自動車を販売したが、2018年にはその数を50万台に増やす予定だ。

同社工場での労働環境は非常に厳しいと言われてきた。過去3年間、従業員の負傷や勤務中の失神のために救急車が出動した回数は100回を超えたと報じられている。

だがこの間に安全性に関する発表が出されることはなく、マスクは実態が公になった1週間後になってようやく本気を出したようだ。もしマスクが安全性に本気で関心を持っていれば、ワークセーフの報告書というきっかけは必要なかっただろう。

マスクは声明の中で、全ての負傷事故についての報告を義務化すると述べている。ただCEOが労災の報告を受けるのは標準的な慣習であり、特に注目すべき取り組みではない。

マスクはまた、負傷した従業員たち全員と面会し、その従業員と同じ業務を遂行するとも表明。これは業務の詳細な理解が目的とみられる。良い習慣ではあるものの、CEOがやるべきことではない。マスクはこう提案することで、状況を本当に理解できるのは自分しかいないとほのめかしている。

安全性は複雑な問題だ。安全な勤務環境の実現には文化・組織の設計が必要で、スローガンを掲げるだけでは永続的な解決は見込めない。問題解決は、工場の基本的な設計と、従業員が意見を言える環境作りから始まるのだ。

負傷事故を起こす前に管理者が環境の悪化に気づくには、シフト終了時に「今日はどれくらい安全でしたか?」という質問をする方法がある。

「今日は安全な日でしたか?」よりも「今日はどれくらい安全でしたか?」と聞く方が良い。従業員にとっては「安全だ」から「安全ではない」に変えるよりも、5段階評価の5から4に変える方が容易だからだ。

米国では高速道路での死亡事故が近年増加傾向にあり、2016年の死者数は4万人を超えた。私が住むフロリダ州では、怒りっぽく不注意な高齢運転者の影響で、死者数が全国平均より40%多い。より安全に運転できる車があれば、命が救われるだろう。

より安全性の高い自動運転車が何千人という命を救う一方、安全でない工場で安全な車を製造するのは困難だ。私たちは、従業員をバリューチェーン(価値連鎖)の中での最初の顧客として扱い始めるべきなのかもしれない。