それにつけても“カール・ショック”は、あまりに大きすぎた!'68年に日本初のスナック菓子として誕生した「カール」が、8月の生産分をもって全国販売を中止。西日本地域だけで販売することが発表されたのは、5月25日のこと――。マーケティング調査を行う流通経済研究所の鈴木雄高主任研究員が語る。
 
「複数のスーパーのチェーン店で調査した昨年1年間のスナック菓子の売上げランキングで、『カール』は1,200商品中20位。これだけ知名度、ブランド力のあるロングセラー商品の全国販売中止が与えた影響は、スナック菓子業界だけにとどまりません」
 
“カール・ショック”は海も越えた。イタリア在住の漫画家でエッセイストのヤマザキマリさんは「チーズの粉で指先がベトベトする、そんなあなたが好きだった」と題し、本誌ウェブサイトの連載コラム「ヤマザキマリの地球のどこかでハッスル日記」で、こう記した。
 
《カールというスナックはいったんあの表面に触れたら最後、パソコンや携帯どころか本を捲ることも物を取ることも許されず、ただひたすら食べることに専念しなければならなくなるシロモノなのです。そんな秘めたる自己主張性がありつつも、日本のコーン菓子の代表のようなポジションで有り続けた……》
 
コンビニ研究家の田矢信二さんは“手を汚してしまう王道スナック菓子”「カール」の行く末を案じていたという。
 
「私がコンビニの本部社員だった5〜6年前、『カール』を買った女性が『お箸をください』と。理由を聞いてみると『手を汚したくないから、お箸で食べる』とのこと。粉まみれの指でスマホやパソコンを触りたくないという心理があったのです。若い世代の多様化するニーズに合わせた新しいスナック菓子がどんどん発売され、激しい競争が繰り広げられるコンビニの棚から、“定番”であるはずの『カール』は徐々に減っていきました」
 
そんな状況もあり、コンビニではなく、品数をそろえているスーパーを主戦場として選んだ「カール」だが、そこには主婦の厳しい目があった。お菓子勉強家の松林千宏さんが語る。
 
「コンビニは新製品、定番お菓子はスーパーで売っていくのが主流です。スーパーでの購入者は主婦ですから、『子どもに食べさせたい』という購買意欲をかきたてる必要があります。たとえば『かっぱえびせん』は、カルシウム配合というパッケージ表記を強調したり、油を使わず、シンプルな原材料にこだわった『1才からのかっぱえびせん』を展開したりしました。定番商品という安心感に加え、主婦層に受け入れられる工夫が功を奏したのです」
 
「カール」もあぐらをかいていたわけではない。プレミアム感たっぷりの「大人の贅沢カール」や「小つぶカール」など、世相に合わせた商品を世に送り出したが……。
 
「『カール』の楽しみの1つは、チーズあじ1袋300キロカロリーを超える菓子をつい食べきってしまう“罪悪感”だと思っています。また、指についたチーズの粉をなめたりするのもたまらない。でも、カロリーを気にしたり、子どもの“食育”を考えたりするお母さんには、抵抗があったのかもしれません。ほかのスナック菓子はキャラクターを時代や世相に合わせて変えてきましたが、『カールおじさん』は40年以上、不変。味もコンセプトも変えない。そこに魅力を感じる人は確かにいました」(田矢さん)
 
そんな「カール」にとって、昨今の健康ブームという波も、大きかったようだ--。
 
「“健康を気にしてスナック菓子を食べない”という流れが大きく変わったのは'14年ごろ。塩分をカットしたり、カロリーを抑えたりしながらも、味を向上させたスナック菓子が続々と登場したからです。ますます価値観が多様化するなか、国民全員にまんべんなく売れるような商品を作っていくことは難しい時代ともいえるのです」(松林さん)