2017年6月9日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)
カリフォルニア現地時間の6月5日午前(日本時間では6月6日未明)、WWDC 2017のキーノートは、2時間を軽くオーバーする盛りだくさんの内容を、6つの大きな括りで発表して終了した。その全体的な概要は、すでに様々なところで報道されていると思われるので、ここではいつものように絞り込んだ分析を行いたい。英語的な言い回しをすれば、今回の発表にはグッドニュースとバッドニュースが含まれていたといえる。
▷着実な進化を印象付けるOS系の発表

グッドニュースの手始めとしては、(完全に予想されていたことなので驚きはないが)watchOS、macOS、iOSのそれぞれが順当にバージョンアップを受け、秋にはフリーアップデートとして提供されることが明らかとなった。

watchOS 4は、Siriの学習機能を活かした新たなウォッチフェイスを含めた細かな使い勝手の向上をメインに、GymKitによって対応フィットネスマシンの幅が広がり、さらにワークアウトのマネジメントが行いやすくなる。

macOSの新版は、新ファイルシステムAPFSや高効率なビデオコーデックHEVCの採用に加え、グラフィックコアのMetalを機械学習やVRコンテンツ制作にも応用できるように拡張するといった目玉機能を発表した。一方、High Sierraのネーミングやプレゼン中に何度も強調された「リファインメント」という単語からわかるように、現行Sierraの最適化を図り、さらに洗練させることを重視したリリースでもある。過去のOSアップデートでも、「Leopard → Snow Leopard」や「Lion → Mountain Lion」のように安定性を高めるリリースは結果的に評価に繋がったので、High Sierraもそうなることを願っている。

watchOS 4


▷Surfaceを意識したハード刷新

OS系の最大の変化は、iOS 11とiPadの組み合わせによって、マルチタスクやアプリ間でのデータのドラッグ&ドロップなど、よりノートPC的な使い方が可能となる点だが、これはマイクロソフトのSurface Proを強く意識してのことだろう。特に、iCloud Driveの拡張版的な新しいファイル管理アプリによって、PCライクなファイルの管理を可能としたことは、便利な反面、これまでのファイルを意識させないデータハンドリングの放棄につながり、多少の混乱も招きそうだ。

また、iOSデバイスのソフトウェア環境を背景に、世界最大のARプラットフォームが出現すると豪語したARkitは、キーノートを見る限り、内蔵カメラのレンズが1つの(=デュアルレンズによる奥行き検知能力のない)モデルでも機能していた。おそらく、テーブルのエッジや、壁と床の境界線などを検出して空間構成を推測する仕組みと考えられるが、これによりiOS 11をサポートするすべてのiPhoneとiPadが特殊なマーカー不要のAR機能を有するようになるならば、確かに画期的なことである。

一方で、tvOS関連の発表は、OSそのもののバージョンアップではなく、Amazon VideoアプリのtvOS版がいよいよ登場するという告知だった。割とあっさり済まされてはいたが、筆者個人を含めて、AppleTV上で直接、プライムサービスを含むAmazon Videoが楽しめるようになることを待ちわびていたユーザーにとっては大いに歓迎すべき動きで、なぜもっと早く実現できなかったのかが不思議なくらいだ。

iPhoneの10周年には触れられず、当然ながら新ハードのプレビューもなかったが、この話題は秋口にとっておく必要があるためだろう。

同じくグッドニュースの類だが、意表を突いて発表されたiMac Proは、価格設定を含めてマイクロソフトのSurface Studioを牽制する動きに感じられる。ラージスクリーンデバイスにおけるタッチ操作やスタイラスの直接利用に懐疑的なアップルだけに両者の使い勝手は大きく異なるが、このところハイエンドのMac製品がおろそかになっていたので、iMac Proがどこまで健闘するか注目しておきたい(ちなみにアップルは、iMac Proのプレスリリースの中で、新しいMac Proと外付けディスプレイラインを準備中であることも公表している)。

MacBookとMacBook Proラインも中身が刷新されて、CPUがKaby Lakeプロセッサに移行すると共に、価格の見直しが行われてより買い求めやすくなった。


▷HomePodは吉か凶か?

そして、最後のHomePodは、このタイミングで発表できなければホーム市場での存在感を失いかねなかったことから基本的にはグッドニュースなのだが、その実、バッドニュースの側面も感じられた。それは、発売がiMac Proと同じ12月にまでずれ込んでしまうという点だ。

発表内容についても、本来であればアマゾンのEchoに対抗するホームアシスタント機能を前面に押し出すべきところ、あたかもApple Musicのための最高のスピーカーシステムという打ち出し方をしていた。アップルはプライドを捨ててでも正面切って対抗する姿勢を見せ、夏前には発売できる体制を整えるべきだったのではないだろうか。

しかも、Echoが年内にも日本で販売開始される公算が高いにもかかわらず、HomePodは発売時点で英語のみの対応に留まることも、後手に回り過ぎといわざるをえない。

また、オーディオメーカーのHi-Fiスピーカーと、Echoのようなスマートスピーカーを足した価格と比較して、349ドルのHomePodを相対的に安価と印象付ける論法はアップルらしいが、それでは大半の一般消費者はEchoを選び続けそうだ。たとえば、Apple TVの機能も内包して、その価格であれば、十分リーズナブルに感じられるのだが……。

今回、HomePodのプロトタイプ実機はキーノート内では紹介されなかったが、ハンズオンコーナーでは実際にデモも行われた。そこまで出来ているのであれば、なおさら早期の市場投入が望まれる。

HomePodでもプライバシーの保護を強く打ち出していることは大いに評価できるだけに、ここに書き連ねた不安を払拭して余りあるような完成度の実機の登場に期待したい。



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大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。
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