殺人願望を持つ少年の危うい冒険ーージュブナイルとしての『アイム・ノット・シリアルキラー』

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 人を殺したい……そんな危険な願望を抱えていることを自覚し、それでも何とか真っ当な社会生活を営もうと努力している少年・ジョン(マックス・レコーズ)。しかし、殺人への好奇心は日増しに強くなり、セラピストや家族との溝は深まるばかり。

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 アメリカの田舎町クレイトンで、実家の葬儀屋仕事を手伝いながら日々苦悩していたが、ある事件がジョンの運命を大きく変えてゆく。クレイトンで凄惨な殺人試験が起きたのだ。被害者は惨殺された挙句、内臓を奪われていた。ジョンはこの連続殺人事件に興味を持った矢先、ひょんなことから事件の犯人を知ってしまう。連続殺人鬼はジョンの隣に住む穏やかな老人クローリー(クリストファー・ロイド)だった……。

 本作にはジュブナイル映画的な肌触りを覚える。退屈で閉鎖的な日常の中、突如起きた非日常的な事件。それを追う内に覚えてしまった興奮と、抱いてしまった好奇心。これ以上は危険だ、そう理性で判断はできても、内なる衝動は抑えられない。

 己に課していたルールを次々と破り、衝動に突き動かされるままエスカレートする冒険……そんな主人公の姿を見守るワクワクは、まさしくジュブナイルのそれだ。雪に覆われた小さな町でのロケ撮影も効果を発揮し、クレイトンという架空の町を舞台にしていながら、どこかノスタルジックなムードが漂う。

 ただし、少年を突き動かすのは殺人への好奇心であり、追いかける謎も猟奇殺人事件だ。もちろんノスタルジックだけでは終わらない。少年の冒険は一歩間違えれば即「死」に繋がるし、少年自身もいつ「殺人」という禁忌を犯すか分からない。端的に言うなら危なっかしい(感情移入は難しいが、行く末が気になるタイプの主人公だ)。

 初めこそ少年が老人に仕掛けるのは尾行や匿名での挑発など、分相応の地味なものだ。それが事件を追うにつれて、ジワジワと暴力性の高いものへとエスカレートしていく。ジョン役のマックス・レコーズの、常に不穏な空気を纏った佇まいも危なっかしさに拍車をかける。一方の殺人鬼も見逃せない。

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのドク役で有名なクリストファー・ロイドは、圧倒的な存在感でこの謎に満ちた殺人鬼を演じている。妻を心から愛する善き夫の一面を見せたかと思えば、他人を何の躊躇もなく殺してしまう。そんな明らかに異常な彼が、ジョンの「冒険」に気がついたとき、『バック〜』シリーズでも聞きなれた、独特のシャガレ声が殺人鬼のそれに豹変した瞬間、映画の緊張感は一気に上がる。まさに怪演の一言。抑制のきいた監督の演出の下で、このふたりの俳優が奏でる不穏さは見事の一言に尽きる。

 少年と老人。無限の未来が広がる者と、死が迫りつつある者。この二者が交わるとき、自ずとドラマが生まれる。本作『アイム・ノット・シリアルキラー』は、殺人という忌まわしくも蠱惑的な一点で両者を交差させ、ジュブナイル的なドラマとサスペンスを作り上げた。

 しかもその上で、クライマックスにまさかのツイストを加えることで、ある種のヒーローものとして本作を着地させている。本作には原作小説が存在しており(いわゆるヤング・アダルトものらしい)、現在もなおシリーズは続いていると聞く。もし可能なら続編を待ちたい。クレイトンでの危うい冒険は、始まったばかりなのだから。(加藤よしき)