最後の楽園と言われるフィリピン(西部パラワン州)のコロン島は、世界でも人気のダイビングスポット(米フォーブス誌が世界有数のダイバースポットに選ぶ)だ。

 最近では、世界自然遺産を抱える高級リゾートのパラワン本島と並び、セブやボラカイを凌ぐ観光地として人気が高まっている。島の中には熱帯雨林に抱かれた天然秘湯もあり、日本人にも今、注目のリゾート地だ。

 しかし、今、フィリピンでも犯罪とは無縁と思われていたその美しい秘境が、日本人を巻き込んだ殺人事件の舞台に“豹変”し、国内外で衝撃が走っている。

 殺されたのは、茨城県出身の新井康寛さん(24歳)と大阪府出身の井谷勝さん(59歳)の2人。訪れたパラワン本島に連なるコロン島で5月30日、地元のGMGホテルにチェックイン後、行方不明となっていたが、6月5日、同行していたフィリピン人通訳らが逮捕された。

 捜査当局によると、容疑者は日本人2人の頭部を銃で撃ち抜き、遺体は切断し、海に遺棄したと、供述しているという。

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4月にも日本人殺害の事件が発生

 フィリピンでは4月にも、日本人が殺害される事件が起きている。

 4月20日夜、愛知県からフィリピンの首都・マニラを出張で訪れていたパチンコ関連企業「ジェーアンドエー」の社長、水野成規さん(48歳)の乗っていた車が銃撃された。

 殺害された水野さんは、新規事業視察のため、社員ら約20人と、同日午後にフィリピンを初めて訪れたばかりだった。

 水野さんは、マニラ市内の飲食店で社員らと夕食を取った後、4台の車に分乗し、ホテルへの帰路途中、ロハス大通りを走行中に、2人組のオートバイに乗った犯人から、左首に銃撃を受け、即死した。

 フィリピン国家警察によると、犯行に使用されたのは、45口径の大型拳銃。この飲食店に居る間から水野さんらは尾行され、犯人は水野さんの座席を確認後、水野さんらの車列を追跡。

 ロハス大通りの交差点での信号待ちの隙を狙って、水野さんに向かって5発発砲、現金などは何も盗まず、逃走した。当局は、手際の良さから「プロの殺し屋(ヒットマン)」の犯行とみて、捜査を進めている。

 犯行に選ばれたロハス大通りは、日本大使館、米国大使館、さらにはフィリピン中央銀行などが立ち並ぶフィリピンを代表する大通り。ここで堂々と“狙い撃ち”に遭ったことで、現地の邦人は治安の悪いフィリピンへの不安をさらに募らせている。

 しかし、大手メディアは、フィリピンで横行する日本人殺害事件の多くを報道していない。世界には多くの危険地帯があるが、日本人の殺害事件が最も発生しているのは、ここ、フィリピンなのだ。

 過去10年でも、公表されているだけで40件ほどの日本人殺害事件が発生し、この数は海外で日本人が巻き込まれる殺人件数総数の4割近くに上り、フィリピンが世界最悪となっている(外務省海外法人援護統計など)。

日本で報道されない殺人事件も多い

 実際、ここ数カ月、上記以外で日本のメディアが報道していない殺害事件は、警察発表で2件ある。 

 5月14日、世界最小のメガネ猿、ターシャが生息し、観光地としても人気のボホール島で白骨遺体が発見された。

 遺体の傍らに散らばっていた日本のパスポートと免許証、さらに銀行のATMカードなどから、その遺体は74歳の日本人男性(静岡県出身)と見られている。

 警察当局によると、頭部に、弾丸によるとされる穴が左耳後方から右頬の方向に突き抜けてあり、射殺された可能性が高いという。

 さらに、この白骨化した頭部は胴体の30メートルほど下に落ちていて、何者かによって切断されたのか、自然に白骨化して落下したのか、不明という。

 観光地といえども、交通面で不便な当地に、74歳の日本人男性が何を目的に、どのようにたどり着いたか、謎の多い日本人殺害事件と見られている。

 ほかにも、フィリピンに3か所ある世界自然遺産の1つ「地底川」があるパラワン島の世界的な秘境リゾート「エル・ニド」で日本人女性(米国籍も保持)が刺殺される事件が起きた。

 家族が被害者宅で刺殺体を発見、現場には刃渡り約30センチのナイフが落ちていたという。捜査当局は怨恨と強盗の両面で捜査を進めている。

 5月末、殺害された日本人男性2人と同様、パラワン島周辺の高級リゾート地帯で凶悪な殺人事件が連続して発生。パラワン島は最近、「フィリピンの最後の秘境」と大々的に宣伝されていただけに、国内外で大きな動揺が広がっている。

 そもそも、海外の在留邦人数(外務省公表、2016年10月現在)で、フィリピンは16位の約1万7000人ほど。

 1位の米国は約42万人、2位の中国は約12万9000人、最近、政治不安やIS(イスラム国)関連のテロなどが勃発している3位のタイは約7万1000人、14位のインドネシアは約2万人と、いずれもフィリピンよりはるかに在留邦人の割合は多いが、殺人件数(邦人比率とも)ではフィリピンが断トツの1位だ。

 ちなみに、国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、銃による殺人事件は、人口10万人当たりで「フィリピンが9件」で、米国(3件)の3倍というから、その高さに驚くばかりだ。

 フィリピンでは、貧困のため現金や宝石など金銭がらみの強盗殺害が多いが、個人的な恨みを買うことで殺害される場合もある。

わずか100ドルで殺しが依頼できる

 米国植民地時代以来の銃社会で、密造の短銃は1万ペソ(約2万2000円)から簡単に手に入るなど、銃保持が合法化されていることにもよるが、殺害がいとも簡単に決行できる背景には、前述のヒットマン(プロの殺し屋)の存在が大きい。

 実行犯となる暗殺者志願者を探すのは、簡単だという。4年ほど前に日本人殺害で雇われたヒットマンは、10万ペソ(約22万円)だった。これは高額な方とも言われている。

 フィリピン人は米ドルで換算し、米ドルで受け取るのを好む。従って、米ドルなら「100ドルでも、殺すやつは山ほどいる」(フィリピン在住の日本人企業経営者)というから、驚きだ。しかも、その暗殺方法のほとんどが、頭を撃ち抜くという射殺方式だ。

 さらに、特筆すべきは、日本人殺害事件の背後には往々にして、フィリピンに逃れてきた暴力団関係者などの日本人の黒幕がいて、フィリピンはヒットマンと殺害場所を提供しただけ、というケースが多いという。

 フィリピンの邦人の間では「日本人だから、ということで安易に信じてはいけない」というのが常識のようだ。

 実際、先月末、射殺された大阪府出身の59歳と茨城県出身の24歳の邦人男性の殺害事件では現在、実行犯のフィリピン人を雇ったフィリピン在住の長浜博之容疑者(55歳)が殺人容疑で逮捕され、フィリピン警察が取り調べを行っている。同容疑者は、被害者の2人に保険金を2億円ずつかけていたという。

 現地の報道によると、長浜容疑者は、今回、被害者2人の現地でのアテンドをしていて、パラワン州の州都、プエルト・プリンセサ市に、夫が日本人というフィリピン人女性を責任者に据えたコンサルティング会社を経営しているという。

 しかし、実態は、エビなどの養殖海産物の売買業や、日本へパラワン州からダンサーなどのフィリピン人女性を斡旋するビジネスを手がけていたという。

 捜査当局は、保険金目当ての殺人事件として捜査をさらに進めている。

 4月に発生したパチンコ業の日本人社長殺害も、「ビジネス絡みか、暴力団関係か、何かのトラブルで日本人に殺されたのだろう」(フィリピン在住の商社ビジネスマン)という見方が有力だ。

日本人同士のいさかいが殺人に発展

 これまでにも、日本人がフィリピン人のヒットマンを雇い、1億円の保険金を狙った事件があり、2016年5月、日本人を殺害した容疑で日本人3人が逮捕されている。ほかにもこの種の事件は多い。

 日本人同士のトラブルは、ビジネスでの軋轢や利害関係、さらには個人的憎悪に関する場合が多いという。

 さらに、前出のフィリピン在住の日本人企業経営者は、「在留邦人の多くは、日本よりはるかに小さいガチガチの日本人コミュニティの中で生きていかないといけない。日本人村社会でのさまざまな競争や見栄の張り合い、さらには掟に従えなかったりで、メンツを潰され、最終的にやっていけなくなる人も出てくる」と話す。

 つまり、「殺害しているのはフィリピン人だが、依頼しているのは日本人」で、「日本人を殺しているのは日本人」(同上)という場合が増えているという。

 また今回、フィリピンの最後の秘境と日本でも持ち上げられていたパラワン島周辺は、かつて、太平洋戦争中に旧日本海軍の艦船の停泊地として利用され、大戦末期、米軍の攻撃で沈んだ沈没船が何隻もある戦禍の傷跡が残る土地だ。

 親日国と言われるが、個人レベルでは戦時中の植民地支配に対し、感情的になるフィリピン人がいないわけではない。

 さらに、殺傷事件による文化的認識の違いも大きい。

 フィリピンでは、日本や米国の先進国で起こる「通り魔や無差別殺人」といった謂れのない人たちが殺されることの方が罪深いと思われている。

 金銭的、人間関係の揉めごと、怨恨など、犯行理由が明らかになっている場合が多いフィリピンでは、一般家庭での銃装備も、あくまでも「自己防衛」の手段。

 大型モールなどで簡単に手に入るし、ホテルや銀行といった公共の場では、米国と同様、「銃は日常」なわけだ。

 経済成長で格差社会が一層拡大し、麻薬常習犯や犯罪が増加する中、「お金のためなら、何でもする」(フィリピン在住の商社ビジネスマン)という一種の社会的風潮が、「フィリピンの銃社会のリスクを高めても、一掃することはない」、と肝に銘じておかないといけないということだろう。

筆者:末永 恵