【六川亨の日本サッカー見聞録】後半の戦いに可能性の広がったハリル・ジャパン

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▽シリア戦にスカッと快勝して国外・国内組のコンディションを上げて、万全の体勢でイラク戦に臨む。そんな思惑を吹き飛ばすシリアの素晴らしい戦いぶりだった。ロシアW杯2次予選で日本は3-0、5-0と快勝したものの、それは2年前の話。当時、ゴールを決めた本田と岡崎もいまは三十路を超えた。日本が衰えたと言うよりも、シリアの実力が上がったと見るべきだろう。

▽ハリルホジッチ監督は、度重なる視察と要望にもかかわらず、イラク戦の行われるイランのピッチはデコボコの状態と判断し、試合では「ロングボールによる空中戦とこぼれ球を拾う」ことを攻撃の課題に挙げ、守備ではイラクが「ドリブル突破で攻めてくる」と予想し、「ボールを奪える選手、戦いの好きな選手を選んだ」と記者会見で話していた。

▽そして仮想イラクと選んだシリアは(Aグループ4位で13日にマレーシアで中国戦がある)、前線の3選手(4-3-3)だけでなく、両サイドバックもボールを持ったら強引なまでのドリブル突破を仕掛けてくる、もってこいの相手だった。

▽特にボールを奪ってからのドリブル突破によるカウンターは迫力満点。前半30分まではシリアのハイペースな攻守に後手に回り、日本はボールを持っても落ち着いてさばくことができず、バタバタした印象しか残らなかった。

▽ボールを奪いに行ってもデュエルとスピードで負けてドリブル突破を阻止できない。前半16分に左SBアルアジャンがカットインで簡単に酒井宏と吉田をかわしてシュートまで持って行ったシーンには頭を抱えたほどだ。

▽救いは、やはりアジアレベルなのかシュートの精度を欠いたこと。しかしW杯アジア最終予選7試合で3失点という堅守は健在で、前半は日本にチャンスらしいチャンスを作らせなかった。というのも、日本は前半7分に香川が接触プレーで左肩を負傷し、倉田と交代していたこともあったからだ。

▽ハリルホジッチ監督は、時として大胆な起用をする。最終予選の初戦で大島をスタメンで起用したり、オーストラリア戦では丸山を左MFで投入したりした。シリア戦でもCBに代表歴2試合の昌子を起用。他に呼んだCBは初招集の三浦しかいないため昌子のスタメンは十分に予想されたが、負傷の香川に代わって倉田という交代策も意外だった。

▽もしかして指揮官は、特定のプレーメーカーを置かず、どこからでも攻められ、守れるチーム作りを目指しているのかと期待したものの、そう簡単にはいかなかった。日本は前線で大迫が巧みなボールキープから孤軍奮闘し、原口も果敢にドリブル突破からシュートを狙ったものの決定機を作るまでにはいたらない。

▽日本が攻勢に出られたのは後半開始から久保に代え本田を、そして山口に代え井手口を投入してからだった。本田は、最初は右ワイドな攻撃的なポジションで、今野が浅野と交代してからは右インサイドハーフでプレーしたが、持ち前のキープ力、空中戦など体幹の強さ、そして広い視野は相変わらず健在で、サイドチェンジで乾の持ち味を引き出していた。

▽そして代表デビューの井手口と、原口と交代で久々の代表復帰となった乾は、この試合における一番の収穫と言っていい。井手口は中盤の底でタメを作ったり、緩急の変化に富んだパスで攻撃にリズムを生み出したりした。

▽そして乾は、原口のカットインとは対照的に、スペースがないように見えてもタテへの突破でシリアの脅威となっていた。右足首にケガを抱え、出場が危ぶまれた乾がここまでやれたのも意外だったし、活躍を見てしまうと、当然この試合はイラクも視察しているだろうから、秘密兵器として隠しておきたかったという気持ちもある。

▽ただ、逆にイラクは原口なのか乾なのか、スタメン予想に悩むかもしれない。香川の離脱は痛いものの、井手口の活躍により、井手口をアンカーに置き、今野と山口をその前に配置する守備重視の逆三角形の中盤、もしくは今野と山口のダブルボランチで、その前に井手口を置く三角形の中盤など可能性は広がった。

▽あとは、テロ事件の起きたイランで無事に試合が開催されることを祈るばかりだ。【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。